振動測定の誤差要因と対策:取り付け・測定回数・ノイズを制する──現場で正確に測定するための実践ガイド
- 1 日前
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はじめに
測定器の設定を完璧にしても、現場での測定方法が間違っていれば、正確なデータは得られません。
センサーの取り付け方法、測定回数、測定方向、環境ノイズ──これらが測定精度に大きく影響します。同じ設備でも、測定者によって結果が異なることがあるのは、これらの要因が原因です。
この記事では、振動測定の誤差要因を理解し、現場で正確に測定するための実践的な対策を身につけることを目指します。
この記事は、現場で振動測定を実施する技術者・測定精度を向上させたい保全担当者・測定結果のばらつきに悩む実務者の方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
センサー取り付け方法による測定誤差の違いと対策
測定回数と平均化処理によるノイズ低減の実践
環境ノイズ(温度・電気・外乱振動)の影響と対策方法
目次
1. 振動測定の誤差要因:全体像
1.1 誤差要因の分類
振動測定の誤差は、以下の5つに分類されます。
誤差要因 | 影響度 | 対策の難易度 |
センサー取り付け | 大 | 中 |
測定方向・位置 | 中 | 低 |
測定回数(平均化) | 中 | 低 |
環境条件 | 中〜大 | 高 |
測定対象の状態 | 小〜中 | 中 |
1.2 誤差の影響範囲
周波数帯域別の影響:
周波数帯域 | 主な誤差要因 |
低周波(< 10 Hz) | 外乱振動(地盤振動)、センサー取り付け面の傾き |
中周波(10〜1000 Hz) | センサー取り付け方法、測定方向 |
高周波(> 1000 Hz) | センサー取り付け剛性、共振 |
2. センサー取り付けによる誤差と対策
2.1 取り付け方法の種類
振動センサーの取り付け方法は、主に3種類あります。
取り付け方法 | 周波数範囲 | 測定精度 | 作業性 | 主な用途 |
スタッド固定 | DC〜50 kHz | ◎ 最高 | △ 困難 | 固定測定、高精度測定 |
磁石 | DC〜7 kHz | ○ 良好 | ◎ 容易 | 一般診断、巡回測定 |
接着(ワックス等) | DC〜20 kHz | ○ 良好 | ○ 普通 | 一時的な高周波測定 |
ハンドヘルド | DC〜1 kHz | △ 制限あり | ◎ 最も容易 | 簡易点検 |
2.2 スタッド固定
方法: 測定対象にネジ穴を開け、スタッドボルトでセンサーを固定
特徴:
✅ 最も高い測定精度(50 kHzまで測定可能)
✅ 取り付け剛性が高い
✅ 長期間の固定測定に最適
❌ ネジ穴加工が必要(設備への加工が必要)
❌ 取り付け・取り外しに時間がかかる
適用場面:
システム監視(常設センサー)
高周波測定(ベアリング診断 > 10 kHz)
研究開発での精密測定
2.3 磁石取り付け
方法: センサー底面の磁石で測定対象に吸着
特徴:
✅ 取り付け・取り外しが容易(数秒)
✅ 7 kHzまで十分な精度
✅ 設備への加工不要
❌ 磁性体(鉄・鋼)にのみ使用可能
❌ 高周波(> 7 kHz)で精度低下
適用場面:
ハンディ振動計での巡回測定
一般的な機械診断(< 7 kHz)
配管振動測定
注意点:
取り付け面の清掃が重要(サビ・塗装を除去)
磁石の吸着力を確認(簡単に外れないこと)
2.4 接着(ワックス・両面テープ)
方法: ワックス、両面テープ、瞬間接着剤等でセンサーを固定
特徴:
✅ 非磁性体(アルミ、ステンレス、樹脂)にも使用可能
✅ 20 kHzまで測定可能(ワックスの場合)
✅ 取り付け剛性が高い
❌ 取り付けに時間がかかる(数分)
❌ 残留物の除去が必要
適用場面:
非磁性体の測定
一時的な高周波測定
軽量センサー(MEMS型)の固定
ワックスの種類:
ビーズワックス(蜜蝋): 最も一般的、20 kHzまで
シアノアクリレート系接着剤: 高剛性、50 kHzまで
2.5 ハンドヘルド(手持ち)
方法: センサーを手で押し付けて測定(振動測定ではNG行為です)
特徴:
✅ 最も簡便(すぐに測定開始)
❌ 測定精度が低い(1 kHzまで)
❌ 測定者の技量に依存
❌ 再現性が低い
適用場面:
簡易スクリーニング
多数の設備を短時間で点検
異常の有無の確認(定量評価には不向き)
注意点:
一定の押し付け力を保つ
振動方向と平行に押し付ける
長時間測定は困難(手が疲れる)
2.6 取り付け面の準備
どの取り付け方法でも、取り付け面の準備が重要です。
