現場で試せる!回転機械の振動診断のやり方
はじめに
「測定の手順はわかった。でも、どこに当てればいいの?どう持てばいいの?」
SOMEQUIPに興味を持っていただいた方から、こういう質問をよく受けます。アプリの操作そのものはシンプルですが、「正しく測れているかどうか」への不安が、最初の一歩を重くすることがあります。
この記事では、SOMEQUIPを初めて使う方が現場ですぐ動けるよう、測定準備から操作手順・結果の読み方・よくある失敗まで、一通りの流れを解説します。
💡 この記事で得られること
- SOMEQUIPの測定手順(準備〜結果確認)の全体像
- 測定精度を上げる「当て方」と「固定方法」の実践的ノウハウ
- 結果画面のゾーン(A〜D)の意味と次のアクションへのつなげ方
1. 測定の全体像を把握する
SOMEQUIPでの1回の測定は、準備を含めても5〜10分で完了します。大まかな流れは以下のとおりです。
| ステップ | 内容 | 所要時間 |
|---|---|---|
| ① 準備 | 設備の運転状態確認・測定点の選定 | 2〜3分 |
| ② 設定 | アプリで設備種別・出力を入力 | 1分 |
| ③ 測定 | スマホを設備に当てて計測開始 | 10秒 |
| ④ 結果確認 | ゾーン評価・グラフを確認 | 1〜2分 |
| ⑤ 記録 | PDFレポートを出力・保存 | 1分 |
準備と設定さえ慣れてしまえば、次回からは③〜⑤の流れだけで済みます。毎日の巡回点検の中に、10秒の計測を組み込むイメージです。
1.1 SOMEQUIPの測定原理
SOMEQUIPはiPhoneの加速度センサーを使って振動を計測します。具体的には以下の処理が行われています。
【Step 1】加速度の取得
iPhoneのセンサーがX・Y・Z軸の3方向で加速度を高速サンプリングします。
【Step 2】速度への変換
取得した加速度を1回積分し、振動速度(mm/s)を算出します。RMS(二乗平均平方根)値として出力することで、瞬間的なノイズに左右されにくい安定した評価値が得られます。
【Step 3】ISO 20816との照合
算出された振動速度を、設備種別・出力クラスに応じたISO 20816の閾値と照合し、Zone A〜Dのいずれかに分類します。
【Step 4】結果表示
ゾーン判定と振動速度の数値・波形グラフが画面に表示されます。
なぜ加速度ではなく速度で評価するのか? 加速度は瞬間的な力の大きさに対応しますが、速度(mm/s)はエネルギーと直結し、設備の「激しさ」を感覚に近い形で表します。ISO 20816が速度基準を採用しているのも、この直感性と実績の高さが理由です。
2. 測定準備:チェックポイント3つ
測定前に確認しておきたいのは、次の3点です。
2.1 設備が定常運転状態にあるか
振動診断は「通常運転中」に行うのが基本です。起動直後や負荷変動中は振動値が不安定になり、正確な評価ができません。ポンプなら適正流量・適正圧力で動いている状態、モーターなら定格負荷が目安です。
2.2 測定点をあらかじめ決めておくか
傾向管理のためには「毎回同じ場所で測る」ことが不可欠です。初回測定時に測定点の写真を撮っておくと、次回以降の迷いがなくなります。
- ベアリングハウジング(軸受け部)の近傍が基本
- 機器本体の端(フランジ・ブラケット)よりも中心付近が安定しやすい
2.3 スマートフォンの通知設定
測定中に着信・通知が入ると計測が乱れる場合があります。測定前に機内モードまたは通知オフを推奨します。
3. アプリの操作手順
3.1 設備情報の入力
SOMEQUIPを起動したら、まず対象設備の情報を設定します。
| 設定項目 | 内容 | 補足 |
|---|---|---|
| 設備種別 | ポンプ・モーター・圧縮機など | 設備の種類によって適用するISO 20816のパートが変わる |
| 出力クラス | 設備の定格出力(kW) | 閾値(Zone境界値)の決定に使用 |
| 設備名・場所(任意) | 記録用の設備識別情報 | PDFレポートに反映される |
設備種別と出力クラスは、評価の閾値に直接影響します。例えば同じ振動速度でも、出力が大きい設備では許容範囲(Zone B)に収まる場合があります。
📌 設備の定格出力がわからない場合は、銘板(ネームプレート)を確認してください。ほとんどの機器で kW または HP の表示があります。
3.2 測定の実行
設備情報を入力したら、スマートフォンを設備に当てて「測定開始」をタップします。
✅ 推奨:設備に直接押し当てる
- ベアリングハウジングやモーターのフレームなど、金属の硬い部分に当てる
- スマートフォンの背面(センサーが内蔵されている面)を設備に密着させる
- 「測定開始」をタップしたら、完了まで絶対に動かさない
⚠️ 避けるべきケース
| NG例 | 問題点 |
|---|---|
| ゴム・防振パッド越しに当てる | 振動が吸収され実際より低い値が出る |
| 外装カバー(薄板)の上から当てる | 外装の共振が加わり実際より高い値が出る |
| 手が震えている / 体重が安定していない | ノイズが増大し再現性が下がる |
🛠 コツ:肘を設備か台に固定して、体のブレを抑えるのが最も簡単な精度向上策です。測定ボタンを押す直前に息を止める人も多いです。
3.3 測定の完了と結果確認
10秒間の計測が終わると、自動的に結果画面に切り替わります。
