SOMPIPEの判定画面を読む──SwRI評価線図と4つのゾーンの意味
SOMPIPEで測定すると、グラフの上に点が打たれ、色で判定が出る。「Design Zone」「Marginal Zone」などの言葉が並ぶが、この点がどこに位置すれば安心で、どこに来たら対処が必要なのか——その根拠を知っておくと、判定結果を現場で使いこなせるようになる。
はじめに
SOMPIPEを使い始めた方から、よくこんな質問をいただきます。
「グラフに点は出たんですが、これって大丈夫なんですか?」
画面を見れば色で判定は出ています。でも「なぜそのゾーンなのか」「どれくらい危ないのか」「次に何をすべきか」が分からないと、判定結果を使いこなせません。
この記事では、SOMPIPEの判定画面の背景にある「SwRI評価線図」のしくみを解説します。線図が何を見ているのか・4つのゾーンの根拠は何かを理解することで、測定結果を現場の判断に繋げられるようになります。
💡 この記事で得られること
- SOMPIPEの判定画面とSwRI評価線図の対応関係
- 4つのゾーン(Design / Alert / Marginal / Danger)の意味と根拠
- 「Marginal以上が出たら、次に何をするか」の判断フロー
1. SwRI評価線図とは何か
SOMPIPEの評価基準となっているSwRI線図は、1976年にアメリカのSouthwest Research Institute(SwRI)のJC WachelらによってASMEへ発表された配管振動の評価ツールです。
当時の石油化学プラントでは、往復動圧縮機やポンプ周辺の配管で振動による疲労破壊が頻発していました。複雑な応力解析を行わなくても「この振動は危ないか」をその場で判断できるスクリーニングツールとして開発されたのが、このSwRI線図です。
線図の評価軸:
| 軸 | 内容 | SOMPIPEでの対応 |
|---|---|---|
| 横軸 | 振動周波数(Hz) | FFT解析で得られた支配的な周波数成分 |
| 縦軸 | 振動変位(μm, Peak-to-Peak) | 加速度データを2回積分して変位に換算 |
SOMPIPEは加速度センサーで計測したデータを自動でFFT解析し、主要な周波数成分ごとに「周波数×変位」のペアを算出します。その結果を線図上にプロットしたのが、判定画面に見える「点」です。

▲ SOMPIPEの評価タブ。グラフ上の色付きラインが各ゾーンの境界で、白いギザギザ線(X Envelope)が実際の計測値。この例ではすべての軸がDesign未満で、ゾーン線より十分下に位置している。
2. 4つのゾーンの意味と根拠
SwRI線図は、4段階のゾーンで配管の振動状態を評価します。
Design Zone(青) ── 問題なし
↓
Alert Zone(緑) ── 許容範囲・監視を継続
↓
Marginal Zone(黄)── 要注意・詳細調査を検討
↓
Danger Zone(赤) ── 危険・対応が必要
Design Zone(青)──目指すべき状態
設計上の目標範囲です。配管に加わる振動応力が十分低く、疲労破壊のリスクはほとんどありません。
定期的な傾向監視だけで問題ない状態です。ただし「今は青だから永遠に大丈夫」ではありません。配管の劣化・支持の緩み・運転条件の変化で徐々に変化することがあるため、定点での定期測定は続けてください。
Alert Zone(緑)──監視を継続
許容できる範囲内ではありますが、Design Zoneより振動レベルが高い状態です。いますぐ対処が必要というわけではないものの、次回の点検でも同じ箇所を測定して変化を追う価値があります。
このゾーンで注目すべきは「絶対値」より「変化量」です。前回測定と比べて点が上方向にずれてきていないかを確認してください。
Marginal Zone(黄)──詳細調査を検討
修正が必要なレベルに入っています。疲労破壊への余裕が少なくなっており、放置すると徐々に配管に損傷が蓄積するリスクがあります。
このゾーンが出た場合の対応フローは後述しますが、まずは「なぜここまで振動が大きくなったか」の原因調査を始めるタイミングです。支持点の追加・締め直し、あるいは振動源(ポンプ・コンプレッサー)側の問題がないかを確認します。
Danger Zone(赤)──即座の対応が必要
配管の疲労破壊リスクが高い状態です。SOMPIPEでこのゾーンの判定が出た場合は、運転条件の見直し・緊急の支持補強・配管交換の検討が必要です。
SOMPIPEはあくまでスクリーニングツールです。Danger Zoneが出ても「必ずすぐ壊れる」を意味するわけではありませんが、専門技術者による詳細評価を早急に手配することを強く推奨します。
3. 「乖離値」という数値の読み方
