振動測定の基本:何を、どこで、どう測るか──現場で迷わない測定実践ガイド
- 2月18日
- 読了時間: 14分
はじめに
「配管の振動を測定してください」と言われたとき、あなたはどこにセンサーを取り付けますか?配管の中央?支持部の近く?それとも継手部分?
振動測定は、設備の異常を早期に発見するための強力な手段ですが、測定場所を間違えると、異常があっても検出できません。逆に、適切な場所で測定すれば、小さな異常も確実に捉えることができます。
この記事では、振動測定の「何を・どこで・どう測るか」という3つの基本を、現場ですぐに使える形で解説します。
この記事は、設備保全担当者・振動測定初心者・測定計画を立てる技術者の方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
振動測定で見るべき3つの物理量(加速度・速度・変位)の使い分け
測定点を選ぶ5つの原則と、避けるべき場所
測定方向(軸方向・半径方向・接線方向)の考え方と実践方法
目次
1. 振動測定で「何を」測るか:3つの物理量
1.1 加速度・速度・変位の違い
振動測定では、主に3つの物理量を扱います。
物理量 | 単位 | 特徴 | 適した用途 |
加速度 | m/s²、G | 高周波数の振動に敏感 | ベアリング診断、高速回転機械 |
速度 | mm/s、cm/s | 中周波数域で安定 | 一般的な設備診断、ISO基準 |
変位 | mm、μm | 低周波数の振動に敏感 | 大型低速機械、配管の揺れ |
加速度(Acceleration) は、振動の「激しさ」を表します。高周波数の小さな振動でも大きな値を示すため、ベアリングの転動面にできた微細な傷など、高速で繰り返される現象の検出に適しています。
単位は m/s²(メートル毎秒毎秒)が基本ですが、重力加速度を基準とした G(1G = 9.8 m/s²)も使われます。例えば、「2G」と表示されていれば、重力の2倍の加速度がかかっているという意味です。
速度(Velocity) は、振動の「強さ」を表します。周波数の影響を受けにくく、10Hz〜1000Hzの範囲で安定した評価ができるため、最も汎用的な指標として使われます。
ISO 20816などの国際規格も、速度(mm/s または cm/s)を基準値として定めています。設備診断の現場では、まず速度を測定することが推奨されます。
変位(Displacement) は、振動の「大きさ」そのものを表します。低周波数の大きな揺れを評価するのに適しており、配管の支持部間の揺れや、大型低速回転機械(水車、大型タービンなど)の診断に使われます。
単位は mm(ミリメートル)または μm(マイクロメートル、1μm = 0.001mm)です。
1.2 周波数帯域による使い分け
周波数と物理量の関係を、音楽のイコライザーで考えてみましょう
音楽プレーヤーのイコライザーは、低音・中音・高音を別々に調整できます。振動測定も同じで、周波数帯域によって「見えやすい物理量」が変わります。
低周波数(1〜10 Hz): 変位で見る → ゆっくりした大きな揺れ
中周波数(10〜1000 Hz): 速度で見る → 一般的な機械振動
高周波数(1000 Hz以上): 加速度で見る → 細かく速い振動
典型的なのは、次のような状況です
ポンプが毎分1,200回転(20 Hz)で運転されているとします。この場合、ポンプ本体の振動評価には速度が適しています。しかし、ポンプ内部のベアリングの転動面に傷があると、数千Hzの高周波振動が発生します。この異常を検出するには加速度を測定する必要があります。
一方、ポンプから延びる配管が支持部間で大きく揺れている場合、その揺れは数Hzの低周波数です。この場合は変位を測定することで、揺れの大きさを直接評価できます。
1.3 実務での選択基準
何を測るか迷ったら、まずは「速度」から
現場で判断に迷う場合は、以下の順序で考えます。
まず速度(mm/s)を測定 → 最も汎用的、ISO規格に準拠
高周波成分が気になる → 加速度も測定
低周波の大きな揺れが見える → 変位も測定
最近の振動計は、加速度センサーで測定した信号を数学的に処理(積分)して、速度や変位に変換できます。つまり、加速度センサー1つで3つの物理量すべてを得られるのが一般的です。
ただし、変換処理には限界があり、極端に低い周波数(1Hz以下)や高い周波数(10kHz以上)では誤差が大きくなる点に注意が必要です。
