設備診断技術の全体像──振動・音響・温度・油圧・電流を使い分ける
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はじめに
「設備の状態を知りたいけど、どんな診断方法があるんだろう?」
予知保全を導入しようとすると、振動測定、超音波診断、サーモグラフィ、油圧監視…といった様々な診断技術の名前が出てきます。しかし、どの技術がどんな故障に有効なのか、どう使い分ければいいのか、迷うことも多いのではないでしょうか。
実は、診断技術にはそれぞれ測定する物理量が異なり、得意な故障モードと苦手な故障モードがあります。適切な手法を選ばないと、異常を見逃してしまうこともあります。
この記事は、予知保全の導入を検討している保全担当者・マネージャーの方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
振動・音響・温度・油圧・電流の5つの診断技術の測定原理と特徴の理解
設備タイプ・故障モード別の診断手法選定ガイド
複数手法を組み合わせた診断精度向上の実践方法
目次
1. なぜ複数の診断技術が必要なのか
1.1 「万能な診断技術」は存在しない
人間の健康診断を想像してみてください。血液検査だけでは骨折は見つかりません。レントゲンだけでは血糖値の異常はわかりません。それぞれの検査には得意分野があります。
設備診断も同じです。各診断技術は測定する物理量が異なるため、検出できる異常も異なります。
診断技術 | 測定物理量 | 得意な故障 | 苦手な故障 |
振動診断 | 加速度・速度・変位 | ベアリング劣化、アンバランス | 腐食、電気系統の絶縁劣化 |
音響診断 | 超音波(20-100 kHz) | 漏れ、放電、軸受異常 | 緩やかな劣化、内部腐食 |
温度診断 | 表面温度(赤外線) | 過熱、電気接触不良 | 機械的摩耗、内部劣化 |
油圧診断 | 油圧(MPa) | 油圧低下、ポンプ劣化 | 電気系統、構造劣化 |
電流診断 | 駆動電流(A) | 電動機の電気的故障 | 配管、非電動設備 |
1.2 診断技術の選択を誤ると起こること
よくあるのが、こんなケースです。
ある工場では、回転機械の予知保全として振動測定を導入しました。月1回、すべてのポンプとモーターに振動計を当てて測定しています。
しかし、ある日突然、電動機が焼損して停止しました。振動測定では異常が検出されていなかったのです。
実は、この電動機の故障原因は「固定子巻線の絶縁劣化」でした。電気的な故障は機械振動として現れにくく、振動測定だけでは発見できなかったのです。もし電流測定や温度診断(サーモグラフィ)を併用していれば、温度上昇や電流バランスの異常として事前に検知できた可能性があります。
このように、診断手法が測定する物理量と故障モードが合っていないと、異常を見逃してしまうリスクがあります。
1.3 複数手法の組み合わせによる「診断の網」
理想的な予知保全は、複数の診断技術を組み合わせて「診断の網」を張ることです。
振動診断: 機械的な動的異常(ベアリング、回転体、継手緩み)をキャッチ
音響診断: 流体漏れ・放電などの音響異常をキャッチ
温度診断: 過熱・熱的異常をキャッチ
油圧診断: 油圧システムの圧力異常をキャッチ
電流診断: 電動機の電気的異常をキャッチ
これらを組み合わせることで、様々な故障モードに対応できる重層的な監視体制が構築できます。
2. 5つの診断技術の原理と特徴
2.1 振動診断(Vibration Analysis)
測定物理量と原理
測定物理量: 加速度(m/s²)
設備に加速度センサー(圧電式など)を取り付け、振動の大きさと周波数を測定します。振動波形をFFT(高速フーリエ変換)で周波数分析することで、故障の種類と場所を特定します。
これは、車の異音診断と似ています。「ガタガタ」という音の周期から、タイヤのバランス不良かエンジンの問題かを判断するのと同じ原理です。
特徴
項目 | 内容 |
測定対象 | 回転機械(ポンプ、モーター、ファン、圧縮機)、配管、構造物 |
検出可能な故障 | ベアリング劣化、アンバランス、ミスアライメント、緩み、配管の継手異常 |