【準備手順】
清掃: ブラシ、ウェス等でゴミ・油を除去
平滑化: サビや塗装を除去(サンドペーパー、ワイヤーブラシ)
脱脂: アルコール等で油分を除去(接着の場合)
平坦性確認: 凹凸がないか確認
よくあるのが、こんなケースです
配管の塗装面にそのまま磁石でセンサーを取り付けて測定。
【問題】
塗装とセンサーの間に隙間が生じる
高周波成分(> 1 kHz)の測定精度が大幅に低下
ベアリング診断(5〜10 kHz)では全く使えないデータになる
【正しい方法】
塗装を削り落として金属面を露出
センサーを磁石で固定
これで7 kHzまで正確に測定可能
3. 測定方向と測定位置の選択
3.1 測定方向の基本
振動は3方向(X・Y・Z軸)に発生します。
測定方向の種類:
水平方向(Horizontal): X軸、Y軸
垂直方向(Vertical): Z軸(重力方向)
軸方向(Axial): 回転軸に平行
基本ルール:
最低2方向(水平・垂直)を測定
より詳細な診断では3方向(X・Y・Z)を測定3.2 測定方向別の特徴
方向 | 特徴 | 検出しやすい異常 |
水平 | アンバランス、ミスアライメントに敏感 | 回転体の不釣り合い |
垂直 | 重力の影響を受ける、ベアリング異常に敏感 | 軸受の摩耗 |
軸方向 | スラスト力、ミスアライメントに敏感 | カップリングのずれ |
3.3 測定位置の選び方
基本原則:
振動源に近い位置で測定
振動伝達経路上で測定ポンプ・モーターの場合:
【推奨測定位置】
駆動側ベアリング(水平・垂直)
反駆動側ベアリング(水平・垂直)
ポンプ側ベアリング(水平・垂直)
モーター本体(任意)
配管の場合:
【推奨測定位置】
スパン中央(最も振動が大きい)
サポート近傍(拘束条件の確認)
エルボ・分岐部(応力集中箇所)
フランジ近傍(緩みの確認)
3.4 測定位置の注意点
避けるべき測定位置:
❌ ボルト・ナットの上(局所共振が発生)
❌ 溶接ビードの上(不均一)
❌ サポート直上(拘束により振動が小さい)
❌ 保温材・カバーの上(振動が減衰)
推奨される測定位置:
✅ 平坦な金属面
✅ 剛性の高い部分(肉厚部)
✅ 振動源に近い位置
✅ アクセスしやすい位置(安全性)
4. 測定回数と平均化処理
4.1 測定回数とは
振動測定では、1つの測定点で複数回測定を行います。
なぜ複数回測定するのか:
ノイズの影響を低減する
測定のばらつきを評価する
間欠的な異常を捉える
4.2 平均化処理とは
複数回測定したデータに対して「平均化処理」を行うことで、ノイズを低減します。
平均化の種類:
4.2.1 線形平均(Linear Averaging)
方法: 各測定のFFTスペクトルを単純平均
平均スペクトル = (スペクトル1 + スペクトル2 + ... + スペクトルN) / N特徴:
✅ ランダムノイズの低減に最も有効
✅ 一般的な振動測定に最適
❌ 過渡的な振動には不向き
用途:
定常運転中の機械振動測定
配管振動測定
ベアリング診断
4.2.2 ピークホールド(Peak Hold)
方法: 各測定の最大値を保持
ピークホールドスペクトル = max(スペクトル1, スペクトル2, ..., スペクトルN)特徴:
✅ 間欠的な振動の検出に有効
✅ 過渡振動の捕捉
❌ ノイズも保持される
用途:
間欠運転の機械
起動・停止時の振動測定
最大振動レベルの把握
4.2.3 指数平均(Exponential Averaging)
方法: 新しいデータに重みを付けて平均
新スペクトル = α × 新測定 + (1-α) × 旧スペクトル特徴:
✅ 連続監視に適している
✅ トレンド変化の追跡
❌ 過去のデータの影響が残る
用途:
リアルタイムモニタリング
長期トレンド監視
4.3 ノイズ低減効果
測定回数N回で線形平均を行うと、ノイズレベルは1/√Nに低減されます
ノイズ低減率 = 1 / √N
例:
4回測定 → ノイズ 1/2 = 50%
16回測定 → ノイズ 1/4 = 25%
64回測定 → ノイズ 1/8 = 12.5%仮に、こんな状況を考えてみてください
騒音の多い工場で配管振動を測定します。1回測定したスペクトルは、ノイズでガタガタしていてピークが不明瞭です。
【測定回数と結果】
1回測定: ノイズレベル 100%(ピーク不明瞭)
4回平均: ノイズレベル 50%(ピークがやや見える)
16回平均: ノイズレベル 25%(ピークが明瞭)
64回平均: ノイズレベル 12.5%(非常に明瞭)
16回平均で十分にノイズが低減され、振動のピーク周波数が特定できました。
4.4 測定回数の決め方
