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測定条件の設定:サンプリング周波数・測定時間・フィルタ──測定器で設定する3つのパラメータ

  • 1 日前
  • 読了時間: 10分

はじめに

振動測定器の電源を入れると、最初に現れるのが設定画面です。

サンプリング周波数、測定時間、フィルタ設定──これらを何となく設定していませんか?間違った設定は、高価なセンサーを使っても測定データが無意味になる可能性があります。

この記事では、測定器で設定する3つのパラメータの意味を理解し、測定対象に応じた適切な設定ができるようになることを目指します。

この記事は、振動測定器の設定に悩む技術者・FFT解析の基礎を学びたい保全担当者・測定精度を向上させたい実務者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • サンプリング周波数とナイキスト周波数の関係

  • 測定時間と周波数分解能のトレードオフ

  • フィルタの種類と役割の理解


目次


1. 測定器で設定する3つのパラメータ

1.1 測定器の設定画面

ハンディ振動計でも、システム監視装置でも、振動測定器には必ず設定画面があります。

そこで設定する主要なパラメータは3つです。

パラメータ

意味

影響

サンプリング周波数

1秒間に何回データを取得するか

測定できる周波数の上限が決まる

測定時間

何秒間測定するか

周波数分解能が決まる

フィルタ

どの周波数範囲を測定するか

不要な信号を除去できる

1.2 3つのパラメータの関係

これは、カメラの設定に似ています


  • サンプリング周波数 = シャッタースピード:速いほど速い動きを捉えられる

  • 測定時間 = 露光時間:長いほど細部まで見える

  • フィルタ = カラーフィルター:特定の色(周波数)だけを通す

目的に応じた設定が重要です。


1.3 設定の基本的な流れ

【STEP 1】測定対象の周波数範囲を確認
  「何Hzから何Hzまで測定したいか」を決める
  ↓
【STEP 2】サンプリング周波数を設定
  測定したい最高周波数の2.5倍以上
  ↓
【STEP 3】測定時間を設定
  測定したい最低周波数の10周期以上
  ↓
【STEP 4】フィルタを設定
  不要な周波数帯域を除去

2. サンプリング周波数:何Hzまで測定できるか

2.1 サンプリング周波数とは

定義: 1秒間にデータを取得する回数(単位:Hz、samples/second)

:

  • サンプリング周波数 1000 Hz = 1秒間に1000回データを取得

  • サンプリング周波数 10000 Hz = 1秒間に10000回データを取得

サンプリング周波数が高いほど、高い周波数まで測定できます


2.2 ナイキスト周波数(折り返し周波数)

ナイキストの定理(サンプリング定理):

ある周波数の信号を正確に測定するには、その2倍以上のサンプリング周波数が必要です。

ナイキスト周波数 = サンプリング周波数 ÷ 2

:

  • サンプリング周波数 1000 Hz → ナイキスト周波数 500 Hz

  • つまり、500 Hzまでの振動しか正確に測定できない


2.3 エイリアシング(折り返し誤差)

ナイキスト周波数を超える振動を測定すると、「エイリアシング」が発生します

これは、高周波の振動が、あたかも低周波の振動であるかのように誤って記録される現象です。

日常生活の例で考えると

映画やテレビで、ヘリコプターの回転するローターが逆回転しているように見えることがあります。これがエイリアシングです。

実際には高速で順回転しているのですが、カメラのフレームレート(サンプリング周波数に相当)が不足しているため、逆回転に見えてしまうのです。

振動測定でも同じことが起きます。サンプリング周波数が不足すると、1000 Hzの振動が100 Hzの振動として誤って記録されることがあります。


2.4 アンチエイリアシングフィルタ

エイリアシングを防ぐため、測定器にはアンチエイリアシングフィルタが内蔵されています。

このフィルタは、ナイキスト周波数以上の信号を測定前に自動的に除去します。

実務上の注意点:

多くの測定器では、フィルタの減衰特性を考慮して、実際の測定可能周波数はナイキスト周波数の約80%です。

測定可能周波数 ≈ サンプリング周波数 × 0.4

:

  • サンプリング周波数 2560 Hz → 測定可能周波数 約1000 Hz

  • サンプリング周波数 25600 Hz → 測定可能周波数 約10000 Hz


2.5 サンプリング周波数の決め方

基本ルール:

サンプリング周波数 ≥ 測定したい最高周波数 × 2.5

安全係数として、ナイキスト周波数の2倍ではなく2.5倍を推奨します。

測定対象別の推奨値:

測定対象

最高周波数

推奨サンプリング周波数

配管振動(低周波)

100 Hz

250〜500 Hz

配管振動(一般)