2. 振動測定を「どこで」行うか:測定点の選び方
2.1 測定点選定の5つの原則
振動測定の精度は、「どこで測るか」で大きく変わります。
原則1:振動源に近い場所を選ぶ
異常が発生している場所に最も近い点が、最も明確な信号を得られます。
例えば、ポンプのベアリングに異常があるなら、そのベアリングハウジング(軸受箱)の表面が最適な測定点です。配管から5m離れた場所で測定しても、振動は減衰して検出できません。
原則2:構造的に固い場所を選ぶ
センサーを取り付ける場所は、金属が厚く、剛性が高い部分を選びます。
薄い板金や、柔らかいゴム製の防振材の上では、正確な測定ができません。センサー取り付け面自体が振動で変形してしまうためです。
原則3:振動が伝わりやすい経路上を選ぶ
振動は、連続した金属部品を通じて伝わります。
ボルトで締結された接合部や、溶接接合部は振動が良く伝わります。逆に、ゴムパッキンを挟んだフランジや、防振ゴムを介した支持部では、振動が大幅に減衰します。
原則4:アクセス可能な場所を選ぶ
どんなに理想的な測定点でも、定期的に測定できなければ意味がありません。
高所や狭い場所、高温部、回転部の近くなど、危険な場所は避け、安全に測定できる場所を選びます。継続的な測定を前提とする場合、常設センサーの設置も検討します。
原則5:複数点で測定して比較する
1点だけの測定では、その値が正常か異常か判断できません。
同じ設備の複数箇所(例:ポンプの駆動側と反駆動側)や、同型設備の同じ場所を測定して比較することで、異常の有無を判断します。
2.2 設備別の測定点ガイド
設備種類 | 推奨測定点 | 測定方向 | 備考 |
ポンプ | ベアリングハウジング | 水平・垂直・軸方向 | 駆動側・反駆動側の両方 |
電動機 | ベアリング部、フレーム | 水平・垂直 | 負荷側・反負荷側 |
送風機 | ベアリング部、ケーシング | 水平・垂直・軸方向 | インペラ側も測定 |
配管 | スパン中央、サポート近傍 | 配管軸直角方向 | 長スパン部を優先 |
圧縮機 | シリンダー、ベアリング部 | 往復方向、回転方向 | 高圧側を重点的に |
配管の場合の測定点選定を、もう少し詳しく見てみましょう
配管は、支持部(サポート)で固定されており、支持部と支持部の間の区間(スパン)が自由に動ける状態になっています。
【よくある配管測定のシナリオ】
10mの配管があり、両端にサポートがあるとします(スパン10m)。この配管の振動を測定する場合、**スパンの中央付近(両サポートから5m)**が最も振動振幅が大きくなります。
逆に、サポート直近(サポートから0.5m以内)では、拘束されているため振動振幅は小さくなります。ここで測定すると、配管全体が大きく揺れていても「振動が小さい」と誤判定してしまいます。
したがって、配管の振動測定では:
✅ スパン中央付近を測定(振幅最大)
❌ サポート直近を測定(振幅最小)
ただし、サポート部の緩み診断などでは、あえてサポート近傍を測定する場合もあります。目的に応じた測定点選定が重要です。
2.3 避けるべき測定場所
以下のような場所は、測定に適していません。
❌ 塗装やサビが厚い表面 → センサーと設備の間に柔らかい層があると、振動が正しく伝わりません。測定前に、サンドペーパーやワイヤーブラシで表面を清掃します。
❌ ボルト・ナットの頭 → ボルトは締結力で固定されていますが、微小な隙間があり、高周波振動が減衰します。
❌ 防振ゴム・樹脂部品の上 → 振動を吸収する部材の上では、意図的に減衰された値しか測定できません。
❌ 配管の曲がり部(エルボ)内側 → 流体の流れが複雑で、乱流による局所的な振動が発生します。配管全体の振動とは異なる信号を拾ってしまいます。
❌ 温度が極端に高いまたは低い場所 → センサーには使用温度範囲があります(一般的な圧電式加速度センサーは-50〜+120℃程度)。範囲外では測定誤差が大きくなります。
3. 振動を「どう」測るか:測定方向の考え方
3.1 3つの測定方向
振動は3次元空間で発生するため、どの方向の振動を測るかが重要です。
回転機械の場合、以下の3方向が基本です。
方向 | 説明 | 主な検出対象 |
水平方向(H) | 左右の揺れ | アンバランス、ミスアライメント |
垂直方向(V) | 上下の揺れ | アンバランス、緩み |
軸方向(A) | 軸に沿った方向 | スラスト軸受の異常、ミスアライメント |
「水平」「垂直」は、誰の視点で決まるのか?