測定周期 | 月1回〜連続監視 |
コスト | 低〜高(ハンディ型5万円〜、常設型50万円〜/点) |
専門性 | 中〜高(FFT解析のスキル必要) |
回転機械への適用
ベアリング劣化は、振動診断の最も得意とする分野です。ベアリングが摩耗すると、転動体と軌道面の接触で特定周波数の振動が発生します。この周波数(BPFO、BPFI等)を分析することで、外輪・内輪・転動体のどこが劣化しているかまで特定できます。
アンバランスは、回転体の質量分布が不均一な状態で、回転数の1倍周波数(1×RPM)に大きなピークが現れます。ファンの羽根に異物が付着したり、ローターが偏摩耗したりすると発生します。
ミスアライメントは、軸の芯ずれで、回転数の2倍周波数(2×RPM)が顕著になります。ポンプとモーターの軸心がずれていると、カップリング部分に異常な力が加わり続けます。
配管系統への適用
配管は回転機械ではありませんが、振動診断は有効です。
配管振動の発生源:
内部流体の乱流(高流速配管: 5 m/s以上)
ポンプ・圧縮機からの脈動伝播
ウォーターハンマー(急閉弁時の圧力波)
流体誘起振動(カルマン渦)
振動測定で検出可能な配管の異常:
異常モード | 振動の変化 | 検出方法 |
フランジボルト緩み | 振動振幅の増大(特に接続部) | 定点測定で振幅比較 |
サポート劣化 | 固有振動数の低下 | ハンマー打撃試験 |
内部異物・スケール | 流動特性の変化 → 振動パターン変化 | FFT解析,長期トレンド監視 |
ただし、配管振動の測定は回転機械と比べて難易度が高くなります。
振動レベルが小さい:
回転機械: 通常1-10 mm/s程度
配管: 通常0.1-1 mm/s程度 → 高感度センサーが必要
環境振動の影響:
床振動、周辺機器の振動が伝わる → ベースライン(正常時)との比較が重要
測定点の選定:
回転機械: ベアリング位置(明確)
配管: サポート近傍、フランジ、エルボ(要選定)
適用の注意点
振動診断は動的な機械的異常に強いですが、静的な劣化(腐食、亀裂)や電気的故障は検出困難です。また、低速回転(100 rpm以下)の設備では振動が小さすぎて測定が困難です。
2.2 音響診断(超音波診断: Acoustic / Ultrasonic Testing)
測定物理量と原理
測定物理量: 超音波(20 kHz〜100 kHz)
超音波センサーで、人間の耳には聞こえない高周波音を検出します。気体漏れ、液体漏れ、放電、軸受異常などが超音波を発生させます。
蛇口から水が漏れているとき、「シュー」という音がするのと同じ原理です。漏れは乱流を生み、その乱流が高周波音を発生させます。
特徴
項目 | 内容 |
測定対象 | 配管、バルブ、電気設備、ベアリング |
検出可能な故障 | エア漏れ、蒸気漏れ、真空漏れ、放電、摩擦音 |
測定周期 | 3ヶ月〜年1回 |
コスト | 中(20万円〜50万円) |
専門性 | 低〜中(直感的に使える) |
主要な適用例
エア漏れ診断は、音響診断の代表的な用途です。圧縮エアの配管系統でエア漏れが発生すると、漏れ箇所から超音波が発生します。超音波探知器で配管を走査すると、漏れ箇所で音量が急増するため、すぐに特定できます。
仮に、こんな状況を考えてみてください。
工場の圧縮エア配管に、直径1 mmの小さなピンホールが発生しているとします。人間の耳には聞こえないレベルの漏れですが、年間では相当量のエアが漏れています。
圧力: 0.7 MPa(7 kgf/cm²)
漏れ量: 約0.2 m³/min
年間稼働: 6,000時間(250日 × 24時間)
コンプレッサー電力原単位: 0.15 kWh/m³
年間エネルギー損失: 0.2 m³/min × 60 min/h × 6,000 h × 0.15 kWh/m³ = 10,800 kWh
電気代を25円/kWh とすると、年間27万円の損失です。
超音波探知器(30万円)で20箇所の漏れを発見・修理すれば、年間数百万円のコスト削減が可能です。診断機器のコストは、わずか数ヶ月で回収できます。
放電診断も重要な用途です。高圧電気設備で部分放電(コロナ放電)が起きると、40 kHz前後の超音波が発生します。放電は絶縁劣化の初期症状であり、早期発見すれば大規模な故障を防げます。
