「ISO20816とは何か」は分かっても、「自分の設備をISO20816に沿って評価する」となると何から手をつければいいか分からない——そんな声によく出会います。対象機械の特定から、Group・支持形態の判定、測定、Zone判定まで、実務の5ステップに沿って整理します。
はじめに
ISO 20816とは?で規格の全体像を解説しました。成り立ちの歴史、Zone A〜Dの意味、SwRIとの違い——ここまでは「規格を知っている」状態です。
しかし、実際に自分の設備の前に立ったとき、「この設備はどのPartが対象か」「Group Iか IIか」「剛支持か柔支持か」「どこを、どう測ればいいか」——こうした具体的な判断が積み重なって、初めて「ISO20816に沿った評価をした」と言えます。「規格を知っている」と「評価できる」の間には、実は何段階かのステップがあります。
この記事では、その具体的な手順を5つのステップに分けて整理します。
この記事は、ISO 20816とは?を読んで規格の全体像は理解したうえで、「じゃあ自分の設備でどう評価すればいいのか」という次の一歩に悩んでいる保全担当者の方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
- 対象機械がどのPartに当てはまるかの確認手順
- Group I/IIの判定方法
- 剛支持/柔支持を実務で見極める考え方(打撃試験と簡易計算式)
- 測定位置・方向・取付方法の選び方
- Zone判定と二重評価基準を実際に運用する方法
1. ステップ1:対象機械を特定する
まず確認するのは、対象機械の定格出力・回転数・機械種別です。この3つが分かれば、ISO20816のどのPartが当てはまるかを絞り込めます。
工場にある一般的なモーター・ポンプ・ファン・コンプレッサー(15 kW以上)の多くは、**Part 3(一般産業機械)**が対象になります。まずはこれに当てはまるかを確認するのが実務上の近道です。
一方で、次のような設備は対象外(他のPartや別規格が適用)になるため注意が必要です。
| 設備の例 | 実際に適用される規格 |
|---|---|
| 大型タービン・発電機(40 MW超) | ISO 20816-2 |
| 往復動機械(ガスエンジン等) | ISO 10816-6(ISO20816への移行未完了) |
| ターボポンプ(一体型プロセスポンプ) | ISO 10816-7(同上) |
| 往復動圧縮機(レシプロ) | ISO 20816-8 |
注意したいのが往復動機械・ターボポンプです。 「ISO 20816-6」「ISO 20816-7」という番号で呼びたくなりますが、2026年時点ではこの2つのPartはまだISO 10816-6・ISO 10816-7という旧規格のままで、ISO20816への移行が完了していません。設備台帳や報告書に規格番号を記載する際は、この点を取り違えないよう注意してください。
自分の設備がPart 3に当てはまることを確認できたら、次のステップに進みます。
2. ステップ2:Group I/IIを判定する
Part 3では、機械を定格出力によって2つのグループに分類します。銘板(ネームプレート)に記載された定格出力(kW)を確認してください。
| グループ | 定格出力 | 該当例 |
|---|---|---|
| Group I(大型機械) | 300 kW超 | 大型電動機、タービン駆動機械 |
| Group II(中型機械) | 15〜300 kW | 一般産業用電動機、ポンプ、ファン |
中小製造業の現場にある設備の多くはGroup IIに該当します。ここまでで「Part 3・Group II(あるいはI)」というところまで絞り込めました。
3. ステップ3:支持形態を判定する
ここが実務上いちばん迷いやすいステップです。ISO20816では、設備の支持形態を剛支持と柔支持の2種類に分けます。
| 支持形態 | 定義 |
|---|---|
| 剛支持(Rigid) | 設備の固有振動数 > 運転周波数の2倍 |
| 柔支持(Flexible) | 設備の固有振動数 < 運転周波数の2倍 |
判定には、設備の**固有振動数(fn)**が必要です。最も実務的な方法は、**打撃試験(インパクトハンマー試験)**です。架台を軽くハンマーで叩き、加速度センサー+FFT解析で自由振動の応答周波数を読み取れば、fnを直接測定できます。
仮に、こんな状況を考えてみてください。 3000 rpm(=50 Hz)で運転するモーターが、鋼製の架台に据え付けられているとします。打撃試験でfnを測定したところ、約22.3 Hzだったとしましょう。
判定基準は「固有振動数 > 運転周波数の2倍」なので、この場合は 50 Hz × 2 = 100 Hz と比較します。22.3 Hzは100 Hzを大きく下回るため、この架台は柔支持と判定されます。
