フランジ漏れの“意外な原因”と防ぐコツ
- 2025年7月4日
- 読了時間: 12分
更新日:3月17日
はじめに
配管トラブルの中でも、「フランジ部からの滲み」「ガスケットからの吹き出し」は頻繁に遭遇します。そして多くの人が、まずこう考えます:
「ボルト、緩んでるんじゃない?増し締めしよう!」
しかし、これが間違った対処で状況を悪化させることもあります。増し締めによってガスケットが破壊され、ボルトが伸びて応力が抜け、フランジ面が永久変形してしまう——漏れは止まらず、かえって修理が困難になります。
フランジ漏れの原因は、締付け不良だけではありません。ガスケット材料の選定ミス、配管応力のゆがみ、熱膨張による変形など、複合的な要因が絡んでいます。
この記事では、フランジ漏れの仕組み、ありがちな原因、正しい対処法、そして現場での点検と予防のコツを解説します。
この記事は、保全技術者・配管工事担当者・プラント運転管理者の方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
フランジ漏れのメカニズムと、増し締めが効かない理由の理解
フランジ漏れの原因トップ3と、それぞれの見極め方
現場でできるチェック方法と予防策の具体的手順
目次
1. フランジからの漏れの仕組み──密封メカニズムの基本
1.1 フランジ接続の構造
フランジとは、配管をつなぐための「板状の継手」で、以下の3つの要素で構成されます:
フランジ本体: 配管端部に溶接またはねじ込みで接続
ガスケット: フランジ面間に挟む密封材
ボルト・ナット: フランジを締結し、ガスケットを圧縮
1.2 密封メカニズムの3条件
フランジが正しく密封されるには、以下の3つの条件が必要です:
条件1: ガスケットが適切な荷重で均等に圧縮されている
ガスケットには、密封に必要な最小締付け応力(m値)と、破壊される最大締付け応力があります。
最小締付け応力 < 実際の締付け応力 < 最大締付け応力この範囲内で、かつ全周均一に圧縮されている必要があります。
条件2: 配管自体が無理な力を受けていない(外力なし)
配管に以下のような外力が加わると、フランジ面に歪みが生じ、密封が破れます:
配管の自重による曲げモーメント
熱膨張による引張・圧縮力
振動による繰り返し応力
不適切な配管ルートによる初期応力
条件3: フランジ面が平行で、変形していない
フランジ面の平行度が崩れると、ガスケットの圧縮が不均一になります。
許容平行度:
一般配管: 0.5 mm / フランジ径300 mm
高圧配管: 0.2 mm / フランジ径300 mm
1.3 漏れの3つのパターン
漏れパターン | 発生箇所 | 主な原因 |
にじみ漏れ | ガスケット全周から微量漏れ | 締付け不足、ガスケット劣化、材料不適合 |
ピン漏れ | 特定箇所から集中漏れ | 締付け不均一(片締め)、フランジ面歪み |
噴き出し | 運転中の急激な漏れ | 熱膨張、振動、圧力サージ |
2. 増し締めが効かない本当の理由
2.1 ガスケットの圧縮限界
ガスケットは"潰す限度"がある
ガスケットは、ある一定の荷重で圧縮されることを前提に設計されています。
圧縮限界を超えるとどうなるか:
【Step 1: 正常な圧縮状態】 ガスケットが適切に圧縮され、微細な隙間を埋めて密封している。
【Step 2: 過圧縮(増し締めしすぎ)】 ガスケット材料が破壊され、繊維が抜け、逆に隙間が発生する。
【Step 3: 密封力の喪失】 ガスケットの圧縮応力が低下し、漏れが悪化する。
【Step 4: ボルトの伸び】 過大な締付けトルクによりボルトが塑性変形し、応力が抜ける。
【Step 5: フランジ面の永久変形】 フランジ本体が曲がり、平行度が崩れる。以降、どんなガスケットを使っても密封不可能に。
2.2 増し締めによる悪化の数値例
仮に、こんな状況を考えてみてください
JIS 10K(1.0 MPa)のフランジ(150A)で、ジョイントシートガスケットを使用しているとします。
