保全の話

RBM(リスク基準保全)とは?──限られた人員と予算を重要設備に集中させる考え方

Wed Jul 22

RBM(リスク基準保全)とは?──限られた人員と予算を重要設備に集中させる考え方

工場には何十台、何百台もの設備があるのに、保全に使える人員も予算も限られている——多くの中小製造業が抱えるこの現実に対して、「どの設備にどれだけ力を入れるか」を決める考え方がRBM(リスク基準保全)です。この記事では、RBMという言葉のルーツになった規格の実際の範囲を確認したうえで、その発想を中小製造業向けに一般化した資源配分の考え方を解説します。


RBMとは? RBM(Risk-Based Maintenance:リスク基準保全)とは、設備の「重要度」と「故障確率」を掛け合わせてリスクを評価し、リスクの高い設備ほど保全の手厚さ(点検頻度・予算・人員・予備品)を優先的に配分する考え方です。全設備を平等に扱うのではなく、限られた資源にメリハリをつけることが目的です。


はじめに

「点検要員が足りない」「予備品にかけられる予算が限られている」——中小製造業の保全現場では、こうした制約が常について回ります。すべての設備に同じだけ手をかけられれば理想ですが、現実にはそうはいきません。

そこで役立つのが、RBM(リスク基準保全)という考え方です。このルーツをたどると、石油化学プラントで使われている規格にたどり着きますが、そのまま中小製造業に持ち込めるものではありません。まずはその規格が実際に何を定めているのかを確認し、そこから中小製造業向けにどう考え方を借りればよいかを整理します。

この記事は、保全計画の優先順位づけに悩む中小製造業の保全担当者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • RBMのルーツになった規格(RBI)が実際に何を対象にしているか
  • その考え方を中小製造業向けに一般化した、ABC分析による設備の仕分け方
  • 点検頻度だけでなく、予算・人員・予備品の配分にRBMの発想を広げる考え方

1. RBM/RBIのルーツ:規格は何を定めているか

RBM(リスク基準保全)という言葉のルーツをたどると、RBI(Risk-Based Inspection)と呼ばれる規格に行き着きます。石油化学プラントのような大規模設備群で、配管や圧力容器の検査優先順位を決めるために発展してきた考え方で、米国石油協会(API)が2つの規格として発行しています。

規格位置づけ内容
API 580RBIプログラムの枠組みガイド体制・計画プロセス・見直し手順など、プログラムを作るための最低限の要素を規定。定性的〜定量的まで幅のあるアプローチを許容している
API 581定量計算の手順書POF(故障確率)×COF(影響度)の具体的な計算手順を規定。POFは腐食・割れといった劣化機構、材質、プロセス流体、設計条件から算出する

ここで押さえておきたいのは、この規格の対象がかなり限定的だということです。

  • 対象設備:圧力容器・配管・大気圧タンク・安全弁・熱交換器チューブ束など、「静機器(圧力を保持する機器)」に限られます。ポンプ・モーター・コンプレッサーのような回転機械は対象に含まれません
  • 対象業界:石油精製・石油化学・化学プラント・オイル&ガス生産設備が対象で、一般的な中小製造業を想定した規格ではありません
  • 要求される情報:劣化機構の特定、材質・プロセス流体・設計条件といった専門的なエンジニアリングデータが必要になります

つまりAPI 580・581は、規格の内容をそのまま中小製造業の工場に持ち込めるものではありません。


2. 本記事の考え方:規格の発想を中小製造業向けに一般化する

そこで本記事では、規格そのものの導入を勧めるのではなく、その土台にある「リスクの高いものほど手厚く扱う」という考え方だけを取り出し、業種・設備の枠を外して、中小製造業の設備管理全般に使えるよう独自に一般化して提案します。

リスク = 故障の起こりやすさ × 故障が起きたときの影響の大きさ

これは、家庭の火災保険の考え方に近いものです。すべての持ち物に同じ金額の保険をかける人はいません。失うと困るもの(家そのもの)には手厚い保証を、日用品には最低限の備えを、というようにメリハリをつけます。工場の保全も同じで、「止まると困る度合い」に応じて手のかけ方を変える——これが、本記事で提案する考え方です。

