保全の話

設備は更新か延命か|1年あたりの総費用で比べる方法と停止損失の計算式

Tue Nov 03

延命する場合は修理費120万円に停止損失360万円を足した年480万円、更新する場合は年260万円と、停止損失を含む総費用で並べると延命のほうが高くなることを積み上げ棒で比べた図

設備は更新か延命か|1年あたりの総費用で比べる方法と停止損失の計算式

仮に、20年近く使っている設備が、ここ数年、年に何度か止まるようになったとします。そのたびに修理して動かしてきましたが、今年も修理の見積が出ました。「そろそろ更新したほうがいい」と感じていても、こう聞き返されることがあります。「今回直せば、まだ使えるんだよね?」

このとき必要なのは、気持ちの強さではなく、続けた場合と更新した場合を、同じものさし(1年あたりの総費用)で並べた数字です。この記事では、その数字の作り方を、簡易試算シート(Excel)つきで整理します。数字ができたあとの稟議の書き方は、設備更新の稟議の書き方で扱います。


設備の更新or延命の判断とは? 修理しながら今の設備を使い続ける(延命)か、新しい設備に入れ替える(更新)かを、修理費だけでなく、止まったときの損失も含めた総費用で比べて決めることです。


はじめに

設備の更新は金額が大きく、「何も起きていないのに大きなお金を使う」ように見えやすい投資です。公益社団法人日本プラントメンテナンス協会の「2022年度メンテナンス実態調査」(2023年9月)では、経営課題を解決するための設備管理上の課題として、回答の26.0%(n=231)が「リスクの想定と投資・予算基準」を挙げています。これは「損失を金額で示せない」ことそのものを聞いた設問ではありませんが、投資の根拠づくりに悩む現場が少なくないことはうかがえます。

この記事は、設備の保全を担当していて、修理を続けるか更新するかの判断に、根拠となる数字がほしい中小製造業の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • 修理費だけでは判断を誤る理由と、「1年あたりの総費用」で比べる考え方
  • 停止損失の計算式と、数字の置き方の注意点
  • 耐用年数と経済寿命の違い、履歴が無いときの仮置きと、数字を動かして確かめる考え方

1. 修理を続けるか更新するかで迷う場面

1.1 修理費だけを見ると、延命が安く見える

よくあるケースを考えてみます。ある設備の今年の修理見積が120万円、同じ機能の新設備は2,400万円だとします。修理費と更新費を比べると、120万円のほうがはるかに安く、「今年も直そう」という判断になりがちです。

ところが、修理費は費用の一部にすぎません。設備が止まれば、その間の生産が止まり、待機する人の人件費がかかり、材料が無駄になり、立ち上げ直す手間も生じます。この停止による損失は、修理の見積書にも、決算書の修繕費にも出てこないため、見落とされやすい費用です。

修理の見積に出てくる修理費120万円は氷山の一角で、水面下に年360万円の停止損失がある図
修理の見積に出てくる修理費120万円は氷山の一角で、水面下に年360万円の停止損失がある図

1.2 比べ方がそろっていないと、稟議は通りにくい

延命の費用は「年あたり」で語られ、更新の費用は「総額」で語られる。この食い違いも、判断を難しくします。更新の2,400万円は一度に出ていきますが、15年使うなら1年あたり160万円の負担です。どちらも「1年あたり」にそろえて並べると、初めて比較できます。


2. 比べるのは修理費ではなく1年あたりの総費用

2.1 総費用に入れるもの

延命する場合と更新する場合で、1年あたりに次の費用を並べます。

費用延命する場合更新する場合
設備費の年あたり負担ほぼゼロ(すでに買ってある)更新費用 ÷ 使用年数
修理・保全費年間修理費新設備の年間保全費
停止による損失故障回数 × 停止時間 × 時間あたり損失新設備の故障回数 × 停止時間 × 時間あたり損失

2.2 経済寿命という考え方

もう一つ大切なのが、使い続けるほど運用費は増え、設備費の年あたり負担は減るという関係です。この2つを足した「年平均の総費用」は、使い始めは高く、徐々に下がり、運用費の増加が追いつくところで底を打ってから、再び上がります。年平均の総費用が最小になる使用年数が、経済寿命の目安です。

仮に、購入費が600万円、運用費が1年目30万円で毎年20万円ずつ増える設備があるとします(架空の数値です)。

年平均の総費用は使い続けるといったん下がり8年目に最小の175.0万円/年となり、その後は上がる経済寿命の考え方
年平均の総費用は使い続けるといったん下がり8年目に最小の175.0万円/年となり、その後は上がる経済寿命の考え方

この例では、8年目に年平均の総費用が最小(175.0万円)になり、その後は上がり続けます。修理費が毎年増えている設備は、この底を過ぎている可能性がある、というのが判断の目安になります。


3. 停止損失の出し方

3.1 計算式

停止損失は、次の式で見積もります。

停止損失 = 停止時間 ×(時間あたり限界利益 + 待機人件費 + 廃棄・立ち上げの損失)

仮に、1時間止まるごとに、生産できなかった分の限界利益が14万円、停止中の待機人件費が2万円、材料の廃棄・立ち上げの損失が4万円、合計20万円の損失が出る設備だとします(架空の数値です)。

この設備が年に3回、1回あたり6時間止まるなら、年間の停止損失は 3回 × 6時間 × 20万円 = 360万円 です。修理費120万円を足した延命の年間総費用は 480万円 になります。