500 Hz

1280〜2560 Hz

一般機械振動

1000 Hz

2560〜5120 Hz

ベアリング診断

10000 Hz

25600〜51200 Hz

2.6 サンプリング周波数設定の失敗例

よくあるのが、こんなケースです

ベアリング診断で、10 kHzまでの高周波振動を測定したいのに、サンプリング周波数を10 kHzに設定してしまう。

【結果】

  • ナイキスト周波数 = 10000 ÷ 2 = 5000 Hz

  • 5 kHz以上の振動はエイリアシングが発生

  • ベアリングの異常周波数(8 kHz)が正しく測定できない


【正しい設定】

  • サンプリング周波数 = 10000 × 2.5 = 25000 Hz以上

  • 推奨: 25600 Hz(2の累乗に近い値)


3. 測定時間:周波数分解能を決める

3.1 測定時間とFFT分解能

FFT(高速フーリエ変換)解析では、測定時間が長いほど、周波数分解能が高くなります。

周波数分解能(Δf):

Δf = 1 ÷ 測定時間

例:
測定時間 1秒 → Δf = 1 Hz
測定時間 10秒 → Δf = 0.1 Hz

周波数分解能の意味:

周波数分解能1 Hzとは、「1 Hz刻みでしか周波数が区別できない」という意味です。

例えば、48 Hzと49 Hzの振動は、周波数分解能1 Hzでは区別できません。両方とも「約48 Hz」として表示されます。


3.2 測定時間と周波数分解能の関係

仮に、こんな状況を考えてみてください

回転機械の振動を測定します。回転数は2880 rpm = 48 Hz。

【測定時間1秒の場合】

  • 周波数分解能 = 1 Hz

  • FFTスペクトル上では、47 Hz、48 Hz、49 Hzが別々のピークとして表示される

  • 回転周波数の2倍(96 Hz)、3倍(144 Hz)も識別できる


【測定時間0.1秒の場合】

  • 周波数分解能 = 10 Hz

  • FFTスペクトル上では、40 Hz、50 Hz、60 Hzのみ表示

  • 48 Hzのピークは「40〜50 Hzの範囲」として曖昧になる

  • 回転周波数の倍数成分が正確に識別できない

測定時間が長いほど、詳細な周波数分析が可能です。


3.3 測定時間の決め方

基本ルール:

測定時間 ≥ 測定したい最低周波数の 10周期分

:

  • 最低周波数 10 Hz → 10周期 = 1秒 → 測定時間は1秒以上

  • 最低周波数 1 Hz → 10周期 = 10秒 → 測定時間は10秒以上

  • 最低周波数 0.5 Hz → 10周期 = 20秒 → 測定時間は20秒以上


3.4 測定対象別の推奨測定時間

測定対象

最低周波数

推奨測定時間

理由

ベアリング診断

100 Hz

1〜5秒

高周波成分が主体

配管振動

10 Hz

10〜30秒

低周波成分を含む

回転機械

10 Hz

10〜20秒

回転周波数とその倍数

建物振動

1 Hz

60〜120秒

極低周波

3.5 測定時間とデータ量のトレードオフ

測定時間が長いほど、データ量が増えます

データ量 = サンプリング周波数 × 測定時間

:

  • サンプリング周波数 5120 Hz、測定時間 10秒

  • データ量 = 5120 × 10 = 51200 ポイント

データ量が多いと:

  • ✅ 周波数分解能が高い(詳細な分析が可能)

  • ❌ メモリ消費が大きい

  • ❌ 処理時間が長い(FFT計算に時間がかかる)


実務上のバランス:

通常、FFT解析ではデータ数を2のべき乗(1024、2048、4096、8192など)に設定します。これは、FFTアルゴリズムが2のべき乗で最も効率的に動作するためです。


4. フィルタ設定:不要な信号を除去する

4.1 フィルタとは

フィルタは、特定の周波数帯域のみを通過させ、不要な周波数成分を除去する機能です。

振動測定では、主に3種類のフィルタが使われます。

フィルタ種類

役割

設定

アンチエイリアシングフィルタ

エイリアシング防止

自動(ユーザー設定不要)

ローパスフィルタ

高周波ノイズ除去

カットオフ周波数を設定

バンドパスフィルタ

特定周波数帯域のみ抽出

下限・上限周波数を設定

4.2 アンチエイリアシングフィルタ

役割: ナイキスト周波数以上の信号を除去し、エイリアシングを防止

設定: 通常、測定器に内蔵されており、ユーザーが設定する必要はありません。サンプリング周波数を設定すると、自動的にナイキスト周波数でフィルタがかかります。


4.3 ローパスフィルタ(Low-Pass Filter, LPF)

役割: 設定した周波数(カットオフ周波数)より高い周波数成分を減衰させる

使用場面:

  • 高周波ノイズの除去

  • 測定対象外の高周波成分の除去

設定方法:

