測定技術

配管振動評価基準の選び方──SwRI・ISO・API・VDIの使い分けガイド

Sun Mar 08

測定対象・業種・地域規格の有無から、SwRI・ISO 20816・API・VDIのどれを使うべきか導く判断フローチャート

配管振動評価基準の選び方──SwRI・ISO・API・VDIの使い分けガイド

はじめに

振動測定を実施したとき、最初に直面するのが「どの評価基準を使うか」という問題です。

SwRI、ISO 20816、API、VDI 3842など、複数の基準が存在し、それぞれ判定値や適用範囲が異なります。間違った基準を選ぶと、過剰に厳しい判定になったり、逆に危険な状態を見逃したりするリスクがあります。

この記事では、各基準の特徴を理解し、「どの基準をいつ使うべきか」の判断基準を提供します。

この記事は、配管振動測定を実施する技術者・評価基準の選定に悩む保全担当者・判定値の妥当性を確認したい実務者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • SwRI・ISO 20816・API・VDI 3842の特徴と適用範囲の違い
  • 各基準の判定値比較と厳しさの順序
  • 業種・配管タイプ別の基準選択フローチャート

1. 配管振動評価基準の全体像

1.1 なぜ複数の基準が存在するのか

配管振動の評価基準が複数存在するのは、以下の理由によります。

  • 対象の違い: 配管 vs 回転機械
  • 業種の違い: 石油化学 vs 一般製造業
  • 地域の違い: 北米 vs 欧州 vs 日本
  • 開発時期の違い: 1970年代 vs 2000年代

重要なのは、「どれが最良か」ではなく、「どれが自分の用途に合うか」です。

1.2 4つの主要基準の概要

基準発表年対象測定値主な採用地域
SwRI1976年配管全般変位(Peak-to-Peak)世界中
ISO 208162016年〜回転機械速度(RMS)世界中
API 618/6101970年代〜石化プラント配管・機器速度(RMS、Peak)北米・石化業界
VDI 38422004年配管全般速度(RMS、Peak)欧州

1.3 基準選択の重要性

間違った基準を選ぶと...

  • 過剰に厳しい基準 → 不要な対策工事、コスト増
  • 緩すぎる基準 → 疲労破壊の見逃し、突発停止

典型的なのは、次のような状況です。

配管振動を測定して5 mm/s(RMS)だったとします。

  • SwRI線図(変位で評価): 周波数50Hzなら変位約0.045mm(P-P)≒1.8 mil → Design線未満(問題なし)
  • ISO 20816(回転機械用): 5 mm/s → 中型機械(Group II)の柔支持ならZone C(要注意)、剛支持ならZone D(危険)※本来は配管には使わない基準
  • VDI 3842(配管用): ガイドラインの目安値と比べて評価(具体的な値はガイドライン本文で確認)

同じ測定値でも、基準によって判定が異なります。正しい基準を選ぶことが重要です。

2. SwRI配管振動評価線図

2.1 SwRIとは

開発者・機関:

  • Southwest Research Institute(米国)
  • 開発者: J.C. Wachel、C.L. Bates、Walter W. Von Nimitz
  • 発表年: 1976年

開発の背景: 1970年代、石油化学プラントで配管の振動による疲労破壊が頻発していました。当時、定量的な評価基準がなく、SwRIは現場の経験則を体系化して、実用的な評価ツールを作成しました。

2.2 評価方法

評価軸:

  • 縦軸: 変位(MILS Peak-to-Peak)
    • 1 mil = 0.001 inch = 0.0254 mm
  • 横軸: 周波数(Hz)

判定ゾーン(4段階):

Design Zone(設計目標範囲)
    ↓
Marginal Zone(境界領域・監視推奨)
    ↓
Correction Zone(修正が必要)
    ↓
Danger Zone(危険・即座対応)

測定方法:

  1. 振動を加速度センサーで測定
  2. FFT解析で周波数スペクトルを取得
  3. 各周波数成分の変位(Peak-to-Peak)を算出
  4. SwRI線図上にプロット
  5. ゾーン判定

