固有振動数を自分で計算してみよう:簡易式とExcel活用法
はじめに
「この配管、運転したら揺れるかな?」——設計段階や改造時に、こんな不安を感じたことはありませんか?
配管が揺れやすいかどうかは、「固有振動数」を計算することで、ある程度予測できます。ポンプやコンプレッサーの回転数と固有振動数が近いと共振が起き、想定外の大きな振動が発生するリスクがあります。
本格的な解析ソフトを使わなくても、簡易式とExcelがあれば、おおよその固有振動数は計算可能です。精度は完璧ではありませんが、「危険な領域に入っていないか」をチェックするスクリーニングとしては十分に実用的です。
この記事は、配管設計者・保全技術者・プラントエンジニアの方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
- 配管の固有振動数を簡易式で計算する方法
- Excelを使った実際の計算手順(数値例つき)
- 支持位置や配管径を変えたときの影響の見方
1. 固有振動数とは何か──配管の「揺れやすさ」を数値化する
1.1 固有振動数の定義
固有振動数とは、物体が外力なしに自由に振動するときの周波数です。配管で言えば、「ポンと叩いたときに、配管が自然に揺れる周波数」がこれにあたります。
イメージ: 公園のブランコを想像してください。ブランコには「ちょうど良い揺らし方」があります。そのタイミング(周期)がブランコの固有振動数です。配管も同じで、「揺れやすい周波数」が存在します。
1.2 なぜ固有振動数を知る必要があるのか
ポンプの回転数が900 rpm(毎秒15回転)で運転されているとき、15 Hzの振動が配管に伝わります。一方、配管の固有振動数を計算すると14.8 Hzだったとしましょう。
この場合、励振周波数(15 Hz)と固有振動数(14.8 Hz)がほぼ一致しているため、共振が発生します。最初は小さな振動でも、時間とともに振幅が大きくなり、金属疲労が蓄積して亀裂→破断に至るリスクが高まります。
だからこそ:
- 設計段階で固有振動数を計算
- 機械の励振周波数と比較
- 共振リスクを事前評価
このプロセスが重要です。
1.3 簡易計算の位置づけ
| 方法 | 精度 | 所要時間 | コスト | 用途 |
|---|---|---|---|---|
| 簡易式(本記事) | ±20~30% | 数分~数十分 | 無料 | スクリーニング、初期検討 |
| 有限要素法(FEM) | ±5~10% | 数日~数週間 | 数十万円~ | 詳細設計、最終確認 |
| 実測 | 高精度 | 数時間 | 数万円~ | 既設配管の確認 |
簡易計算の役割:「危険な領域にいるかどうか」の判断、FEM解析が必要かどうかの判断、支持位置の初期検討。完璧な精度は求めず、「おおよその目安」として活用します。
2. 簡易計算の基本式──片持ち梁と両端支持梁
2.1 配管を梁としてモデル化する
支持条件による分類:
- A. 両端支持梁: 両端にサポートがある配管(一般的な配管スパン)
- B. 片持ち梁: 一端が固定、他端が自由(計装配管、小口径枝管など)
- C. 片端支持・片端ガイド: より複雑な支持条件(簡易式では扱わない、FEM推奨)
本記事ではA(両端支持梁)とB(片持ち梁)の2つを扱います。
2.2 両端支持梁の固有振動数(基本式)
fn = (λ² / 2π) × √(EI / mL⁴)
各記号の意味:
- fn: 固有振動数 [Hz]
- λ: 境界条件係数(両端単純支持の場合、λ = π)
- E: ヤング率 [Pa]
- I: 断面二次モーメント [m⁴]
- m: 単位長さあたりの質量 [kg/m]
- L: スパン長さ [m]
実用式:
fn = 15.76 / L² × √(EI / m) [Hz]
2.3 片持ち梁の固有振動数
fn = 0.56 / L² × √(EI / m) [Hz]
係数の違い:
- 両端支持: C ≈ 1.57(= 15.76 / 10)
- 片持ち: C ≈ 0.56
片持ち梁は、両端支持の約1/3の固有振動数になります(同じ長さの場合)。
2.4 材質別の物性値と計算係数