適用の注意点
音響診断は環境ノイズの影響を受けやすく、騒音の大きい現場では精度が下がります。また、密閉容器内部の異常は検出できません。配管の内部に異物が詰まっても、外部から超音波を拾うことは困難です。
2.3 温度診断(赤外線サーモグラフィ: Thermography / Infrared Testing)
測定物理量と原理
測定物理量: 表面温度(℃)
赤外線カメラで設備の表面温度分布を可視化します。すべての物体は温度に応じた赤外線を放射しており、これをカメラで捉えて温度マップを作成します。
人間の体温計と同じ原理ですが、接触せずに遠くから測定でき、面全体の温度分布が一度に見られるのが利点です。
特徴
項目 | 内容 |
測定対象 | 電気設備、配管、断熱材、モーター、構造物 |
検出可能な故障 | 過熱、接触不良、断熱劣化、負荷不均衡 |
測定周期 | 3ヶ月〜年1回 |
コスト | 中〜高(簡易型30万円〜、高性能200万円〜) |
専門性 | 中(温度パターンの読解スキル) |
主要な適用例
電気接触不良は、温度診断の最も効果的な適用例です。配電盤のブレーカー端子が緩んでいると、接触抵抗が増加し、その部分が発熱します。通常50℃程度のところが80℃を超えていれば、接触不良の兆候です。
よくあるのが、こんなケースです。
工場の主幹ブレーカーの端子が経年劣化で緩んでいたとします。
【劣化のプロセス】
Step 1(初期): 端子の緩み発生
接触抵抗: 正常時の2倍
温度: 50℃ → 65℃(+15℃)
Step 2(3ヶ月後): さらに緩みが進行
接触抵抗: 正常時の5倍
温度: 65℃ → 90℃(+25℃)
Step 3(6ヶ月後): 臨界状態
接触抵抗: 正常時の10倍
温度: 90℃ → 130℃(+65℃)
絶縁材が劣化し始める
Step 4(放置した場合): 発火・溶断
温度: 150℃以上
端子が溶断 → 工場全体が停電
サーモグラフィで定期的に点検していれば、Step 1〜2の段階で「このブレーカーだけ異常に温度が高い」と早期発見できます。締め直すだけで済み、数万円の工事費で大規模停電を防げます。
断熱材劣化の診断も重要です。配管の保温材が劣化すると、表面温度が上昇します。例えば、140℃の蒸気配管が正常なら外装表面は40℃程度ですが、保温材が劣化している箇所は70℃を超えます。サーモグラフィで配管全体を撮影すれば、劣化箇所が「ホットスポット」として浮かび上がります。
これは、家の断熱材が劣化して冬に窓から熱が逃げるのと同じ現象です。断熱性能が低下すると、エネルギーロスが増大します。
適用の注意点
温度診断は表面温度しか測定できないため、内部の異常は検出困難です。ベアリングが内部で摩耗していても、外側のケーシングが厚ければ表面温度は大きく上昇しません。
また、太陽光や周囲の放射熱の影響を受けるため、測定条件の管理が重要です。屋外設備を日中に測定すると、太陽熱で全体が高温になり、異常箇所が判別しにくくなります。早朝や曇天時の測定が推奨されます。
2.4 油圧診断(Hydraulic Pressure Monitoring)
測定物理量と原理
測定物理量: 油圧(MPa、kgf/cm²)
圧力センサー(圧力変換器)を油圧回路に取り付け、油圧を連続または定期的に測定します。油圧の低下、変動、脈動などから、ポンプの劣化、漏れ、バルブ異常を検出します。
これは、人間の血圧測定と同じです。血圧が低下すれば循環不全、変動が大きければ不整脈の可能性があります。
特徴
項目 | 内容 |
測定対象 | 油圧ポンプ、油圧シリンダー、油圧モーター、バルブ |
検出可能な故障 | ポンプ磨耗、内部漏れ、バルブ固着、配管漏れ |
測定周期 | 連続監視〜月1回 |
コスト | 低〜中(圧力計5万円〜、データロガー付き30万円〜) |
専門性 | 低〜中(圧力値の判定は比較的容易) |
主要な適用例
ポンプ劣化診断では、吐出圧力の低下を監視します。
油圧ポンプの正常時の吐出圧力が15 MPaだとします。ポンプ内部のピストンやシリンダーが摩耗すると、内部漏れが増加し、吐出圧力が低下します。