標準締付けトルク: 約80 N·m(ボルト1本あたり)
初回締付け: 80 N·m → ガスケット締付け応力 30 MPa
状態: 正常に密封
運転開始後、わずかに漏れ発生
増し締め(1回目): 100 N·m → ガスケット締付け応力 38 MPa
状態: 一時的に漏れ停止
数日後、再び漏れ発生
増し締め(2回目): 120 N·m → ガスケット締付け応力 45 MPa
状態: ガスケットの圧縮限界(40 MPa)を超え、材料破壊開始
漏れは止まらず、ボルトが伸び始める
増し締め(3回目): 150 N·m
状態: ボルトが降伏強度を超え、塑性変形
フランジ面が曲がり、永久変形
漏れ悪化、修理不可能
2.3 増し締めが有効な場合・無効な場合
状況 | 増し締めの効果 | 理由 |
初期締付け不足 | ✅ 有効 | ガスケットがまだ圧縮限界に達していない |
ボルトの緩み | ✅ 有効 | 振動等で締付け力が低下している |
ガスケット劣化 | ❌ 無効 | 材料が劣化し、圧縮しても密封できない |
配管応力による歪み | ❌ 無効(悪化) | フランジ面が平行でなく、締めても隙間が残る |
過去に過圧縮 | ❌ 無効(悪化) | ガスケット・ボルト・フランジがすでに破壊 |
重要: 増し締めは"最後の手段"であり、万能ではありません。
3. フランジ漏れの原因トップ3
3.1 原因① 締付け荷重のばらつき(片締め)
なぜ起こるか
フランジのボルト本数が多いほど、手締めでムラが出やすくなります。
特に危険なのは:
1本ずつ順番に締める(隣接ボルトから締める)
対角締めを怠る
トルクレンチを使わず、「感覚」で締める
片締めの影響
よくあるのが、こんなケースです
8本ボルトのフランジ(200A)で、締付け作業を急いでいたため、12時方向から時計回りに順番に締めたとします。
最初に締めた12時方向のボルトは、ガスケットが硬い状態で締めるため、大きなトルクが必要です。
しかし、12時側が締まると、その部分のガスケットが圧縮され、反対側(6時方向)が浮き上がります。
6時方向を締める頃には、ガスケットが傾いており、どれだけ締めても密封できません。
数ヶ月の運転後、6時方向から漏れが発生——こうした事態は珍しくありません。
正しい締付け順序
対角締めの原則:
8本ボルトの場合(時計の文字盤で表示):
1回目(仮締め: 30% トルク):
12時 → 6時 → 3時 → 9時 → 1時30分 → 7時30分 → 4時30分 → 10時30分
2回目(本締め: 70% トルク):
同じ順序で繰り返し
3回目(最終締め: 100% トルク):
同じ順序で繰り返し段階締めの効果:
ガスケットが均等に圧縮される
フランジ面の歪みを最小化
ボルトへの負担を分散
トルク管理の実践
トルクレンチの使用:
プリセット型トルクレンチ推奨
締付けトルクは配管呼び径・圧力クラスで異なる
メーカー推奨値を必ず確認
トルク管理表の例(JIS 10K、ジョイントシート):
呼び径 | ボルト本数 | 締付けトルク [N·m] | 備考 |
50A | 4 | 40 | M16ボルト |
100A | 8 | 80 | M16ボルト |
150A | 8 | 80 | M16ボルト |
200A | 12 | 100 | M20ボルト |
300A | 16 | 120 | M20ボルト |
3.2 原因② ガスケットの劣化・選定ミス
ガスケット材料の種類と特性
材料 | 温度範囲 | 圧力範囲 | 耐薬品性 | 主な用途 |
ジョイントシート | -50~200℃ | < 2 MPa | 良好 | 一般配管、水、空気 |
PTFE(テフロン) | -200~260℃ | < 5 MPa | 優秀 | 薬品、高温蒸気 |
渦巻き型 | -200~600℃ | < 20 MPa | 優秀 | 高圧・高温配管 |
ゴムガスケット | -30~100℃ | < 1 MPa | 限定的 | 低圧配管、水 |