SOMPIPEの結果画面には、ゾーン判定(Design未満・Alert・Marginal・Danger)に加えて「乖離値」という数値が表示されます。
これは計測値がDanger Lineからどれだけ離れているかを対数スケールで示した指標です。
- 大きなマイナス(例:-2.9): Danger Lineから十分遠い=安全な状態。Design未満に相当
- 0に近づくにつれて: Danger Lineに接近している
- 0またはプラス: Danger Lineを超えている
たとえば乖離値が-2.9のときは計測値がDanger Lineの1/800程度の振動レベル(非常に安全)ですが、これが-0.5、-0.1と増加してきた場合、振動が徐々に大きくなっているサインです。
絶対値のゾーン判定と合わせて「乖離値の時系列変化」を記録しておくと、変化の速さが分かります。前回から乖離値が急増していれば、設備や配管に何らかの変化が起きている可能性があります。
4. SwRI線図の「正直な限界」を知っておく
SOMPIPEを正しく使うために、もう一つ知っておいてほしいことがあります。
SwRI線図は非常に優れたスクリーニングツールですが、開発者であるWachel自身が後の論文(1981年)でその限界をこう述べています。
「この基準線図は、現場の運転担当者の経験に基づいて作成されたものである。統計的な意味では平均的または典型的な配管に適用できるが、配管の形状(サイズ、肉厚、支持条件など)を考慮していないため、基本的には近似的なものである。」
つまり、SwRI線図は以下を考慮していません。
| 考慮されていない要素 | 影響 |
|---|---|
| 配管サイズ・肉厚 | 同じ変位でも細い配管は応力が高い |
| 材質(SUS vs 炭素鋼) | 疲労強度が異なる |
| 支持条件 | 固定支持と可動支持で応力分布が変わる |
| エルボ・分岐の有無 | 応力集中箇所を特定できない |
それでも50年近く業界標準として使われ続けているのは、**「実用的なスクリーニングツールとして合理的な評価が得られる」**という実績があるからです。細かい誤差より、全配管を素早く評価して「詳細調査が必要な箇所」を絞り込めることの価値が大きい。
SOMPIPEもこの精神で設計されています。高精度の詳細評価の代替ではなく、「見るべき箇所を見つける」ための入口として使うのが正しい使い方です。
5. Marginal以上が出たら──次のステップ
SOMPIPEでMarginal Zone以上の判定が出たときの、現場での対応フローです。
Step 1:同じ箇所をもう一度測定する
測定時の固定方法・測定位置が正しかったか確認してから、同条件で再測定します。固定のズレや手ブレが原因で高い値が出ていることもあります(詳しくは現場で試せる!スマホで簡単振動診断のやり方参照)。
Step 2:前回の測定値と比較する
前回測定の結果と比べて、点が上にズレてきていないかを確認します。急激に上昇している場合は、何らかの変化が起きているサインです。
Step 3:原因の仮説を立てる
- 配管支持点の緩みや変形がないか
- ポンプ・コンプレッサーの運転状態に変化がないか(流量・回転数)
- 配管周辺で増設・改造工事がなかったか
Step 4:必要に応じて専門評価へ
Marginal Zone以上が再現・継続する場合、または原因が特定できない場合は、専門技術者による詳細な振動解析(FEM解析・応力測定)を依頼することを検討してください。SOMPIPEの判定結果とその周波数・変位値を記録したPDFレポートは、技術者への説明資料として活用できます。
まとめ
SwRI評価線図はSOMPIPEの判定の根拠となっているフレームワークです。線図が何を見ているかを知っておくと、「青だから大丈夫」「黄が出た、何をすべきか」の判断がより確かなものになります。
📌 この記事のポイント3つ
- SOMPIPEの「点」は、FFT解析で得た周波数ごとの変位をSwRI線図上にプロットしたもの
- 4つのゾーン(Design / Alert / Marginal / Danger)の意味を知ると、結果の重さが分かる
- SwRI線図はスクリーニングツール——Marginalが出たら「原因を探す起点」として使う
💡 明日から現場でできること
- 測定後にゾーン判定だけでなく「乖離値の変化」も記録に残す(0に近づいてきたら要注意)
- MarginalまたはDanger Zoneが出た箇所は「次回も同じ場所を測る」を約束事にする
- PDFレポートに測定日・設備名・ゾーン判定を添えて保存する
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