正常時: 15 MPa
軽度摩耗: 14 MPa(約7%低下)
中度摩耗: 13 MPa(約13%低下)
重度摩耗: 12 MPa以下(要交換)
圧力センサーで連続監視していれば、圧力低下のトレンドから、ポンプのオーバーホール時期を予測できます。
油圧変動診断も重要です。油圧回路に異物が混入したり、バルブが固着したりすると、油圧が不安定に変動します。圧力の標準偏差を監視することで、こうした異常を早期に検出できます。
工作機械の油圧システムでは、油圧の安定性が加工精度に直結します。油圧変動が大きくなると、位置決め精度が低下し、製品不良が増加します。圧力監視により、品質問題の予兆を捉えられます。
適用の注意点
油圧診断は油圧システム専用で、電動機や回転機械の機械的故障は検出できません。また、圧力センサーの取り付け位置が重要です。ポンプ直後、アクチュエーター直前など、複数箇所で測定することで、どこに異常があるかを特定できます。
2.5 電流診断(Motor Current Signature Analysis: MCSA)
測定物理量と原理
測定物理量: 駆動電流(A)、電流波形
電動機の駆動電流をクランプ式電流センサーで測定し、電流波形を周波数分析します。電動機の故障(固定子巻線の短絡、回転子バーの破損、偏心等)は、電流波形に特徴的なパターンとして現れます。
これは、心電図と同じ発想です。心臓の電気信号から心臓の異常を検出するのと同様に、電流信号からモーターの異常を検出します。
特徴
項目 | 内容 |
測定対象 | 電動機(誘導電動機、同期電動機) |
検出可能な故障 | 巻線短絡、ローターバー破損、偏心、負荷異常 |
測定周期 | 月1回〜連続監視 |
コスト | 中〜高(クランプ式10万円〜、常設型100万円〜) |
専門性 | 高(電気工学の知識必要) |
主要な適用例
ローターバー破損は、電流診断の代表的な適用例です。誘導電動機のローター(かご形回転子)のバーが破損すると、回転磁界が不均一になり、電源周波数の周辺にサイドバンドが現れます。
具体的には、電源周波数 ± 2×すべり周波数の位置にピークが出ます。
例えば:
電源周波数: 50 Hz
すべり: 2%(= 1 Hz)
サイドバンド: 50 Hz ± (2 × 1 Hz) = 48 Hz と 52 Hz
FFT解析で48 Hzと52 Hzに異常なピークが検出されたら、ローターバー破損の疑いが強いです。
ローターバーが破損すると、回転が不安定になり、振動や騒音も増加しますが、電流診断が最も早く検出できます。
負荷異常の検出も可能です。ポンプが閉塞(キャビテーション、固形物詰まり)を起こすと、負荷トルクが変動し、電流値が不安定になります。電流の平均値だけでなく、標準偏差や変動係数を監視することで、負荷異常を早期発見できます。
例えば:
正常時: 電流50 A、標準偏差1 A
キャビテーション発生時: 電流50 A、標準偏差5 A
平均電流は変わらなくても、変動が大きくなることで異常を検出できます。
適用の注意点
電流診断は電動機専用で、他の機械には適用できません。また、インバーター(可変周波数駆動装置)で駆動されている電動機の場合、高調波ノイズが多く、解析が困難になることがあります。商用電源(50/60 Hz)で直接駆動されている電動機の方が、電流診断に適しています。
3. 設備タイプ別の診断技術適用マトリクス
3.1 設備タイプ×診断技術の適合表
設備タイプ | 振動 | 音響 | 温度 | 油圧 | 電流 | 推奨組み合わせ |
ポンプ(機械式) | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐ | - | ⭐⭐ | 振動+温度 |
油圧ポンプ | ⭐⭐ | ⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐ | 油圧+振動 |
モーター | ⭐⭐⭐ | ⭐ | ⭐⭐⭐ | - | ⭐⭐⭐ | 振動+電流 |
圧縮機 | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐ | - | ⭐⭐ | 振動+音響 |