2.3 SwRIの特徴

長所:

  • ✅ 配管専用の評価基準(最も実績が豊富)
  • ✅ 簡便(変位と周波数のみで判定)
  • ✅ 世界中で広く採用(業界標準)
  • ✅ 50年近い運用実績

短所:

  • ❌ 配管形状を考慮していない(サイズ・肉厚・材質)
  • ❌ 経験則ベース(理論的裏付けが弱い)
  • ❌ 保守的すぎる場合がある

開発者Wachelの自己批判(1981年):

Wachelは後の論文で次のように述べています:

> 「この基準線図は、現場の運転担当者の経験に基づいて作成されたものである。統計的な意味では平均的または典型的な配管に適用できるが、配管の形状(サイズ、肉厚、その他の幾何学的制約など)を考慮していないため、基本的には正確ではない(fundamentally incorrect)。」

それでも、50年にわたり業界標準であり続けるのは、実用性と安全性のバランスが優れているからです。

2.4 SwRIの適用範囲

適している用途:

  • 一般的な配管全般(口径・流体問わず)
  • スクリーニング評価(第1次評価)
  • 経験則を重視する場合

適していない用途:

  • 詳細な応力評価(FEM解析が必要)
  • 特殊な配管(高R/t比、小口径分岐管など)
  • 石油化学プラントとは違う設計思想のプラント配管

3. ISO 20816:回転機械用の国際規格

3.1 ISO 20816とは

正式名称: ISO 20816(Mechanical vibration — Measurement and evaluation of machine vibration)

対象: 回転機械(ポンプ、圧縮機、送風機、タービンなど)

重要: ISO 20816は配管振動の評価基準ではありません。回転機械の筐体振動を評価する規格です。

3.2 評価方法

評価軸:

  • 速度(mm/s RMS)のみ
  • 周波数依存なし(広帯域RMS値で評価)

判定ゾーン(4段階):

Zone A(良好)
    ↓
Zone B(許容)
    ↓
Zone C(短期運転のみ)
    ↓
Zone D(危険)

測定方法:

  1. 回転機械の軸受ハウジングで測定
  2. 10 Hz〜1000 Hzの広帯域RMS速度を算出
  3. Zone境界値と比較

3.3 ISO 20816の特徴

長所:

  • ✅ 国際標準(世界共通)
  • ✅ 理論的裏付けが強い
  • ✅ 機械の種類・サイズ別に詳細な基準値

短所:

  • ❌ 配管には直接適用できない
  • ❌ 変位評価ができない

3.4 配管への適用可否

結論: 配管振動の評価には使わない

ISO 20816は、回転機械の筐体振動を評価する規格です。配管は回転機械ではないため、この基準を直接適用するのは不適切です。

ただし、ポンプ・コンプレッサー本体の振動評価には使用します。

よくある誤解:

> 「ISO 20816は国際規格だから、配管にも使えるだろう」

→ これは間違いです。配管はSwRIやVDI 3842を使いましょう。

4. API 618/610:石油化学プラント向け規格

4.1 APIとは

API(American Petroleum Institute)は、米国石油協会が発行する規格です。

  • API 610: 遠心ポンプ(および接続配管)
  • API 618: 往復動圧縮機(および接続配管)

対象: 石油・石油化学・天然ガス産業のプラント設備

4.2 API 610(遠心ポンプ)

配管振動の評価基準

API 610では、ポンプ本体の振動基準は規定されていますが、接続配管の振動基準は直接規定されていません。

ただし、以下の要求があります:

ノズル荷重(Nozzle Loads):

  • 配管からポンプへの力・モーメントを制限
  • ノズルサイズ別に許容値を規定

ポンプ本体の振動基準:

  • 3.0 mm/s RMS(全周波数)
  • 2.0 mm/s RMS(個別周波数)