測定方向は、回転軸を基準に定義されます。
水平方向:回転軸に垂直で、水平方向の成分
垂直方向:回転軸に垂直で、鉛直方向の成分
軸方向:回転軸に平行な方向
横置きのポンプ(軸が水平)の場合、「水平方向」は左右、「垂直方向」は上下、「軸方向」は軸に沿った前後方向になります。
3.2 回転機械の測定方向
回転機械では、最低2方向(水平・垂直)、できれば3方向(水平・垂直・軸方向)を測定します
これは、異常の種類によって、振動が大きくなる方向が異なるためです。
異常の種類 | 水平(H) | 垂直(V) | 軸方向(A) |
アンバランス | ● | ● | − |
ミスアライメント | ● | ● | ● |
ベアリング損傷 | ● | ● | 〇 |
緩み | ● | ● | 〇 |
軸曲がり | ● | ● | ● |
(●:大きく現れる、〇:現れることがある、−:ほとんど現れない)
仮に、こんな状況を考えてみてください
ポンプの水平方向の振動が5 mm/s、垂直方向が15 mm/sだったとします。もし水平方向しか測定していなければ、「5 mm/sだから問題ない」と判断してしまうかもしれません。
しかし、垂直方向の15 mm/sは明らかに異常値です(ISO 20816では、多くの場合10 mm/s以上は要注意ゾーン)。垂直方向だけが大きいということは、基礎ボルトの緩みや共振の可能性が考えられます。
このように、複数方向を測定することで、異常の種類を推定できるのです。
3.3 配管の測定方向
配管の場合、測定方向の考え方が回転機械とは異なります。
配管の場合:配管軸に対する方向
軸方向:配管が延びる方向
半径方向1:配管軸に垂直な方向(通常は水平または垂直)
半径方向2:配管軸と半径方向1の両方に垂直な方向
典型的なのは、次のような状況です
水平に設置された蒸気配管(東西方向に延びている)があるとします。
軸方向 = 東西方向
半径方向1 = 鉛直方向(上下)
半径方向2 = 南北方向(水平横方向)
配管の振動は、多くの場合重力方向(鉛直下向き)に最も大きくなります。自重で下に垂れ下がろうとする力と、流体の脈動や流体力学的な力が合わさるためです。
したがって、配管測定では鉛直方向を必ず測定し、必要に応じて他の2方向も測定します。
3.4 センサー取り付けの実際
測定方向を正しく設定するには、センサーの取り付け方が重要です。
センサー取り付け方法の種類
方法 | 取り付け時間 | 精度 | 適用周波数 | 備考 |
磁石 | 数秒 | 良 | 〜10 kHz | 最も一般的、鉄系金属のみ |
接着剤 | 数分〜数時間 | 優 | 〜20 kHz | 恒久測定、取り外し困難 |
ワックス | 数十秒 | 良 | 〜5 kHz | 非磁性体に使用可能 |
スタッド固定 | 数分 | 優 | 〜30 kHz | ねじ穴加工が必要 |
手持ち | 即時 | 不可 | 推奨しない | 測定誤差大、緊急時のみ |
磁石取り付けの場合の注意点
磁石は手軽ですが、取り付け面の状態で精度が変わります。
【磁石取り付けの手順】
取り付け面を清掃(サビ・塗装・油を除去)
磁石が密着することを確認(浮きがないか)
センサーの向きを確認(測定したい方向に感度軸を合わせる)
軽く叩いて密着を確認(不安定だと共振する)
特に、センサーの感度軸(測定方向)の向きは、センサー本体に矢印や刻印で示されています。この矢印が測定したい方向を向くように取り付けます。
4. 測定の実践:現場でよくある判断パターン
4.1 ケース1:新規設備の初回測定
状況 新しいポンプが設置され、試運転前の初回測定を行う場合。
測定計画
測定物理量: 速度(mm/s)
測定点: ベアリング部(駆動側・反駆動側の両方)
測定方向: 水平・垂直・軸方向の3方向
測定回数: 各点・各方向で3回測定して平均
記録: 写真・測定条件・温度・回転数を記録
目的 初回測定の値がベースライン(基準値)となります。今後の測定で、この値と比較して異常を判定します。
4.2 ケース2:異常振動の通報があった場合
状況 「配管が大きく揺れている」と現場から報告があった。
測定計画
まず目視: 振動が見えるか、どの方向に揺れているか
測定点: 揺れが最も大きい場所(スパン中央付近)
測定物理量: 変位(mm)と速度(mm/s)の両方
測定方向: 主に鉛直方向、他の方向も確認
周波数分析: FFT解析で振動周波数を特定
判断フロー
変位が5mm以上 → 即座に対策が必要
変位が1〜5mm → 原因調査と監視継続
変位が1mm未満 → 正常範囲の可能性、基準値と比較
配管の変位に関するSwRI振動基準線図と照合
4.3 ケース3:定期点検での測定
状況 年4回の定期点検で、全設備の振動を測定する。