ファン | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐ | - | ⭐⭐ | 振動+音響 |
減速機 | ⭐⭐⭐ | ⭐ | ⭐⭐ | - | - | 振動+温度 |
配管系統 | ⭐⭐ | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐⭐ | - | - | 振動+音響+温度 |
電気設備 | - | ⭐⭐ | ⭐⭐⭐ | - | - | 温度+音響 |
油圧システム | ⭐ | ⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐⭐ | - | 油圧+温度 |
(⭐⭐⭐: 最適、⭐⭐: 有効、⭐: 限定的、-: 不適)
3.2 各設備タイプの診断戦略
ポンプ(機械式)の診断戦略
推奨: 振動+音響+温度
ポンプは回転機械なので、振動診断が基本です。ベアリング劣化、アンバランス、ミスアライメントを検出できます。
音響診断を追加すると、シール部からの漏れや、キャビテーション(気泡発生)を早期発見できます。キャビテーションは特有の高周波音を発生させるため、超音波探知器で検出可能です。
温度診断では、ベアリングハウジングの温度上昇を監視します。正常時50℃程度が、70℃を超えたら潤滑不良やベアリング劣化の兆候です。
モーターの診断戦略
推奨: 振動+温度+電流
モーターは機械的故障と電気的故障の両方があるため、複数手法の併用が重要です。
振動: ベアリング劣化(機械系)
温度: 巻線過熱、端子接触不良(電気系)
電流: ローターバー破損、巻線短絡(電気系)
この3つを組み合わせることで、ほぼすべての故障モードをカバーできます。
特に、50 kW以上の大型モーターや、連続運転が要求されるモーターには、この3点セットが推奨されます。
配管系統の診断戦略
推奨: 音響+温度+振動
配管診断では、音響診断と温度診断が主力です。
音響診断: 蒸気漏れ、エア漏れ、液体漏れの検出
温度診断: 保温材劣化、内部流体の温度異常
振動診断: フランジボルト緩み、サポート劣化、内部異物
特に、蒸気配管では音響+温度の組み合わせが有効です。蒸気漏れは超音波で検出でき、保温材劣化はサーモグラフィで一目瞭然です。
振動診断も補助的に使用し、継手部分の緩みやサポートの劣化を監視します。
4. 故障モード別の診断技術選定
4.1 故障モード×診断技術の適合表
故障モード | 振動 | 音響 | 温度 | 油圧 | 電流 | 最適手法 |
ベアリング劣化 | ⭐⭐⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐ | - | - | 振動 |
歯車摩耗 | ⭐⭐ | ⭐ | ⭐ | - | - | 振動+音響 |
アンバランス | ⭐⭐⭐ | - | - | - | ⭐ | 振動 |
ミスアライメント | ⭐⭐⭐ | - | ⭐ | - | - | 振動 |
ボルト緩み | ⭐⭐ | ⭐⭐ | - | - | - | 振動+音響 |
漏れ(気体) | - | ⭐⭐⭐ | - | - | - | 音響 |
漏れ(液体) | - | ⭐⭐ | ⭐⭐ | ⭐⭐ | - | 音響+温度+油圧 |
過熱 | - | - | ⭐⭐⭐ | - | ⭐ | 温度 |
電気接触不良 | - | - | ⭐⭐⭐ | - | - | 温度 |
巻線短絡 | - | - | ⭐⭐ | - | ⭐⭐⭐ | 電流 |
ローターバー破損 | ⭐ | - | - | - | ⭐⭐⭐ | 電流 |
ポンプ磨耗 | ⭐ | - | ⭐ | ⭐⭐⭐ | - | 油圧 |
腐食 | - | - | ⭐ | - | - | (目視・UT) |
4.2 診断技術が苦手な故障モード
診断技術にも限界があります。以下の故障モードは、一般的な診断技術では検出困難です。
故障モード | 理由 | 代替手法 |
腐食 | 振動・温度・電流に現れにくい | 超音波厚さ計、目視点検 |
疲労亀裂 | 表面に出るまで検出不可 | 磁粉探傷、浸透探傷 |
内部異物 | 密閉容器内は観察不可 | X線透過、内視鏡 |
