振動測定で得た時間波形をFFT解析すると「周波数スペクトル」が表示される。このグラフのどこを、何のために見るのかを理解することで、計測値の意味が大きく変わる。本記事では、FFTグラフの読み方を基礎から整理し、異常判定に使える実践的な視点を解説する。
はじめに
振動測定をしてみたが、「波形グラフを見てもよく分からない」「ピークがどこかにあるのは分かるけど、正常なのか異常なのかの判断ができない」という声をよく聞きます。
波形の見方で迷いやすいのは、時間波形とFFTグラフが別物だという意識が薄いことが多いためです。時間波形は「振動の強弱の時間変化」を、FFTグラフは「どの周波数の振動がどれだけ強いか」を示します。2つは同じ計測データを別の切り口で見たものです。
この記事は、振動計測を始めたばかりの現場担当者や、SOMPIPEの解析画面をより活用したい方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
- FFTグラフの横軸・縦軸・ピークが何を意味するかの基本理解
- 正常時と異常時でグラフがどう違って見えるかの判断軸
- アンバランス・ミスアライメント・ベアリング異常のパターン別の見方
1. FFTとは何か
FFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)は、時間の経過とともに変化する振動データを、周波数ごとの成分に分解する計算手法です。
時間波形は「縦軸が振幅(加速度など)、横軸が時間」のグラフです。振動の強弱の移り変わりは分かりますが、「どの周期の振動が混ざっているか」は読み取りにくい。
FFT解析を行うと、時間波形を「周波数スペクトル(縦軸が振幅、横軸が周波数)」に変換できます。このグラフを見ると、「10 Hzの成分は大きく、50 Hzの成分は小さい」といった情報が一目で分かります。
日常の例で考えると:
音楽を例にすると分かりやすいです。「ド・ミ・ソ」の和音を録音した音声データがあるとします。時間波形は複雑な波形に見えますが、FFT解析をすると「ドの周波数(約262 Hz)・ミの周波数(約330 Hz)・ソの周波数(約392 Hz)でそれぞれピークが立っている」という形で分解されます。
振動測定での FFT も同じ原理です。機械には複数の振動成分が混ざっており、FFT はそれを周波数ごとに分解して「どの周波数の振動が目立つか」を教えてくれます。
2. FFTグラフの各要素を読む
2.1 横軸:周波数(Hz)
横軸は周波数で、単位はHz(ヘルツ)です。1 Hzは「1秒間に1回」の繰り返しを意味します。
| 表示される周波数の範囲 | 意味 |
|---|---|
| 0〜50 Hz | 低周波振動(大型機械・配管の共振など) |
| 50〜200 Hz | 中周波振動(ポンプ・モーターの回転など) |
| 200 Hz〜 | 高周波振動(ギア・ベアリングの傷など) |
測定器の**サンプリング周波数の半分(ナイキスト周波数)**が、FFTグラフで表示できる最高周波数になります。たとえばサンプリング周波数が1,000 Hzなら、FFTグラフで見られるのは0〜500 Hzの範囲です(詳しくは測定条件の設定を参照)。
2.2 縦軸:振幅
縦軸は各周波数の振動の強さです。単位は計測する物理量によって変わります。
| 単位 | 特徴 | 向いている対象 |
|---|---|---|
| 加速度(m/s²またはG) | 高周波成分を捉えやすい | ベアリング・ギアなど |
| 速度(mm/s) | 中周波帯が見やすい。ISO評価基準と対応 | モーター・ポンプなど |
| 変位(μm) | 低周波の大きな動きを捉えやすい | 不釣り合い・共振など |
SOMPIPEは加速度を計測しますが、速度・変位への換算表示も確認できます。周波数帯ごとに見やすい物理量が違うことを覚えておくと、グラフの解釈の幅が広がります。
2.3 ピーク:「この周波数が目立つ」
FFTグラフで縦に突き出た山を「ピーク(スペクトルピーク)」と呼びます。ピークが高いということは、その周波数の振動が強いということです。
ポイントは次の3つです。
① ピークの位置(周波数):何Hzで山が立っているか。回転機械では回転周波数やその整数倍に注目します。
② ピークの高さ(振幅):同じ周波数のピークが以前より高くなっていないか。傾向管理で変化を追うことが大切です(傾向管理と違和感の可視化参照)。
③ ピークの幅(シャープさ):鋭いピークは特定周波数の振動が支配的。幅広いピークはランダムノイズや摩擦・摩耗の特徴です。
3. 回転周波数と倍調波の考え方
回転機械(モーター・ポンプ・ファンなど)では、**回転周波数(1X)とその整数倍(2X、3X…)**がFFTグラフの基本骨格になります。
3.1 回転周波数(1X)の計算
回転周波数は、回転数(rpm)から次式で計算できます。
回転周波数 [Hz] = 回転数 [rpm] ÷ 60
たとえば、回転数1,800 rpmのポンプなら:
1,800 ÷ 60 = 30 Hz
この30 Hzが1Xです。2X(60 Hz)、3X(90 Hz)といった整数倍の位置にもピークが立つことがあります。
3.2 倍調波が立つのはなぜか
よくあるのが、こんなケースです。
回転数1,200 rpmのポンプがあり、FFTグラフを取ると20 Hz(1X)に高いピークが立ちます。さらに40 Hz(2X)にも中程度のピーク、60 Hz(3X)に小さいピークが見られます。
これは、ポンプが完全に均一に回転しているわけではなく、1回転ごとに生じる微小な「かたより」が倍調波として現れているためです。2Xや3Xのピークが1Xより高くなってきたときは、ミスアライメントや構造的な不均一が疑われます。