停止損失を1時間あたり20万円から積み上げ、年360万円、修理費を足して年480万円にする計算の流れ
停止損失を1時間あたり20万円から積み上げ、年360万円、修理費を足して年480万円にする計算の流れ

3.2 数字を置くときの注意

  • 売上ではなく、限界利益で見積もる。止まった時間の売上全額を損失とすると、過大な見積になり、稟議の信頼性を損ねます。限界利益は、売上から変動費を引いた、生産できなかったことで失った利益です
  • 取り返せる分は差し引く。残業や休日出勤で挽回できた生産は、損失から外します
  • 間接的な損失は、金額に入れず別枠で書く。納期遅れによる信用の低下、品質への影響、安全上のリスクは金額にしにくいため、数字には入れず、補足として書き添えます
  • 直近の実績で置く。故障回数と停止時間は、直近2〜3年の記録から取ります。記録の残し方は、点検記録の正しい残し方で整理しています

3.3 更新した場合と並べる

更新費用が2,400万円、使用年数15年、売却額ゼロ、新設備の年間保全費40万円、故障が年0.5回(1回6時間、時間あたり損失は同じ20万円)だとします。

延命する場合は年480万円、更新する場合は年260万円で、差は1年あたり220万円となることを積み上げ棒で比べた図
延命する場合は年480万円、更新する場合は年260万円で、差は1年あたり220万円となることを積み上げ棒で比べた図

差は1年あたり220万円です。更新費用を年間の削減額で回収する年数は、2,400 ÷(480 − 100)= 約6.3年で、想定使用年数の15年より十分短い、という見方ができます。修理費だけを比べれば120万円と2,400万円ですが、総費用で並べると、見え方が変わります。


4. 耐用年数と経済寿命は別物

「法定耐用年数が過ぎていないから、まだ使える」と考えてしまうことがあります。しかし、法定耐用年数は、税務上、設備の取得費を何年に分けて経費にするかを定めたものです。設備が実際に何年使えるか、何年使うのが得かを示すものではありません。

使える年数の3種類:法定耐用年数、経済寿命、物理的な寿命を1本の時間軸に並べた概念図
使える年数の3種類:法定耐用年数、経済寿命、物理的な寿命を1本の時間軸に並べた概念図

法定耐用年数が過ぎていても経済寿命が先なら、使い続けるのは得です。逆に、償却が終わっていても、運用費が膨らんでいれば、更新したほうが得なことがあります。税務の取り扱いの詳細は、顧問の税理士など専門家に確認してください。


5. 履歴が無いときの置き方

「故障の記録が整っていない」という場合でも、試算は始められます。

5.1 4つの数字を仮置きする

  • 台数と使用年数:設備台帳から取れます
  • 故障回数:記録が無ければ、担当者への聞き取りで「直近3年で何回止まったか」を聞きます
  • 停止時間:1回あたりの平均を、聞き取りで置きます
  • 停止1時間あたりの損失:製造や経理に、限界利益の目安を確認します

仮置きの数字には「聞き取りによる概算」と明記し、試算の結果が前提の置き方にどれだけ左右されるかを見ます。数字を少し動かしても結論が変わらないなら、仮置きのままでも判断できます。

5.2 故障が「増えているか」を見る

年を追うごとに故障が増えているなら、設備が摩耗して寿命に近づいている兆しと考えられます。逆に、増減に傾向がなく、ランダムに起きているなら、更新しても故障が減るとは限りません。この場合、更新で年間の停止損失が下がるという前提が崩れます。故障の起き方(増えているのか、ばらついているのか)を見てから、更新の効果を置くと、前提がより現実に近づきます。

数字ができたら、次は決裁者に伝える番です。稟議に書く項目や、聞かれそうな質問への備えは、設備更新の稟議の書き方で整理しています。


簡易試算シート(Excel)を配布しています

ここまでの計算を、そのまま使えるExcelシートにまとめました。延命と更新の1年あたりの総費用を並べる「試算」シートと、経済寿命の目安を出す「経済寿命」シートの2枚構成です。サンプルにはこの記事の数値が入力済みなので、開くとすぐに同じ結果を確認でき、数字を入れ替えれば自社の設備で使えます。

ご入力いただいたメールアドレス宛に、資料に関するご案内やSOM製品の更新情報をメールでお送りします。


まとめ

設備を更新するか延命するかは、修理費ではなく、停止損失を含めた1年あたりの総費用で比べると判断しやすくなります。停止損失は売上ではなく限界利益で見積もり、法定耐用年数ではなく経済寿命の考え方で使い続ける期間を見ます。前提を動かしても結論が変わらないかを確かめてから、稟議にまとめます。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 修理費だけでなく、停止による損失を含めた「1年あたりの総費用」で、延命と更新を同じものさしで比べる
  2. 停止損失は、売上ではなく限界利益で見積もり、取り返せる分は差し引き、間接的な損失は別枠にする
  3. 法定耐用年数は税務上の年数で、経済寿命とは別。履歴が無ければ4つの数字を仮置きし、前提を動かしても結論が変わらないかを確かめる

💡 明日から現場でできること

  • 気になる設備を1台選び、直近3年の故障回数と停止時間を担当者に聞いて書き出してみる
  • 停止1時間あたりの損失を、製造・経理に概算で聞いてみる
  • 簡易試算シートに数字を入れ、延命と更新の1年あたりの総費用の差を確かめる

稟議や投資判断で「ここが難しかった」「こういう数字が欲しかった」という経験があれば、お問い合わせから教えてください。今後の記事や資料づくりの参考にします。


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