はじめに
振動測定の結果を1回だけ見ても、「異常かどうか」の判断は難しい場合があります。正常に見えても、それが「いつも通り」なのか、「最近になって悪くなった」のかが分からなければ、的確な判断にはつながりません。
そこで力を発揮するのが、傾向管理(トレンド監視)です。
今回は、傾向管理の基本的な考え方と、振動の記録を活用するコツについて解説します。
1. 「傾向管理」って何のためにやるの?
傾向管理とは、ざっくり言えば:
> 「いつもの状態」を把握して、変化が起きたら気づけるようにすること
です。
たとえば、毎月点検しているポンプの振動が「毎回0.8 mm/s前後」で安定していたのに、ある日1.6 mm/sに上がっていたとします。この変化が「正常範囲だけど、何かおかしい」と判断できるのが傾向管理の力です。
📌 ポイントは、「絶対値」ではなく「相対変化」を見ること。
2. 記録しておくと何ができるか
測定のたびに、次のような情報をセットで残しておくと、傾向管理ができるようになります。
✅ 測定履歴を残して、あとから呼び出せる
- 測定した日付・設備名・測定部位・測定値を記録する
- 可能であれば、波形やFFTのグラフも一緒に保存しておく
✅ 同じ設備の値を「時系列グラフ」で見られる
- 同じ設備・同じ部位の値を並べると、推移が見える
- 増加傾向があれば一目で分かる
✅ 測定時の状況をメモしておける
- 例えば「メンテナンス直後」「高負荷時」などの状況を記録する
- 状況と振動の関係をあとから確認できる
これにより、「今どうか?」だけでなく、「以前と比べてどうか?」が判断できるようになります。
3. "違和感"を見える化する3つの視点
では、記録を活用して"異常の兆し"を早めに捉えるには、どこを見ればいいのでしょうか?現場でよく使われる、シンプルな3つの視点があります。
① 「レベルが上がってきている」か?
- 数値(RMS)が少しずつ上がっている場合、異常の前触れであることが多いです。
- 目安として、健全時の値(ベースライン)から+25%で注意、+50%で警戒、のように基準を決めておくと判断しやすくなります(規格で定められた値ではなく、現場で運用しやすくするための目安です。ISO 20816に沿った設定方法はISO 20816に沿った評価、何から始める?を参照)。
② 「ピークが変わってきている」か?
- 変位のピーク周波数が変わったり、高周波が増えていたら注意。
- 新しい傷や摩耗が出ている可能性があります。
③ 「波形が荒れてきている」か?
- 以前は滑らかだった波形に、「ドン」とした衝撃が混じり始めたら、構造の劣化や損傷のサインかもしれません。
4. 仮の例:記録があれば気づけた「壊れる前のサイン」
仮に、あるポンプの軸受で、次のような記録が残っていたとしましょう。
| 日付 | 速度振動RMS (mm/s) | 備考 |
|---|---|---|
| 6月5日 | 0.72 | 通常運転中 |
| 6月15日 | 1.05 | 特に問題なし |
| 6月25日 | 1.52 | 若干異音発生 |
| 7月2日 | 2.48 | 点検したらグリス切れ+摩耗発見 |
6月15日の値(1.05 mm/s)は、6月5日の値(0.72 mm/s)から約46%増えています。前の章で紹介した「ベースラインから+25%で注意」という目安を決めていれば、この時点で「あれ?ちょっと上がってるな」と気づけます。ここで点検していれば、潤滑処理だけで済んだかもしれません。
5. 記録が"属人化"を防ぐ
もうひとつ、記録を残すことの大きなメリットは:
> 「あの人しか知らない」状態から、「誰でも見てわかる」状態に変えられること
です。
振動の異変にいち早く気づけるベテランの感覚は貴重ですが、それが記録されていないと、異動や退職とともに失われます。測定結果を記録として残しておけば、感覚的な「違和感」も可視化・共有化することが可能になります。
📌 点検を「一人の目」から「チームの記録」にする。これが、現場の保全力を底上げする第一歩です。
6. 傾向が見えると判断が変わる
たとえば、次のような判断も、傾向が見えていれば変わってきます。
- 数値が「基準値以下」でも:以前より明らかに上がっていれば対策を検討
- 波形が「パッと見きれい」でも:FFTで新しいピークが立っていれば注意
- 「判断に迷うとき」でも:記録を見れば変化の傾向が判断材料になる
つまり、傾向を見ることで、判断の"根拠"が持てるようになるのです。
専用のログ機能がなくても、この考え方はエクセルだけで実践できます。具体的な計算手順は振動データの傾向管理をエクセルで実践するで解説しています。