緩やかな劣化 | 変化が小さく判定困難 | 長期トレンド管理 |
例えば、配管の腐食は振動測定では分かりません。音響診断も、ピンホールから漏れが始まるまで検出できません。腐食の診断には、超音波厚さ計で肉厚を直接測定するか、目視点検で錆の状態を確認するのが確実です。
5. 複数手法の組み合わせ戦略
5.1 なぜ複数手法を組み合わせるのか
単一の診断技術には「死角」があります。複数手法を組み合わせることで、診断の網羅性と確実性が向上します。
網羅性の向上: 異なる物理量を測定する手法を組み合わせることで、様々な故障モードを検出できます。振動(機械的)、温度(熱的)、電流(電気的)の3つを組み合わせれば、ほぼすべての故障要因をカバーできます。
確実性の向上: 1つの手法で異常の兆候が出たら、別の手法でクロスチェックすることで、誤検知を減らせます。
5.2 組み合わせパターン
パターン1: 基本診断 + 詳細診断
ステップ1: 月1回の簡易診断(振動、音響)で異常をスクリーニング
ステップ2: 異常が検出されたら、詳細診断(温度、油圧、電流)で原因を特定
この2段階アプローチにより、コストを抑えながら確実な診断ができます。
具体例:
月1回: 振動測定で全設備をスクリーニング
異常検出時: 温度診断で過熱箇所を特定、電流診断で電気的故障を確認
パターン2: 相互補完型
得意分野が異なる手法を組み合わせ、診断の死角をなくします。
具体例(モーター診断):
振動診断: ベアリング劣化を検出
電流診断: ローターバー破損を検出
温度診断: 巻線過熱を検出
この3つで、機械系・電気系の両方をカバーできます。
パターン3: 確認型
1つの手法で異常を検出したら、別の手法で確認します。
具体例: 振動測定でベアリングの異常を検出 → 温度測定でベアリングハウジングの温度上昇を確認
両方で異常が確認されたら、確実にベアリング交換が必要と判断できます。
5.3 重要度に応じた診断レベル設定
すべての設備に同じ診断を行うのは非効率です。設備の重要度に応じて、診断レベルを変えます。
重要度 | 診断レベル | 手法の組み合わせ | 頻度 |
A(最重要) | レベル3 | 振動+音響+温度+油圧+電流 | 月1回+連続監視 |
B(重要) | レベル2 | 振動+温度 or 振動+音響 | 3ヶ月ごと |
C(一般) | レベル1 | 振動 or 音響 | 半年〜年1回 |
Aランク設備(生産ラインの心臓部)には、複数手法を併用し、一部は常時監視します。
Cランク設備(予備機、補助設備)には、最小限の診断で十分です。
6. 導入時のコストと優先順位
6.1 診断技術別のコスト比較
診断技術 | 初期投資 | ランニングコスト | ROI期間目安 |
振動診断(ハンディ) | 5-30万円 | 低 | 短(1年未満) |
振動診断(常設) | 50-200万円/点 | 中 | 中(2-3年) |
音響診断 | 20-50万円 | 低 | 短(1年未満) |
温度診断 | 30-200万円 | 低 | 中(1-2年) |
油圧診断 | 5-30万円 | 低 | 短(1年未満) |
電流診断 | 10-100万円 | 低 | 中(2-3年) |
6.2 導入の優先順位
予算が限られている場合、以下の順序で導入するのが現実的です。
Phase 1: 基本診断の確立(予算50万円)
振動診断(ハンディ型): 20万円
→ 回転機械の基本診断
音響診断: 30万円
→ 漏れ検出
この2つで、最も頻度の高い故障(ベアリング劣化、漏れ)の大部分をカバーできます。
Phase 2: 補完診断の追加(予算100万円)
温度診断(サーモグラフィ): 50万円
→ 電気系統・断熱材の診断
油圧診断(圧力センサー×複数点): 50万円
→ 油圧システムの監視
Phase 3: 高度診断の導入(予算200万円〜)
常設振動センサー(重要設備): 50万円/点 × 3点
→ 連続監視
電流診断: 50万円
→ 電動機の電気的故障
6.3 投資対効果の試算
仮に、こんな状況を考えてみてください。
各種センサー類を導入し,故障を未然に予知,メンテナンスをすることで突発故障を防いだ例です.