実務での使い方: 配管の振動評価には、SwRIを併用するのが一般的です。

4.3 API 618(往復動圧縮機)

配管振動の評価基準

API 618では、脈動による配管振動について、以下を規定:

周波数 < 10 Hz:

  • 変位: 0.5 mm Peak-to-Peak (20 mil p-p)

周波数 10〜200 Hz:

  • 速度: 32 mm/s Peak-to-Peak (1.25 in/s p-p)

※これらは、設計段階の解析で予測した配管振動に対する許容値として規定されているものです。

注意: API 618はPeak-to-Peak値で評価します。SwRIやVDIのRMS値とは異なります。

換算式(正弦波の場合):

Peak-to-Peak ≒ 2√2 × RMS ≒ 2.83 × RMS

4.4 API基準の特徴

長所:

  • ✅ 石油化学プラントでの実績
  • ✅ 設計段階で予測した配管振動に対する許容値が、周波数帯ごとに明確に規定されている

短所:

  • ❌ 一般製造業では過剰に厳しい場合がある
  • ❌ 適用範囲が限定的(石油化学プラントのみ)

5. VDI 3842:ドイツ発祥の配管振動規格

5.1 VDI 3842とは

VDI(Verein Deutscher Ingenieure): ドイツ技術者協会

  • 発行年: 2004年
  • 正式名称: VDI 3842 "Vibrations in piping systems"
  • 対象: 配管振動全般

5.2 評価方法

VDI 3842は、SwRIと似た考え方ですが、速度(mm/s RMS)で評価します。

評価指標:

  • RMS速度: 定常運転時の評価
  • ピーク速度: 過渡的振動の評価

目安値: 配管振動の振動速度について目安値(Orientierungswerte)が示されており、測定値をこれと比べて評価します。具体的な値や適用条件はガイドライン本文で確認してください(本記事では、原文で確認できていない数値の掲載は控えています)。

5.3 振動の目安値だけでなく、応力まで評価する

VDI 3842の特徴は、振動の目安値による判定だけでなく、振動現象と加振源の整理、配管系の荷重を求める計算方法、測定方法、振動と振動による応力の評価方法、対策までを1つのガイドラインにまとめている点です。目安値を超えた場合に、計算による応力評価へ進むという使い方ができます。

5.4 VDI 3842の特徴

長所:

  • ✅ 計算・測定・応力評価・対策までを体系的に扱っている
  • ✅ 目安値を超えた場合に、応力評価で詳しく確認できる
  • ✅ 過渡振動も評価可能

短所:

  • ❌ 日本ではあまり使われていない
  • ❌ SwRIより複雑

6. 4基準の徹底比較

6.1 総合比較表

項目SwRIISO 20816API 618VDI 3842
対象配管全般回転機械コンプレッサー配管配管全般
測定値変位(P-P)速度(RMS)速度(P-P)速度(RMS、Peak)
周波数依存✓✗✓✓
形状考慮✗✓(機械種類別)△✓(計算による応力評価)
国内採用度◎ 最多○(機械用)△(石化のみ)✗ 稀
実績50年10年50年20年

6.2 判定値の比較(同じ配管で評価)

仮に、こんな状況を考えてみてください。

100mm配管、周波数50Hz、振動速度5 mm/s(RMS)の場合。

【Step 1: 変位に換算】

変位(P-P) = 速度(RMS)× 2√2 / (2πf)
            = 5 × 2.83 / (2π×50)
            = 0.045 mm ≒ 1.8 mil

【Step 2: 各基準で判定】

基準判定値判定結果
SwRI1.8 mil、50HzDesign線未満(問題なし)
ISO 20816(配管は対象外)-
API 6185 mm/s(RMS)許容範囲(< 11.3 mm/s RMS換算)
VDI 38425 mm/s(RMS)ガイドラインの目安値と比べて評価

この例では、SwRI・API 618とも「許容範囲」という判定になります。一方、回転機械用のISO 20816に当てはめると「要注意〜危険」に見えてしまいます。配管の振動に回転機械の基準を使うと、必要以上に厳しい判定になる典型例です。