環境別の推奨測定回数:
測定環境 | ノイズレベル | 推奨測定回数 | 総測定時間の例 |
静かな室内 | 低 | 4〜8回 | 40〜80秒(1回10秒) |
一般的な工場 | 中 | 8〜16回 | 80〜160秒 |
騒音の多い現場 | 高 | 16〜64回 | 160〜640秒 |
精密測定 | 極低ノイズ要求 | 64〜128回 | 640〜1280秒 |
4.5 測定回数の注意点
過度な測定回数は、測定時間を長くします
総測定時間 = 1回の測定時間 × 測定回数例:
1回の測定時間 10秒、測定回数64回
総測定時間 = 10秒 × 64回 = 640秒(約11分)
バランスが重要:
ノイズ低減効果と測定時間のトレードオフ
一般的には8〜16回が実用的
5. 環境条件による誤差と対策
5.1 温度による影響
センサーの温度特性:
センサータイプ | 温度範囲 | 温度影響 |
圧電式(ICP型) | -50〜+120℃ | 小(±5%程度) |
MEMS型 | -40〜+125℃ | 中(±10%程度) |
圧電式(電荷出力) | -50〜+200℃ | 小(±3%程度) |
高温環境での対策:
圧電式(電荷出力型)を使用
冷却装置の設置
測定時間を短くする(センサーの加熱を防ぐ)
低温環境での対策:
センサーを事前に環境温度に馴染ませる
結露に注意(電気的短絡の原因)
5.2 電気ノイズによる影響
電気ノイズの発生源:
電動機、インバータ
溶接機、高周波加熱装置
蛍光灯、LED照明
無線機器
対策:
【ケーブルシールド】
シールドケーブルを使用
シールドは片端のみ接地(グランドループ防止)
【ケーブル配線】
電力線と平行に配線しない
交差する場合は直角に
できるだけ短く(< 10 m推奨)
【フィルタ設定】
バンドパスフィルタで高周波ノイズを除去
電源周波数(50/60 Hz)とその倍数をノッチフィルタで除去
5.3 外乱振動による影響
外乱振動の種類:
地盤振動(地震、交通振動)
隣接機械からの振動伝播
床・架台の振動
対策:
【フィルタ設定】
外乱振動の周波数帯域を除去
例: 地盤振動(< 5 Hz)をハイパスフィルタで除去
【測定タイミング】
隣接機械の停止時に測定
交通量の少ない時間帯に測定
【バックグラウンド測定】
測定対象を停止して、外乱振動のみを測定
測定対象の振動データから外乱成分を差し引く
6. 測定対象の状態確認
6.1 機械の荷重・稼働状況
測定時の基本原則:
定常運転状態で測定する確認すべき項目:
回転数が定格値か
負荷が定常状態か
温度が安定しているか
避けるべき測定タイミング:
❌ 起動直後(温度・負荷が不安定)
❌ 負荷変動中
❌ 停止直前
6.2 測定記録の重要性
測定時に記録すべき情報:
項目 | 記録内容 |
測定日時 | 2026年2月11日 14:30 |
測定者 | 氏名 |
測定対象 | ポンプP-101、駆動側ベアリング |
測定方向 | 水平(X軸) |
取り付け方法 | 磁石 |
運転条件 | 回転数2900 rpm、流量50 m³/h |
環境 | 温度25℃、湿度60% |
測定回数 | 16回平均 |
写真記録:
センサー取り付け位置
測定対象の全景
銘板(型式・仕様)
7. まとめ
振動測定の精度は、センサー取り付け方法・測定回数・環境条件で大きく変わります。
センサー取り付けは、周波数範囲に応じて選択します。磁石は7 kHzまで、スタッド固定は50 kHzまで測定可能です。取り付け面の清掃が重要です。
測定回数と平均化は、ノイズ低減に有効です。測定回数N回で線形平均すると、ノイズは1/√Nに低減されます。一般的には8〜16回が実用的です。
環境条件は、温度・電気ノイズ・外乱振動が影響します。シールドケーブル、フィルタ設定、測定タイミングの工夫で対策します。
重要なのは、「完璧な測定環境」ではなく、「誤差要因を理解し、適切な対策を講じる」ことです。
📌 この記事のポイント3つ
センサー取り付けは周波数範囲で選択。磁石(7 kHz)、スタッド(50 kHz)。取り付け面の清掃が重要
測定回数N回の線形平均でノイズ1/√Nに低減。工場環境では8〜16回が実用的
環境ノイズはフィルタ・シールドケーブル・測定タイミングで対策。外乱振動は別途測定して差し引く
💡 明日から現場でできること
センサー取り付け前に必ず取り付け面を清掃する(サビ・塗装を除去)
騒音の多い環境では測定回数を16回以上に設定する
測定時の運転条件(回転数・負荷・温度)を必ず記録する
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