| 材質 | ヤング率 E [GPa] | 密度 ρ [kg/m³] | √(E/ρ) | 相対値 |
|---|---|---|---|---|
| 炭素鋼(STPG) | 206 | 7850 | 162 | 1.00 |
| ステンレス鋼(SUS304) | 193 | 7930 | 156 | 0.96 |
| 塩ビ管(HIVP) | 2.9 | 1400 | 45 | 0.28 |
| アルミニウム | 70 | 2700 | 161 | 0.99 |
塩ビ管の固有振動数は炭素鋼の約1/4。温度が上がるとヤング率が低下し、さらに固有振動数が下がる点に注意。
2.5 実用的な簡易式(炭素鋼・両端支持)
fn ≈ 1500 / L² × D [Hz]
- L: スパン長さ [m]
- D: 外径 [mm]
精度は±30%程度。炭素鋼専用。
3. 実際に計算してみよう──Excelでの計算例
3.1 計算条件の設定
例題条件:
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 配管材質 | 炭素鋼(STPG) |
| 呼び径 | 100A(4インチ相当) |
| スケジュール | Sch40 |
| 外径(D) | 114.3 mm = 0.1143 m |
| 肉厚(t) | 6.02 mm |
| 内径(d) | 102.26 mm |
| スパン長さ(L) | 3.0 m |
| 支持条件 | 両端単純支持 |
| 流体 | 水(満液) |
物性値:E = 206 GPa、ρ_steel = 7850 kg/m³、ρ_water = 1000 kg/m³
3.2 計算手順
Step 1: 断面積
A_steel = π/4 × (D² - d²) = 0.00204 m²
A_water = π/4 × d² = 0.00821 m²
Step 2: 単位長さあたりの質量
m_pipe = 0.00204 × 7850 = 16.1 kg/m
m_fluid = 0.00821 × 1000 = 8.21 kg/m
m_total = 16.1 + 8.21 = 24.3 kg/m
Step 3: 断面二次モーメント
I = π/64 × (D⁴ - d⁴) = 3.01 × 10⁻⁶ m⁴
Step 4: 固有振動数
fn = 15.76 / 3.0² × √((206×10⁹ × 3.01×10⁻⁶) / 24.3)
= 1.751 × 159.8
≈ 280 Hz
3.3 Excelのセル配置例
| セル | 項目 | 式 | 値 |
|---|---|---|---|
| B2 | 外径 D [mm] | (入力) | 114.3 |
| B3 | 肉厚 t [mm] | (入力) | 6.02 |
| B4 | 内径 d [mm] | =B2-2*B3 | 102.26 |
| B5 | スパン L [m] | (入力) | 3.0 |
| B7 | ヤング率 E [GPa] | (入力) | 206 |
| B8 | 密度 ρ_steel [kg/m³] | (入力) | 7850 |
| B9 | 流体密度 ρ_fluid [kg/m³] | (入力) | 1000 |
| B15 | 合計質量 m [kg/m] | =B13+B14 | 24.28 |
| B16 | 断面二次モーメント I [m⁴] | =PI()/64*((B2/1000)^4-(B4/1000)^4) | 3.01E-06 |
| B18 | 固有振動数 fn [Hz] | =15.76/B5^2SQRT((B710^9*B16)/B15) | 280 |
4. パラメータスタディ
4.1 スパン長さの影響(100A炭素鋼、水満液)
| スパン L [m] | 固有振動数 fn [Hz] |
|---|---|
| 1.0 | 2,518 |
| 2.0 | 630 |
| 3.0 | 280 |
| 4.0 | 157 |
| 5.0 | 101 |
| 6.0 | 70 |
固有振動数は L² に反比例。スパンが2倍になると固有振動数は1/4。