カットオフ周波数 = 測定したい最高周波数 × 1.2〜1.5

: 配管振動で500 Hzまで測定したい場合、カットオフ周波数を600〜750 Hzに設定。

注意点: カットオフ周波数を低く設定しすぎると、必要な信号まで減衰してしまいます。


また,4.2で説明したアンチエイリアシングフィルタの設定がない場合には,手動でローパスフィルタをサンプリング周波数の約半分の周波数で設定します。


4.4 バンドパスフィルタ(Band-Pass Filter, BPF)

役割: 設定した周波数範囲のみを通過させ、それ以外を減衰させる

使用場面:

  • 特定周波数帯域の振動のみを測定したい場合

  • ベアリング診断(1〜10 kHzのみ)

  • 低周波振動の除去(10 Hz以下をカット)

設定方法:

下限周波数: 測定したい最低周波数 × 0.8
上限周波数: 測定したい最高周波数 × 1.2

: ベアリング診断で1〜10 kHzを測定したい場合:

  • 下限周波数: 800 Hz

  • 上限周波数: 12 kHz


4.5 フィルタ設定の実例

ケース1:配管振動測定

【測定対象】

  • 周波数範囲: 10〜500 Hz

  • 低周波の地盤振動(< 10 Hz)が混入

  • 高周波の電気ノイズ(> 1000 Hz)が混入

【フィルタ設定】

  • バンドパスフィルタ: 8 Hz〜600 Hz

  • 効果: 地盤振動と電気ノイズを除去


ケース2:ベアリング診断

【測定対象】

  • 周波数範囲: 1〜10 kHz

  • 低周波の回転周波数成分(< 100 Hz)は不要

【フィルタ設定】

  • ハイパスフィルタ(バンドパスの一種): 800 Hz〜

  • 効果: 回転周波数成分を除去し、ベアリング異常周波数のみ抽出


5. 測定対象別の推奨設定

5.1 ベアリング診断

測定対象の特徴:

  • 周波数範囲: 100 Hz 〜 10 kHz

  • 高周波成分が重要

推奨設定:

項目

設定値

理由

サンプリング周波数

25600 Hz

10 kHz × 2.5倍

測定時間

2〜5秒

高周波主体、データ量抑制

フィルタ

バンドパス 800Hz〜12kHz

低周波ノイズ除去

FFTライン数

6400

分解能約4 Hz

5.2 配管振動測定

測定対象の特徴:

  • 周波数範囲: 10 Hz 〜 500 Hz

  • 低〜中周波成分

推奨設定:

項目

設定値

理由

サンプリング周波数

1280〜2560 Hz

500 Hz × 2.5倍

測定時間

10〜30秒

低周波含む、高分解能

フィルタ

バンドパス 8Hz〜600Hz

地盤振動・高周波ノイズ除去

FFTライン数

1600〜3200

分解能約0.3 Hz

5.3 ポンプ・送風機

測定対象の特徴:

  • 周波数範囲: 10 Hz 〜 2 kHz

  • 回転周波数とその倍数

推奨設定:

項目

設定値

理由

サンプリング周波数

5120 Hz

2 kHz × 2.5倍

測定時間

10〜20秒

回転周波数分解

フィルタ

ローパス 2.5kHz

高周波ノイズ除去

FFTライン数

3200

分解能約0.5 Hz

5.4 建物振動

測定対象の特徴:

  • 周波数範囲: 0.5 Hz 〜 50 Hz

  • 極低周波

推奨設定:

項目

設定値

理由

サンプリング周波数

128〜256 Hz

50 Hz × 2.5倍

測定時間

60〜120秒

極低周波、高分解能

フィルタ

ローパス 60Hz

高周波ノイズ除去

FFTライン数

1600

分解能約0.05 Hz


6. まとめ

振動測定器で主に設定する3つのパラメータは、サンプリング周波数・測定時間・フィルタです。

サンプリング周波数は、測定したい最高周波数の2.5倍以上に設定します。ナイキスト周波数を理解し、エイリアシングを防ぐことが重要です。


測定時間は、測定したい最低周波数の10周期以上に設定します。長いほど周波数分解能が高くなりますが、データ量も増えます。


フィルタは、不要な周波数成分を除去する機能です。アンチエイリアシングフィルタは自動設定され、ローパス・バンドパスフィルタは測定対象に応じて設定します。


重要なのは、「最高の設定」ではなく、「測定対象の周波数範囲に応じた適切な設定」をすることです。


📌 この記事のポイント3つ

  1. サンプリング周波数は最高周波数の2.5倍以上。ナイキスト周波数を超えるとエイリアシング発生

  2. 測定時間は最低周波数の10周期以上。長いほど周波数分解能が高い

  3. フィルタで不要な周波数成分を除去。バンドパスフィルタが最も柔軟


💡 明日から現場でできること

  • 測定対象の周波数範囲(最低〜最高)を確認してから測定器を設定する

  • ベアリング診断なら高サンプリング・短時間、配管振動なら低サンプリング・長時間

  • 地盤振動や電気ノイズが混入する場合はバンドパスフィルタを活用


記事ID: measurement-4

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