保全の話

予備品管理とは?──クリティカル部品の選び方と、持ちすぎない在庫の判断軸

Mon Aug 17

重要設備の部品が「①何を持つか(4つの選定軸)」「②どれだけ持つか(発注点・安全在庫・EOQ)」の2つの問いに分岐し、在庫コストと欠品リスクがバランスする谷(最適点)を経て、MTTR短縮という結果に収束する図

予備品管理とは?──クリティカル部品の選び方と、持ちすぎない在庫の判断軸

「念のため多めに」と部品を買い足していったら倉庫が部品だらけになった——かと思えば、いざ壊れた部品に限って在庫がなく、納品を待つ間ラインが止まった。多くの中小製造業の保全現場で、こうした行き違いが起きています。


予備品管理とは? 設備が故障したときの損失(生産停止・修理費)を最小化するために、必要な部品を過不足なく備えておく考え方です。「壊れたら困る部品を、壊れる前に、適切な量だけ手元に置く」——言葉にすると単純ですが、「壊れたら困る部品」の見極めと「適切な量」の判断には、明確な軸が必要です。


はじめに

予備品管理は、保全業務の中でも後回しにされがちな領域です。点検や修理と違って「やらなくても今日は困らない」ため、優先順位が下がりやすいのですが、実際に部品が足りなかったときの被害は、点検の抜け漏れよりも直接的に生産を止めます。

この記事は、予備品の在庫をどう決めればいいか判断軸を持てていない中小製造業の保全担当者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • 予備品管理が保全全体の中でどんな役割を果たしているか(MTTRという物差し)
  • 「どの部品を予備品として持つか」を決める4つの選定軸
  • 「どれだけ持つか」を決める発注点・安全在庫・EOQという3つの考え方

1. なぜ予備品管理が保全の生命線なのか——MTTRという物差し

1.1 MTTR(平均修復時間)という考え方

設備が故障してから復旧するまでの平均時間を、MTTR(Mean Time To Repair:平均修復時間)と呼びます。保全の世界では、この時間をいかに短くするかが重要な指標のひとつです。

MTTRを構成する時間は、大きく分けると次の3つです。

工程内容
発見・診断故障に気づき、原因を特定するまでの時間
部品調達交換部品を用意するまでの時間
交換作業実際に部品を交換し、復旧させる時間

このうち、予備品管理が直接効いてくるのが「部品調達」の時間です。手元に部品がなければ、発注してから届くまでの日数——つまりリードタイム——が、そのままMTTRに上乗せされます。

1.2 予備品があるかないかで何が変わるか

仮に、あるポンプのベアリングが故障したとしましょう。予備品が工場内にあれば、発見から交換完了まで半日程度で済むかもしれません。一方、同じ部品でも在庫がなく、メーカーに特注発注する場合、納品までに数週間かかることもあります。

この差は、部品そのものの値段(数万円程度のことも多い)に対して、生産停止による損失(1日あたり数百万円に及ぶこともある)の方がはるかに大きいというケースで、特に重くのしかかります。予備品管理は「部品在庫のコストを抑える」話であると同時に、「生産を止めない時間をどれだけ買えるか」という投資判断でもあります。


2. 何を予備品として持つか——ABC分析の先にある4つの選定軸

2.1 「設備の重要度」と「部品の重要度」は別の話

RBM(リスク基準保全)とは?で紹介したABC分析は、「どの設備が止まると困るか」を仕分ける考え方でした。しかし、いざ「その設備のどの部品を予備品として持つか」という段階になると、設備単位の重要度だけでは決まりません。同じAランク設備の中にも、「予備品を持つべき部品」と「持たなくてよい部品」が混在しているからです。

部品単位で予備品の要否を判断するには、以下の4つの軸を確認します。

2.2 軸1:代替性——壊れても代わりが利くか

同じ設備がもう1台ある、あるいは別ラインで代替できる場合、その部品の予備品優先度は下がります。逆に、工場に1台しかない設備の、その設備にしか使われていない部品は、代替が利きません。