なお、これ以降で紹介するABC分析や資源配分の考え方は、API 580・581が規定する計算手順そのものではなく、その発想を土台にした本記事独自の整理です。回転機械(ポンプ・モーターなど)を例に含めているのも、規格の対象範囲を超えた本記事側の一般化によるものです。


3. TBM・CBMとの関係:保全戦略のもう一つの軸

TBM(時間基準保全)とCBM(状態基準保全)については、CBMとは?TBM(定期保全)との違いと現場での使い分け方で詳しく解説していますが、簡単に振り返ると次のような整理になります。

手法判断基準決めること
TBM時間・稼働時間いつ交換・点検するか
CBM設備から得られるデータ兆候が出たら対応する
RBM重要度×故障確率どの設備にどれだけ力を入れるか

TBM・CBMが「いつ手を動かすか」を決める軸だとすると、RBMは「どの設備を優先するか」を決めるもう一つの軸です。対立する概念ではなく、組み合わせて使うものです。

仮に、こんな工場を考えてみましょう。RBMで「最重要」と評価された設備には、CBM(振動計測による状態監視)を適用して兆候を早期に掴む。一方、RBMで「重要度は低い」と評価された消耗品には、TBM(決まった周期での交換)を淡々と続ける——このように、RBMで優先順位をつけたうえで、個々の設備にTBM・CBMのどちらを適用するかを決めるのが実務的な流れです。

なお、点検頻度そのものを統計的手法やリスクマトリクスで細かく算出する方法は、点検頻度はどう決める?で扱っています。本記事では、頻度の精密な算出よりも一段階上の「資源配分の考え方」に焦点を当てます。


4. ABC分析で設備を仕分ける:全部を同じように見ない

4.1 3ランクに仕分ける

RBMの発想を実践する第一歩は、設備を重要度別に仕分けることです。工場でよく使われるのが、ABC分析という考え方です。

ランク定義目安の割合力の入れ方
Aランク止まると生産ライン全体が止まる・代替がない全体の1〜2割手厚く(高頻度点検・予備品常備・状態監視)
Bランク止まると影響はあるが、一定の猶予がある全体の3〜4割標準的な保全
Cランク止まっても影響が小さい・すぐ代替できる全体の4〜6割最小限(壊れたら直す程度でよい場合も)

Aランクの典型は、生産ラインの心臓部にあたる設備です。予備機がなく、故障すればライン全体が止まってしまうポンプやコンプレッサーがこれに該当します。こうした設備には、CBMによる状態監視、予備品の常備、詳細な点検記録の蓄積など、手厚い保全リソースを割り当てます。

Bランクは、影響はあるものの多少の猶予がある設備です。予備機があるサブラインの機器や、故障してもすぐには生産に影響しない補助設備が該当します。標準的な点検周期で対応し、異常があれば対応するという運用で十分です。

Cランクは、消耗品や汎用部品など、故障しても影響が軽微で、すぐに交換・代替できる設備です。ここに過剰な点検リソースを割くのは非効率であり、「壊れたら直す」という事後保全でも問題ないケースが少なくありません。

4.2 よくあるのが、こんなケースです

ある工場では、全設備100台に対して一律で「月1回点検」を続けていました。しかし実際に重要度で仕分けてみると、Aランクは12台、Bランクは35台、Cランクは53台という内訳でした。

Cランクの53台まで月1回点検していたことで、点検要員の稼働時間の半分近くがCランク設備に費やされていたことが判明しました。RBMの考え方でCランクの点検頻度を年1〜2回に落とし、浮いた時間をAランク設備の状態監視(振動計測など)に振り向けたところ、限られた人員のままAランク設備の異常兆候を早期に発見できる体制に変わりました。