6.3 厳しさは単純に並べられない

どの基準が「厳しい」かは、比べる線や周波数によって変わります。たとえば、API 618の許容値(32 mm/s P-P ≒ 11.3 mm/s RMS)は、周波数30HzのSwRI線図で見ると、Marginal線(約10.5 mm/s RMS相当)とほぼ同じ高さです。Design線(約5.0 mm/s RMS相当)と比べればゆるく、Correction線(約21 mm/s RMS相当)と比べれば厳しい、ということになります。

「この基準のほうが厳しいから安全」と一律に考えるのではなく、それぞれの基準が何を対象に、どの段階(設計時の予測か、運転中の測定か)の評価として作られているかを押さえて選ぶことが大切です。

6.4 併用の可否

基本方針: 一度決めた基準を継続使用

異なる基準を混在させると、トレンド管理ができなくなります。

併用が推奨されるケース:

  • SwRI(配管) + ISO 20816(ポンプ本体)
  • API 618(配管) + API 610(ポンプ本体)

7. 実務での基準選択ガイド

7.1 選択フローチャート

【Step 1: 測定対象は?】
 ├─ 配管 → Step 2へ
 └─ 回転機械(ポンプ・コンプレッサー本体)→ ISO 20816

【Step 2: 業種は?】
 ├─ 石油化学プラント → API 618/610を検討
 └─ 一般製造業 → SwRI(第1選択)

【Step 3: 欧州規格準拠が必要?】
 ├─ Yes → VDI 3842を検討
 └─ No → SwRI

【Step 4: 特殊な配管?】
 ├─ 小口径分岐管、高R/t比 → 詳細解析(FEM)
 └─ 一般的な配管 → SwRI

7.2 業種別の推奨基準

業種推奨基準理由
石油化学プラントAPI 618/610 + SwRIAPI規格準拠が望ましい
一般製造業SwRI実績豊富、汎用性高い
発電プラントSwRI + ISO 20816配管と機械で使い分け
欧州輸出設備VDI 3842欧州規格準拠が求められる

7.3 配管タイプ別の推奨

配管タイプ推奨基準注意事項
主配管(> 2")SwRI標準的な適用
小口径分岐管(< 2")SwRI + 詳細解析SwRIは保守的すぎる可能性
往復動圧縮機配管API 618脈動考慮が必要
ポンプ吸込・吐出配管SwRI(+ API 610)ノズル荷重も確認

7.4 「基準なし」の場合の対処法

測定対象に適用できる基準がない場合:

  1. SwRIをスクリーニングに使用
  2. 類似設備との比較
  3. トレンド管理(相対評価)
  4. 詳細応力解析(FEM)

まとめ

配管振動評価基準は、SwRI・ISO 20816・API・VDI 3842の4つが主要です。

SwRIは、配管専用の評価基準として世界中で最も広く使われています。50年の実績があり、第1選択として推奨されます。

ISO 20816は、回転機械用の国際規格です。配管振動の評価には使わず、ポンプ・コンプレッサー本体の評価に使用します。

API 618/610は、石油化学プラント向けの規格です。業界要求がある場合に使用します。

VDI 3842は、ドイツ発祥の配管振動のガイドラインで、計算による応力評価まで体系的に扱っています。日本ではあまり使われていませんが、欧州規格準拠が必要な場合に検討します。

重要なのは、「最も厳しい基準を選ぶ」ことではなく、「測定対象と業種に応じた適切な基準を選び、継続使用する」ことです。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 配管振動の評価はSwRIが第1選択。ISO 20816は回転機械用で配管には使わない
  2. 石油化学プラントではAPI、欧州輸出設備ではVDIを検討
  3. 一度決めた基準は継続使用。トレンド管理が重要

💡 明日から現場でできること

  • 現在使用している基準が適切か確認する(配管にISO 20816を使っていないか?)
  • SwRIを第1選択として、測定・判定を開始する
  • 過去データとの比較のため、基準を統一する

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