2.3 軸2:調達リードタイム——発注から納品まで何日かかるか

汎用のボルト・ベアリング・パッキンなどは、卸業者や商社から即日〜数日で届くことも珍しくありません。一方、海外メーカーの特注部品や、設計変更を伴うオーダーメイド品は、数週間から数ヶ月かかることがあります。リードタイムが長いほど、予備品として持つ価値が上がります。

2.4 軸3:専用品か汎用品か

JIS規格品のような汎用部品は、複数の仕入れ先から調達できるため、在庫を持たなくても代替調達のルートが確保しやすい部品です。一方、その機械専用に設計された専用品は、メーカー1社にしか作れない・取り寄せられないケースが多く、在庫を持つ優先度が高くなります。

2.5 軸4:技術的入手性——生産終了(廃番)のリスク

古い設備ほど、その部品がすでにメーカーの生産終了(廃番)になっているリスクを抱えます。廃番品は「発注すればいつか届く」という前提そのものが崩れるため、現物が手に入るうちに確保しておく価値が高い部品です。設備の導入年数が古い工場ほど、この軸の確認を優先すべきです。


3. どれだけ持つか——発注点・安全在庫・EOQの3点セット

「何を持つか」が決まったら、次は「どれだけ持つか」です。ここでは3つの考え方をセットで使います。

3.1 発注点——在庫がここまで減ったら発注する

発注点とは、「在庫数がこの数量まで減ったら、次の発注を行う」という基準線です。基本の考え方はシンプルで、次の式で目安を計算できます。

発注点 = リードタイム中に使う見込み数量 + 安全在庫

仮に、ある消耗部品の月間使用量が2個、発注してから届くまでのリードタイムが1.5ヶ月だとします。リードタイム中に使う見込み数量は、2個/月 × 1.5ヶ月 = 3個です。ここに安全在庫として1個を上乗せすると、発注点は3個 + 1個 = 4個になります。つまり、在庫が4個まで減った時点で次の発注をかける、という運用です。

3.2 安全在庫——ブレに備える余裕分

需要(部品の消耗ペース)やリードタイムは、常に一定とは限りません。想定より早く摩耗した、発注先の都合で納期が延びた——こうしたブレに備える余裕分が安全在庫です。

安全在庫はゼロにすれば在庫コストは減りますが、欠品リスクが上がります。逆に多く持ちすぎれば、欠品リスクは下がりますが、保管スペースと資金が圧迫されます。「絶対に切らしたくない部品ほど厚めに、多少の欠品なら許容できる部品は薄めに」というように、2章で見た4つの選定軸の評価が高い部品ほど、安全在庫も手厚く設定するのが基本的な考え方です。

3.3 EOQ(経済的発注量)——1回にどれだけまとめて発注するか

もうひとつ、発注の「量」に関わる考え方がEOQ(Economic Order Quantity:経済的発注量)です。

発注には、発注1回あたりにかかる固定的な手間(事務処理・送料・検収作業など)がかかります。少量ずつ頻繁に発注すれば、この固定費用の合計は増えます。逆に、1回にまとめて大量発注すれば、固定費用は抑えられますが、その分だけ長く在庫を抱えることになり、保管コストや資金の固定化というコストが増えます。

つまり、「発注の手間コスト」と「在庫を持つコスト」はトレードオフの関係にあり、両者の合計が最小になる発注量が理論上存在する——これがEOQの発想です。専門的には数式で厳密に計算する手法もありますが、中小製造業の現場でまず押さえるべきは、「発注回数を減らせばいいわけでも、増やせばいいわけでもなく、バランスする量がある」という考え方そのものです。


4. 4つの軸を組み合わせて管理レベルを決める——部品でシミュレーション

2章の4つの選定軸は、単独で見るよりも組み合わせたときに実践的な判断材料になります。代表的なパターンを整理すると、次のようになります。

代替性リードタイム専用品/汎用品判断の目安
なし長い専用品必ず常備(最優先)
なし短い汎用品発注点管理で十分。急ぎでも調達できる
あり長い専用品予備機側の部品で代替できないか先に検討
あり短い汎用品都度調達でよい。在庫は最小限に