【前提条件】
突発故障1回あたりの損失: 500万円(修理費50万円 + 生産損失450万円)
現状の故障発生確率: 年間20%(平均5年に1回)
現状の年間期待損失: 500万円 × 20% = 100万円/年
Phase 1投資効果の計算
【Phase 1投資: 50万円】
振動診断(20万円)でベアリング故障の予防確率: 70%
音響診断(30万円)で漏れの早期発見確率: 80%
総合的な故障予防効果: 75%
導入後の故障確率: 20% × (1 - 75%) = 5%
導入後の年間期待損失: 500万円 × 5% = 25万円/年
年間削減効果: 100万円 - 25万円 = 75万円/年
ROI: 75万円 ÷ 50万円 = 1.5倍/年
回収期間: 50万円 ÷ 75万円 = 約8ヶ月
より現実的な個別事例
【ケーススタディ: 冷却水ポンプ】
故障シナリオと確率:
ベアリング故障: 年間15%(平均6-7年に1回) 損失: 300万円(修理費20万円 + 生産停止2日×140万円/日)
シール漏れ: 年間10%(平均10年に1回) 損失: 80万円(修理費30万円 + 軽微な生産影響50万円)
現状の年間期待損失: = 300万円 × 15% + 80万円 × 10% = 45万円 + 8万円 = 53万円/年
診断技術導入:
振動診断(20万円): ベアリング故障の80%を予防 → ベアリング故障確率: 15% → 3%
音響診断(30万円): シール漏れの90%を早期発見 → シール漏れ確率: 10% → 1%
導入後の年間期待損失: = 300万円 × 3% + 80万円 × 1% = 9万円 + 0.8万円 = 約10万円/年
年間削減効果: 53万円 - 10万円 = 43万円/年
投資額: 50万円ROI: 43万円 ÷ 50万円 = 0.86倍/年
回収期間: 50万円 ÷ 43万円 = 約1年2ヶ月
この例では、約1年で投資回収できる計算になります。
7. よくある誤解と注意点
❌ 誤解1: 高価な診断機器ほど優れている
→ 正解: 設備と故障モードに合った技術が最適です。100万円のサーモグラフィより、20万円の振動計の方が回転機械には有効なことも多いです。
❌ 誤解2: 1つの診断技術で全ての故障を検出できる
→ 正解: 各技術は測定する物理量が異なるため、得意・不得意があります。重要設備には複数手法の組み合わせが必須です。
❌ 誤解3: 診断機器を導入すれば自動的に故障を防げる
→ 正解: 測定しただけでは意味がありません。データを正しく解釈し、適切に対応する体制とスキルが必要です。
❌ 誤解4: すべての設備に同じレベルの診断を行う
→ 正解: 設備の重要度に応じて診断レベルにメリハリをつけることが、コスト効率の良い保全につながります。
まとめ
設備診断技術には、それぞれ測定する物理量と得意な故障モードがあります。単一の技術に頼るのではなく、設備タイプと故障リスクに応じて複数の手法を組み合わせることで、確実な予知保全が実現できます。
📌 この記事のポイント3つ
振動・音響・温度・油圧・電流の5つの診断技術は、測定する物理量が異なり、それぞれ得意な故障モードが異なる
設備タイプと故障モードに応じて適切な診断手法を選定し、複数手法を組み合わせることで診断の死角をなくす
故障確率を考慮した期待損失で投資効果を計算し、重要度に応じた診断レベル設定により限られた予算で最大の効果を得る
💡 明日から現場でできること
重要設備10台をリストアップし、現在使っている診断技術を確認する
各設備で検出したい故障モードを明確にし、適切な診断技術を選定する
Phase 1として振動診断と音響診断の導入を検討し、故障確率を考慮したROI試算を作成する
記事ID: maintenance-10




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