| 周波数 | 呼び方 | 立ちやすい主な原因 |
|---|---|---|
| 回転周波数 × 1 | 1X(基本周波数) | 不釣り合い(アンバランス) |
| 回転周波数 × 2 | 2X | ミスアライメント、ゆるみ |
| 回転周波数 × 3 以上 | 高調波 | ゆるみ、摩耗 |
| 回転周波数 × n(nはブレード数など) | ブレード通過周波数 | ポンプ・ファンの通過成分 |
4. 異常パターン別の見方
4.1 アンバランス(不釣り合い)
特徴:1X(回転周波数)のピークが突出して高くなる。
アンバランスとは、回転体の重心が回転軸からずれている状態です。回転するたびに遠心力の不均衡が生じ、1Xに集中した振動が発生します。
典型的なパターン:
仮に、工場のファンの羽根に泥や付着物が溜まったとしましょう。回転体の重心がずれるため、1Xのピークが正常時の2〜3倍程度に増加します。2X以降のピークはそれほど高くなりません。この「1Xだけが突出」という形が、アンバランスの特徴的な姿です。
ファンの清掃や羽根のバランス調整(バランシング)を行うと、1Xのピークが正常レベルに戻ります。
4.2 ミスアライメント
特徴:2Xや3Xのピークが1Xと同程度か、それ以上になる。
ミスアライメントとは、連結する2軸(たとえばモーターとポンプの軸)の中心がずれている状態です。軸継手を通じて1回転に複数回の力が伝わるため、高調波に特徴的なピークが現れます。
| 種類 | ピークの傾向 |
|---|---|
| 平行ミスアライメント(軸が平行にずれている) | 2Xが突出 |
| 角度ミスアライメント(軸が角度をもってずれている) | 1Xと2Xが同程度か3Xも高い |
典型的なパターン:
モーターとポンプを継手でつなぐ際、設置精度が不十分だったとします。運転開始直後は問題ないように見えますが、月次の振動測定で2Xのピークが徐々に高くなってきます。1Xが「基準値以内」でも2Xが増加傾向にある場合は、アライメント再調整を検討するサインです。
4.3 ベアリング異常
特徴:回転周波数とは関係のない特定の周波数にピークが現れる。高周波帯の全体的なレベル上昇も見られる。
ベアリング(軸受)に傷や摩耗が生じると、ボールや軌道面の形状から計算される固有の周波数(BPFO・BPFI・BSFなど)にピークが立ちます。これらは回転周波数の整数倍には一致しない非整数倍の周波数になることが多く、「ここだけにピークがある」という特徴的な形をしています。
また、ベアリング異常の初期段階では、高周波帯(1,000 Hz以上)にランダムなエネルギーが広く分布する場合もあります。これは傷がボールに当たるたびに衝撃が発生しているためです。
初期検知のポイント:
よくあるのが、こんなケースです。ポンプの月次測定で、低周波帯の1X・2Xは変化がないのに、高周波帯の全体的なレベルが少しずつ上がってきている。この段階では軸受の早期劣化が始まっている可能性があります。放置すると数ヶ月後に軌道面の剥離(フレーキング)が進み、突発停止につながります。
傾向管理で高周波帯の変化を追っておくことが、ベアリング異常の早期検知に有効です。
4.4 共振
特徴:特定の周波数で振幅が急激に大きくなる。加振源の周波数が機械・配管の固有振動数に一致した場合に発生。
共振は、機械の固有振動数と加振力の周波数が重なることで、小さな力でも振動が大きく増幅される現象です。FFTグラフでは、その周波数に鋭く高いピークが立ちます。
共振のピークは「回転数を変えると消えたり移動したりする」のが特徴です。加振力の周波数(回転数)を変えても、固有振動数の位置にピークが残る場合は、構造共振を疑います。
5. よくある誤解と注意点
❌ 誤解1:「ピークがなければ正常」
→ 正解:ピークがないのではなく、評価すべきピークを見落としている場合があります。測定周波数範囲が狭すぎると、ベアリング異常の高周波ピークが範囲外になります。測定前にどの周波数帯を確認すべきかを決めておくことが重要です。
❌ 誤解2:「1Xが高いから必ずアンバランス」
→ 正解:1Xが高い原因はアンバランスだけではありません。共振、ゆるみ、取り付け不良なども1Xを高くする原因になります。1Xのみを見て原因を決めず、2X・3Xや高周波帯との組み合わせで判断することが必要です。
❌ 誤解3:「1回の計測でFFTが読めれば十分」
→ 正解:FFT解析は、複数回の計測との比較で真価を発揮します。「今回のピーク高さが正常なのか異常なのか」は、過去データとの比較なしには判断できません。定期計測と傾向管理を組み合わせてはじめて診断の精度が上がります。
まとめ
FFTグラフは振動診断の入り口として非常に有用なツールです。ただし、数値を1回見るだけでは判断できないことが多く、「どの周波数に注目するか」と「過去との比較」が読み解きの鍵になります。
📌 この記事のポイント3つ
- FFTグラフの横軸は周波数・縦軸は振幅。ピークの位置と高さが診断の基本
- 回転機械では1X(回転周波数)とその倍調波(2X・3X)が骨格になる
- 異常パターン(アンバランス・ミスアライメント・ベアリング)はピークの出方で区別できる
💡 明日から現場でできること
- 測定前に機械の回転数を確認し、1X(回転周波数)の位置を計算しておく
- 測定後は1Xと2Xの高さの比率を記録に残す
- 前回の計測と比べて「高くなった周波数」がないかを確認する
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