仮に、工場の心臓部にあたる設備(代替機なし)で、海外メーカーの専用ベアリング(リードタイム2ヶ月)を使っているケースを考えてみましょう。「代替性なし・リードタイム長い・専用品」に該当するため、表の一番上、「必ず常備」に分類されます。廃番リスク(軸4)も併せて確認し、もしすでに生産終了が近い部品であれば、現物在庫の確保をさらに急ぐべき部品だと判断できます。

一方、同じ設備でも締結用の標準ボルトであれば、「代替性あり(予備機や他ラインからも転用可能)・リードタイム短い・汎用品」に該当し、都度調達で問題ない部品として扱えます。同じ設備の部品でも、この4軸を通すと優先度がまったく変わることが分かります。


5. 中小製造業で始める予備品管理の3ステップ

Step 1:主要設備の部品リストを作り、4軸で仕分ける

まずは重要設備(ABC分析のAランク設備が優先)から、使われている主要部品を洗い出し、代替性・リードタイム・専用品/汎用品・技術的入手性の4軸で仕分けます。厳密な調査でなくても、現場の担当者やメーカーへの問い合わせで大まかな判断は可能です。

Step 2:常備すべき部品から、発注点・安全在庫を設定する

4章の判断表で「常備」に分類された部品から優先的に、発注点と安全在庫の目安を決めます。すべての部品に厳密な計算式を使う必要はなく、「使用ペース × リードタイム + 余裕分」という考え方をベースに、現実的な数量で始めて構いません。

Step 3:定期的に棚卸しし、仕分けを見直す

設備の更新や運転条件の変化によって、部品の重要度は変わります。年に一度程度は在庫を棚卸しし、「持ちすぎている部品」「不足している部品」がないかを見直します。特に、廃番リスク(軸4)はメーカーの生産状況次第で変わるため、定期的な確認が欠かせません。


6. よくある誤解と注意点

誤解1:予備品は多く持てば持つほど安全正解:過剰在庫は保管コスト・資金の固定化・劣化リスクを生みます。「持てば安心」ではなく、4つの選定軸で優先度をつけることが重要です。

誤解2:ABC分析(設備の重要度)がそのまま部品の優先度になる正解:同じAランク設備の中にも、代替性やリードタイムが異なる部品が混在します。設備単位の重要度と、部品単位の予備品優先度は別の判断軸です。

誤解3:汎用品は在庫しなくてよい正解:汎用品でも、供給が逼迫している時期や、発注先が限られている場合はリードタイムが伸びることがあります。「汎用品だから」と一律で判断せず、実際のリードタイムを確認することが必要です。


まとめ

予備品管理は、「壊れたら困る部品を、壊れる前に、適切な量だけ手元に置く」という考え方です。設備単位のABC分析だけでは決まらない部品単位の判断が必要で、代替性・調達リードタイム・専用品か汎用品か・技術的入手性という4つの軸を組み合わせることで、どの部品を優先的に常備すべきかが見えてきます。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 予備品管理の目的はMTTR(平均修復時間)の短縮であり、部品在庫の有無がそのまま復旧時間の差になる
  2. 「何を持つか」は、代替性・調達リードタイム・専用品/汎用品・技術的入手性の4軸で判断する
  3. 「どれだけ持つか」は、発注点・安全在庫・EOQという3つの考え方をセットで使う

💡 明日から現場でできること

  • 主要設備の部品を1つ選び、4つの選定軸(代替性・リードタイム・専用品/汎用品・入手性)で仕分けてみる
  • 「常備すべき」と判断した部品の在庫数と、現在の在庫数を比べてみる
  • 導入年数の古い設備について、部品が廃番になっていないかメーカーに確認してみる
この記事をシェア

ニュースレター

更新情報を受け取る

新着記事やSOMの最新情報を、更新があったときにお知らせします(解除はいつでも可)

保全記録のデジタル化を始めませんか?

Someraは計測・点検・修理履歴をひとつの設備カルテに集約。まずは資料で機能・料金プランをご確認ください。

資料ダウンロード(メールのみ・無料)

ご入力いただいたメールアドレス宛に、資料に関するご案内やSOM製品の更新情報をメールでお送りします。