4.2 配管径の影響(スパン3.0m、Sch40、水満液)
| 呼び径 | 外径 D [mm] | 固有振動数 fn [Hz] |
|---|---|---|
| 50A | 60.5 | 130 |
| 80A | 89.1 | 175 |
| 100A | 114.3 | 205 |
| 150A | 165.2 | 265 |
| 200A | 216.3 | 325 |
小口径配管は固有振動数が低く、共振しやすい。
4.3 流体の影響(100A、3.0m)
| 流体 | 密度 [kg/m³] | 固有振動数 fn [Hz] |
|---|---|---|
| 空気 | 1.2 | 251 |
| 水 | 1000 | 205 |
| 重油 | 900 | 209 |
| 水銀 | 13600 | 91 |
液体満液では固有振動数が20~30%低下。スタートアップ時は空配管→液体充填で急激に下がる点に注意。
4.4 配管材質の影響(100A相当、3.0m、水満液)
| 材質 | 固有振動数 fn [Hz] |
|---|---|
| 炭素鋼(STPG) | 205 |
| ステンレス鋼(SUS304) | 197 |
| 塩ビ管(HIVP) | 56 |
塩ビ管の固有振動数は炭素鋼の約1/4。共振リスクが非常に高く、支持間隔を1.0~1.5mに短くすることを推奨。
4.5 支持条件の影響(100A、3.0m)
| 支持条件 | 係数 C | 固有振動数 fn [Hz] |
|---|---|---|
| 両端単純支持 | 1.57 | 205 |
| 両端固定支持 | 3.56 | 465 |
| 片持ち | 0.56 | 73 |
実際の配管支持は「完全固定」と「完全自由」の中間。安全側として「両端単純支持」で計算するのが推奨です。
5. 共振回避の判断基準
5.1 励振周波数の特定
| 励振源 | 励振周波数の計算 |
|---|---|
| ポンプ・電動機 | f = rpm / 60 [Hz] |
| 往復動圧縮機 | f = (rpm / 60) × シリンダー数 |
| ベーン通過周波数 | f = (rpm / 60) × ベーン数 |
5.2 共振回避の判定基準(API 618準拠)
|fn - f_excitation| / f_excitation ≥ 0.2
固有振動数と励振周波数の差が、励振周波数の20%以上離れていること。
例:励振周波数が30 Hzの場合
- 許容範囲外(共振リスク): 24 Hz ~ 36 Hz
- 許容範囲: < 24 Hz または > 36 Hz
5.3 判定フローチャート
【Step 1】配管の固有振動数を計算
↓
【Step 2】励振周波数を特定(基本 + 高調波)
↓
【Step 3】分離度を計算
↓
分離度 ≥ 20% → OK
分離度 < 20% → NG(共振リスクあり)
↓
【Step 4】対策検討
- サポート追加(スパン短縮)
- サポート位置変更
- 配管ルート変更
- 減衰材追加
↓
【Step 5】再計算
5.4 対策の効果を計算で確認
例:固有振動数25 Hzの配管(励振30 Hz)→ 分離度17%でNG
対策:スパン中央にサポート追加(6.0 m → 3.0 m × 2スパン)
fn = 1500 / 3.0² × √114.3 ≈ 178 Hz
分離度 = |178 - 30| / 30 = 493% → OK
まとめ
配管の固有振動数は、簡易式とExcelを使えば誰でも計算できます。完璧な精度は期待できませんが、「共振の危険領域にいるかどうか」を判断するスクリーニングとしては十分に実用的です。
📌 この記事のポイント3つ
- 固有振動数は fn ∝ 1/L²: スパンが長いほど低周波数で揺れやすい
- Excelで基本式を組めば、パラメータ変更の影響をすぐに確認できる
- 励振周波数との分離度20%以上を目安に、共振リスクを評価する
💡 明日から現場でできること
- 既設配管のスパン長さを測定し、固有振動数を概算する
- ポンプ回転数と比較し、共振リスクの有無を確認する
- 対策が必要な配管をリストアップし、優先順位をつける