これは、Cランクを「放置してよい」という意味ではなく、「同じ時間をかけるなら、影響の大きいところに優先的に使う」という資源の再配分です。


5. 点検頻度だけじゃない:予算・人員・予備品の配分に広げる

RBMは点検頻度を決めるためだけの考え方ではありません。ABC分析で仕分けたランクは、点検頻度以外の資源配分にもそのまま応用できます。

配分対象Aランクへの配分Cランクへの配分
点検頻度高頻度・状態監視低頻度・簡易点検
予備品在庫主要部品を常備発注してから調達でよい
人員・スキル経験者を優先配置若手・新人の教育の場にもなる
記録の詳細度詳細な履歴を蓄積最低限の記録でよい

5.1 予備品配分での考え方

仮に、あるポンプのベアリングが故障したとしましょう。Aランク設備であれば、部品を工場内に常備しておくことで、故障発生から数時間で復旧できます。一方、同じ部品でもCランク設備であれば、発注してから納品を待つ数日間のライン停止を許容できる、という判断もありえます。

すべての部品を「念のため」常備すると在庫コストが膨らみますが、逆にすべてを「発注してから」にすると重要設備の停止が長引くリスクを抱えます。ABC分析のランクに応じて予備品の持ち方を変えることが、在庫コストと停止リスクのバランスを取る現実的な方法です。

5.2 人員配分での考え方

限られた保全要員を、経験の浅いメンバーだけでAランク設備に対応させるのはリスクが高い一方、Cランクの点検作業はOJTの場として若手に任せることもできます。RBMの仕分けは、「誰が」「何を」担当するかという人員配置の判断材料にもなります。


6. 中小製造業でRBMを始める現実的な3ステップ

Step 1:設備リストを作り、ABC分析で仕分ける

まずは工場内の主要設備をリストアップし、「止まったときの影響の大きさ」を基準に大まかにA・B・Cへ仕分けます。厳密な統計データがなくても、現場の実感(代替機の有無、停止時の生産への影響)から始めて構いません。

Step 2:Aランクから重点的にリソースを配分し直す

現状の点検頻度・予備品在庫・記録の詳細度を、Aランク設備から順に見直します。手薄になっているAランク設備があれば、そこに優先的にリソースを振り向けます。

Step 3:Cランクの過剰な保全を見直す

逆に、Cランクなのに過剰な点検・在庫を抱えている設備がないかを確認します。ここで浮いたリソースが、Step 2でAランクに振り向ける原資になります。

この3ステップは、新しい予算を確保しなくても「今あるリソースの配分を変える」だけで着手できる点が現実的です。


7. よくある誤解と注意点

誤解1:RBMを導入すればCランク設備は放置してよい正解:Cランクも保全をやめるわけではありません。「頻度を落とす・簡易化する」のであって、ゼロにするわけではありません。

誤解2:厳密な統計データがないと始められない正解:石油化学業界の本格的なRBI(API 580・581)では、劣化機構に基づく詳細な定量計算が使われますが、中小製造業向けの簡易版は、現場の実感によるABC分析からで十分始められます。

誤解3:一度仕分けたら変えなくてよい正解:生産ラインの構成や設備の老朽化によって重要度は変わります。年に一度程度は仕分けを見直すべきです。


まとめ

RBM(リスク基準保全)は、石油化学業界のRBI規格(API 580・581)をルーツに持つ考え方ですが、規格そのものは静機器・石油化学業界に限定されたものです。本記事では、その土台にある「設備の重要度×故障確率」でリスクを評価するという発想だけを取り出し、限られた人員・予算・予備品を優先度の高い設備に集中させる考え方として、中小製造業向けに一般化しました。

📌 この記事のポイント3つ

  1. RBMのルーツであるRBI規格(API 580・581)は、静機器・石油化学業界に対象が限定された専門規格
  2. 本記事はその考え方(重要度×故障確率)だけを取り出し、ABC分析による仕分けとして中小製造業向けに一般化した提案
  3. 仕分けたランクは点検頻度だけでなく、予備品・人員の配分にも応用できる

💡 明日から現場でできること

  • 主要設備をリストアップし、A・B・Cにざっくり仕分けてみる
  • Aランク設備の点検頻度・予備品在庫が手薄でないか確認する
  • Cランク設備で過剰な点検・在庫がないか見直す
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