4. 結果の読み方
4.1 ゾーン評価(A〜D)
最も重要な出力です。現在の振動速度(mm/s RMS)がどのゾーンにあるかを色で表示します。
| ゾーン | 目安の振動速度 | 状態の解釈 | 推奨アクション |
|---|---|---|---|
| Zone A | 最も低い範囲 | 新品・正常。問題なし | 定期的な傾向監視を継続 |
| Zone B | やや高いが許容内 | 長期運転で問題ない範囲 | 監視継続。急激な変化に注意 |
| Zone C | 閾値を超えている | 異常の可能性。要確認 | 詳細調査・補修計画を立案 |
| Zone D | 危険水準 | 機械損傷のリスクが高い | 運転停止または緊急補修を検討 |
閾値の具体的な数値は設備種別・出力クラスによって異なります。SOMEQUIPは設備情報を入力すると該当するISO 20816の閾値を自動的に適用します。
Zone Cや Zone Dが出た場合、すぐに設備を止める必要があるとは限りません。重要なのは「原因を探ること」と「経過を観察すること」です。SOMEQUIPの結果はあくまでスクリーニング(要注意フラグ)であり、詳細な原因分析には専門的な診断が必要な場合があります。
4.2 振動速度の数値(mm/s RMS)
ゾーン評価と合わせて、実際の計測値も確認しましょう。
注目すべきポイント
- 絶対値よりも「変化」に注目する: 前回測定からの増加がないかを確認します。同じZone Aでも、先月1.0 mm/s・今月2.0 mm/sなら「倍増」です。ゾーンが変わらなくても傾向として要注意です。
- 3方向(X/Y/Z軸)を見比べる: どの方向に最も大きな振動が出ているかが、原因の手がかりになります。例えば横方向(ラジアル方向)が大きければアンバランスや芯ズレの可能性、軸方向が大きければスラスト力の問題が考えられます。
4.3 加速度波形グラフ
X・Y・Z各軸の加速度の時系列変化を表示します。専門的な分析には高度な知識が必要ですが、初期判断には以下のパターンが参考になります。
パターンA:規則的な波が連続している
正常または単純な不釣り合い(アンバランス)に多いパターンです。回転周波数に対応した規則的な波形が見られます。
パターンB:突発的なスパイクが不規則に現れる
ベアリングの損傷や異物混入時に見られます。RMS値は低くても、ピーク値が突出して高い場合は注意が必要です。ピーク値÷RMS値(クレストファクター)が3以上のときは要注意の目安です。
パターンC:振れ幅がゆっくり変化する
「うなり(ビート)」と呼ばれる現象で、周波数の近い2つの振動源が干渉しているときに現れます。2台並列運転のポンプや、ベルト駆動の設備に多く見られます。
5. よくある失敗と改善ポイント
5.1 毎回数値がバラバラになる
最も多い原因は「固定方法のばらつき」です。
仮に、測定のたびにスマートフォンを少し違う場所・角度に当てたとしましょう。設備の振動はポイントによって大きく異なるため、場所が1〜2cm変わるだけで数値が2倍以上変わることもあります。
改善ポイント:
- 測定点を写真で記録し、毎回同じ場所に当てる
- スマートフォンの向きも固定する(例:画面を上向きに統一)
- 可能であればマグネットスタンドと金属プレートで固定する
5.2 Zone Cが出たが原因がわからない
SOMEQUIPの判定は「出発点」です。
Zone C以上の判定が出たときは、まず「何が変わったか」を考えます。
- 最近、設備のメンテナンスや部品交換をしたか?
- 負荷条件・流量・回転数に変化はないか?
- 他の箇所でも異音・異臭・温度上昇がないか?
原因を絞り込めない場合は、ベアリングや芯出し(アライメント)の確認から始めるのが現実的なアプローチです。
5.3 まとめ:よくある失敗チェックリスト
| 失敗パターン | よくある原因 | 改善策 |
|---|---|---|
| 数値が毎回バラバラ | 測定点・向きがばらつく | 写真記録+測定点の固定 |
| 値が高すぎる(疑わしい) | 外装カバー・防振材越しに測っている | 金属フレームに直接当てる |
| Zone Cだが原因がわからない | スクリーニング止まりで分析していない | 波形確認+設備履歴の照合 |
| 測定が中断される | 通知・着信が入る | 機内モードを徹底 |
6. まとめ:10秒の計測を習慣にする
SOMEQUIPによる振動診断は、難しい技術ではありません。正しい場所に・正しく当てて・10秒待つ。それだけで、国際規格に基づいた設備状態の評価が得られます。
最初は「この数値は本当に正しいのか?」と不安になるかもしれません。でも、大切なのは絶対値より「変化の傾向」です。同じ場所で定期的に計測を続けることで、「自分の設備の正常値」が見えてきます。
📌 この記事のポイント3つ
- SOMEQUIPの測定は「設備情報入力→設備に当てる→10秒待つ」のシンプルな3ステップ
- 測定精度の鍵は「毎回同じ場所・同じ向き」の再現性——写真記録が最も効果的
- Zone評価はスクリーニングの出発点。Zone C以上が出たら原因調査のきっかけとして使う
💡 明日から現場でできること
- 気になっているポンプ1台を選び、ベアリング付近でSOMEQUIPを測定する
- 測定点の写真を撮ってメモに残し、来月の比較基準を作る
- 結果のゾーンと数値をPDFに出力して、点検日誌や報告書に添付してみる