測定計画
測定物理量: 速度(mm/s)
測定点: 事前に決めた定点(ベアリング部、配管スパン中央等)
測定方向: 主方向1〜2方向(通常は水平・垂直)
比較: 前回値・ベースライン・ISO基準値と比較
傾向管理: エクセル等でグラフ化し、増加傾向を監視
効率化のポイント
測定点に番号シールを貼っておく
測定条件を統一(同じ運転状態で測定)
データベース化して履歴管理
4.4 ケース4:ベアリング異常の疑い
状況 ポンプから異音がする。ベアリング異常を疑う。
測定計画
測定物理量: 加速度(m/s² または G)
測定点: 異音が発生しているベアリングハウジング
測定方向: 半径方向(水平・垂直)
周波数範囲: 高周波まで(〜10 kHz)
FFT解析: ベアリング固有周波数を確認
ベアリング異常の特徴
高周波成分(1〜10 kHz)が増加
エンベロープ解析で特定周波数のピーク
加速度の実効値が通常の2〜3倍以上
5. 測定時の注意点とよくある失敗
5.1 よくある失敗パターン
❌ 失敗1:測定方向を間違える
典型的なミス 垂直方向を測定しようとして、センサーを横向きに取り付けてしまった(感度軸が水平を向いていた)。
対策 センサーの矢印マークを必ず確認。不安な場合は、既知の方向(例:重力方向=1G)で動作確認してから本測定を行う。
❌ 失敗2:測定面の準備不足
典型的なミス サビや塗装の上から測定し、本来の振動の半分程度しか測定できなかった。
対策 測定前に、グラインダーやサンドペーパーで金属面を露出させる。磁石がしっかり密着することを確認。
❌ 失敗3:測定条件が毎回異なる
典型的なミス 前回は回転数1,200 rpmで測定、今回は1,000 rpmで測定してしまい、値が下がったので「改善した」と誤判断。
対策 測定条件(回転数、負荷、温度等)を記録し、毎回同じ条件で測定する。条件が変われば振動値も変わるのは当然。
❌ 失敗4:単発測定で判断
典型的なミス 1回だけ測定して「5 mm/s だから問題ない」と判断。実は運転開始直後で、通常運転時は10 mm/sだった。
対策 最低3回測定して平均値を取る。可能なら、複数の運転状態(起動直後、定常運転、停止直前)で測定。
5.2 測定精度を上げるコツ
✅ コツ1:同じ測定状態で測定する
測定は、センサーの取り付け方や力加減で微妙に変わります。取り付け位置,方向など標準化することで、測定誤差を減らせます。
✅ コツ2:環境条件を記録する
温度、湿度、気圧などの環境条件も記録します。特に温度は、機械の熱膨張や粘度変化を通じて振動に影響します。
✅ コツ3:複数センサーで確認
重要な測定では、異なるセンサーや測定器で確認測定を行います。センサー故障や設定ミスを検出できます。
✅ コツ4:写真を残す
測定点の写真、センサー取り付け状態の写真を必ず残します。後で「どこを測定したか」が明確になり、再現性が向上します。
5.3 安全上の注意
振動測定では、回転機械や高温配管に近づくため、安全対策が不可欠です。
⚠️ 回転部への巻き込まれ防止
袖口を締める、ネクタイ・ストラップを外す
カップリングやベルトの近くでは細心の注意
回転中の機械に長い髪を近づけない
⚠️ 高温部でのやけど防止
保温材が外れている配管に注意
測定後のセンサーも高温になっている場合がある
耐熱手袋を着用
⚠️ 高所作業の安全
脚立や足場を使う場合は、2人以上で作業
ヘルメット・安全帯を着用
工具の落下防止(ストラップ付き工具を使用)
⚠️ 電気設備周辺
高圧盤の近くでは、絶縁工具を使用
濡れた手で測定器を触らない
まとめ
振動測定は、「何を・どこで・どう測るか」の3つが揃って初めて意味のあるデータが得られます。
測定物理量は、用途に応じて加速度・速度・変位を使い分けます。迷ったら、まず速度(mm/s)で確認することが基本です。
測定点は、振動源に近く、構造的に固く、アクセスしやすい場所を選びます。
配管ではスパン中央、回転機械ではベアリング部が基本です。
測定方向は、回転機械では水平・垂直・軸方向の3方向、配管では鉛直方向を中心に測定します。
📌 この記事のポイント3つ
測定物理量は「速度」が基本、高周波異常には「加速度」、低周波揺れには「変位」を使う
測定点は「振動源に近い」「構造的に固い」「アクセス可能」な場所を選ぶ
測定方向は、回転機械なら3方向、配管なら鉛直方向を必ず測定する
💡 明日から現場でできること
測定前に、測定物理量・測定点・測定方向を明確にする
測定点の写真を撮り、測定条件を記録する
複数方向・複数回測定して、データの信頼性を高める
記事ID: measurement-01




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