選定ミスの典型例
ケース1: 高温蒸気配管にジョイントシート
典型的なのは、次のような状況です
蒸気配管(150℃、0.5 MPa)のフランジに、在庫にあったジョイントシートガスケット(耐熱温度200℃)を使用したとします。
カタログ上は「使用可能」ですが、実際には:
【設置直後~1ヶ月】 ガスケットは問題なく機能しています。
【1~3ヶ月】 高温にさらされ続けることで、ジョイントシートの結合材(ゴム成分)が徐々に劣化します。弾性が失われ、圧縮応力が低下します。
【3~6ヶ月】 蒸気の圧力変動(起動・停止)により、ガスケットが繰り返し圧縮・膨張を受けます。劣化した材料は復元力がなく、隙間が発生します。
【6ヶ月以降】 フランジから蒸気が漏れ始めます。増し締めしても、ガスケットが硬化しており、密封できません。
正しい対策: PTFEガスケットまたは渦巻き型ガスケットを使用。
再利用の危険性
絶対にやってはいけないこと:
❌ 古いガスケットをそのまま再利用 ❌ 裏返して使う ❌ 複数枚重ねて使う
理由:
一度圧縮されたガスケットは、元の厚さに戻らない
表面に微細な傷や変形が残っている
材料が劣化している(高温・薬品の影響)
原則: ガスケットは毎回新品に交換
3.3 原因③ 配管応力によるゆがみ
配管応力が発生する原因
初期応力(設置時):
配管ルートが設計と異なり、強引に取り付けた
配管の自重を考慮せず、サポート不足
フランジ位置が合わず、無理やりボルト締め
熱応力(運転時):
配管の熱膨張を拘束している
配管とフランジの熱膨張率が異なる(材質違い)
温度勾配により配管が曲がる
振動応力(運転時):
ポンプ・コンプレッサーの振動が伝わる
配管の固有振動数と励振周波数が一致(共振)
流体の脈動による繰り返し応力
配管応力の見極め方
現場での簡易チェック:
目視確認:
フランジ面が平行か(光を当てて隙間を見る)
配管が不自然に曲がっていないか
サポート位置は適切か
触診:
フランジに手を当てて振動を感じるか
配管が熱膨張で動いていないか
測定:
定盤でフランジ面の平行度を測定
ダイヤルゲージで振動振幅を測定
仮に、こんな状況を考えてみてください
配管の熱膨張を計算せず、固定支持を多用したとします。
運転開始後、配管温度が20℃から150℃に上昇すると、3 mの配管で約5 mm膨張します。
しかし、固定支持により膨張が拘束されるため、配管内部に圧縮応力が発生します。
この応力がフランジに伝わり、フランジ面を引っ張ります。
ガスケットの圧縮力が部分的に低下し、漏れが発生します。
運転停止後(冷却時)は漏れが止まるため、「運転中だけ漏れる」という厄介な状況になります。
対策
設計段階:
配管応力解析(FEM解析、Caesar II等)
適切なサポート配置(熱膨張を吸収)
フレキシブル継手の検討
施工段階:
フランジボルトの仮締め状態で、配管に無理な力がかかっていないか確認
「手で押して動くか」を確認(動かなければ初期応力あり)
運用段階:
起動時・停止時の漏れ観察
定期的なフランジ面の平行度測定
4. 現場でできるチェックと予防策
4.1 漏れの早期発見チェックリスト
日常点検での確認項目
確認項目 | 見るポイント | 異常の兆候 |
にじみ | フランジ全周を目視 | 白い粉(結晶)、油跡、変色 |
液滴 | フランジ下部 | 水滴、液体の滴り |
音 | フランジ近傍 | シューという音(ガス漏れ) |
臭い | フランジ周辺 | 薬品臭、ガス臭 |
温度 | 手で触る | 異常な高温・低温 |
振動 | 手で触る | ビリビリとした振動 |
運転条件別のチェックタイミング
運転直後:
熱膨張が最大の状態
この時点で漏れがあれば、熱応力が原因の可能性
数時間後(定常運転時):
熱膨張が安定した状態
この時点で漏れがあれば、締付け不良やガスケット劣化の可能性
停止直前:
冷却による収縮開始
漏れが止まる場合、熱応力が原因
停止後:
常温に戻った状態
この時点で漏れがあれば、締付け不良が原因
4.2 予防保全の実践
トルク管理の徹底
現場での実践方法:
トルク管理表の作成:
配管呼び径・圧力クラス別の標準トルク値
ボルトサイズ・本数の記載
締付け順序図の添付
現場掲示:
フランジ近傍に掲示(ラミネート加工)
作業者が常に確認できる位置
記録の保管:
締付けトルク実測値の記録
作業者名・日時の記録
次回点検時の参考に
ガスケット管理の適正化
ガスケット台帳の作成:
フランジ番号 | 呼び径 | 圧力クラス | 流体 | 温度 | ガスケット材質 | 交換日 | 次回交換予定 |
P-001 | 100A | 10K | 蒸気 | 180℃ | PTFE | 2025/01/15 | 2027/01/15 |
P-002 | 150A | 10K | 水 | 常温 | ジョイントシート | 2024/06/10 | 2026/06/10 |
在庫管理のポイント:
使用頻度の高いサイズは常備
材質別に分類保管
製造日・使用期限の管理(特にゴム系)
配管応力の定期確認
年次点検での測定項目:
フランジ面の平行度:
定盤とシックネスゲージで測定
許容値: 0.5 mm以内(一般配管)
ボルトの伸び:
ボルト長さを測定
初期値と比較し、伸びが5%以上なら交換
振動レベル:
振動計でフランジ近傍の振動測定
基準値: < 5 mm/s RMS(一般配管)
4.3 サーモグラフィの活用
漏れ検知への応用
原理:
流体が漏れると、漏れ箇所の温度が変化
蒸気: 漏れ箇所が高温
冷媒: 漏れ箇所が低温
測定方法:
サーモカメラでフランジ全周を撮影
温度分布の異常箇所を特定
詳細点検で漏れを確認
メリット:
非接触で安全
広範囲を短時間で点検
目視では分からない微小漏れも検知
5. ガスケット材料の選定ガイド
5.1 流体別の推奨ガスケット
流体 | 温度 | 圧力 | 推奨材料 | 避けるべき材料 |
水(工業用水) | < 100℃ | < 1 MPa | ジョイントシート、ゴム | - |
蒸気 | < 200℃ | < 1 MPa | PTFE、膨張黒鉛 | 一般ゴム |
蒸気(高温) | > 200℃ | > 1 MPa | 渦巻き型 | ジョイントシート |
酸・アルカリ | 常温 | < 2 MPa | PTFE | 金属ガスケット |
有機溶剤 | 常温 | < 1 MPa | PTFE、EPDM | 一般ゴム |
油 | < 100℃ | < 2 MPa | NBR、ジョイントシート | EPDM |
塩素ガス | 常温 | < 0.5 MPa | PTFE | 金属(腐食する) |
5.2 ガスケット選定の判断フロー
【Step 1】温度・圧力の確認
↓
運転温度 > 200℃ → 渦巻き型 or 膨張黒鉛
運転圧力 > 5 MPa → 渦巻き型
↓
【Step 2】流体の確認
↓
薬品・溶剤 → PTFE
蒸気 → PTFE or 膨張黒鉛
水・空気 → ジョイントシート
↓
【Step 3】コスト・施工性の確認
↓
低コスト優先 → ジョイントシート
高信頼性優先 → 渦巻き型
↓
【Step 4】最終選定まとめ
フランジ漏れは、締付け不良だけが原因ではありません。ガスケットの圧縮限界、配管応力のゆがみ、材料選定ミス——これらを理解せずに増し締めすると、状況を悪化させます。
📌 この記事のポイント3つ
増し締めは万能ではない。ガスケットには圧縮限界があり、超えると破壊される
フランジ漏れの3大原因は、締付け不均一・ガスケット選定ミス・配管応力
対角締め・段階締め・トルク管理の徹底が予防の基本
💡 明日から現場でできること
フランジのボルト締付けを対角順序で実施し、トルクレンチで管理する
ガスケット台帳を作成し、材質・交換日・次回交換予定を記録する
運転直後と数時間後の2回、フランジ周辺を目視点検する
記事ID: piping-07




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