📎 新設時・据付設計の段階であれば、静的たわみδ(機器荷重によって支持構造物に生じるたわみ量)が設計値として分かっていることがあります。その場合は、バネ‐質量系の固有振動数を求める基本式(fn = (1/2π)×√(g/δ)、gは重力加速度)をδの単位をmmに揃えて整理した概算式 fn ≈ 15.76 / √δ [Hz] でも見積もれます(上の例と同じδ=0.5 mmを代入すると fn ≈ 15.76 / √0.5 ≈ 22.3 Hz で、打撃試験の結果と一致)。ただし、既に据え付けられた設備からδを事後的に測ることはできません。この式はISO20816の規格原文の式ではなく、実務で広く使われている経験式です。
柔支持と判定された場合、measurement10の測定パラメータ選択基準表にあるとおり、筐体振動だけでなく軸振動(回転する軸そのものの変位)の重要性が増します。逆に剛支持と判定されれば、筐体振動を優先して測定する判断が成り立ちます。
📌 打撃試験ができない場合や、判定が微妙なライン(fnが運転周波数の2倍付近など境界に近い)の場合は、Zone境界値がより厳しい柔支持側を保守的に採用する運用がおすすめです(柔支持のZone境界値は剛支持より低く、より早く異常を検知する側になります。具体的な数値差はmeasurement10のZone表を参照)。
4. ステップ4:測定する
対象・Group・支持形態が決まったら、いよいよ測定です。
どこを測るか
| 測定対象 | 測定位置 | 測定方向 |
|---|---|---|
| 筐体振動(非回転部) | 各軸受ハウジング | 水平・垂直(通常2方向、必要に応じて軸方向も) |
| 軸振動(回転部) | 各軸受近傍の軸表面 | 直交2方向(X-Y) |
ステップ3で柔支持と判定した設備は、軸振動も測定する重要性が高いことを念頭に置いてください。
📎 軸振動は、回転する軸に直接センサーを取り付けるわけではありません。ISO 20816-3では、軸振動の測定には非接触トランスデューサを使うのが最も一般的で推奨されるとされており(4.2節)、軸受ハウジング側に固定し、回転する軸表面までのすき間(ギャップ)の変化を直交2方向(X-Y)で検出します。実務では渦電流式のセンサーが広く使われていますが、これは規格原文の指定ではなく業界の一般的な実装です。
センサーの取付方法
筐体振動を測る加速度センサーは、取付方法によって測定精度が変わります。優先順位の目安は次のとおりです。
- スタッド固定(最良):センサーをネジで直接固定。もっとも高精度
- マグネット式(一般的):手軽で現場でよく使われる
測定の周波数範囲は10 Hz〜1000 Hz(精度±10%)が基本です。
バックグラウンド振動に注意する
測定値が周辺の他設備からの振動を拾っていないか確認するには、対象設備を停止させた状態でも一度測定してみるのが有効です。停止時の振動が、運転時の振動やZone B/C境界の値と比べて無視できない大きさ(目安として25%程度)になっている場合は、外部振動源の影響を疑い、補正や原因調査を検討してください。
5. ステップ5:Zoneで判定する
測定値が得られたら、ISO 20816とは?で解説したZone A〜Dに当てはめます。ステップ2・3で確定した「Group」と「支持形態」の組み合わせで、参照するZone境界値の表が決まります(具体的な数値表はmeasurement10の5節を参照してください)。
ここで忘れてはいけないのが、ISO20816の二重評価基準です。
| 基準 | 比較対象 | 使う場面 |
|---|---|---|
| Criterion I(絶対値基準) | 測定値 vs Zone境界値 | 受入試験、初回の基準設定 |
| Criterion II(変化量基準) | 現在値 vs ベースライン(正常時の値) | 日常の運転監視、予知保全 |
この2つのうち、悪い方の評価を採用するのがルールです。 絶対値がZone Bの範囲内でも、ベースラインから急上昇していれば「要注意」として扱います。
Criterion IIを実際に運用するには、過去と比べて見えるもの──傾向管理と違和感の可視化で紹介した記録・比較の仕組みが前提になります。目安として、自社の警報基準を「ベースラインから+25%で注意」「+50%で警戒」のように、あらかじめ数値で決めておくと、日々の判断に迷わずに済みます(この数値はISO20816の規格原文で定められた固定値ではなく、現場で運用しやすくするための目安です。自社の設備特性・過去のトラブル履歴に応じて調整してください)。
まとめ
ISO20816に沿った評価は、①対象機械の特定②Group判定③支持形態の判定④測定⑤Zone判定という5つのステップの積み重ねです。規格の中身を知っているだけでは終わらず、自分の設備に当てはめて一つずつ判断していくことで、初めて「準拠した評価」になります。
📌 この記事のポイント3つ
- まず対象機械の出力・回転数・種別からPartを絞り込む。往復動機械・ターボポンプはISO20816への移行が未完了な点に注意
- 支持形態(剛支持/柔支持)は打撃試験で固有振動数を直接測るのが実務の基本。判定が微妙な場合は、Zone境界値がより厳しい柔支持側を保守的に採用する
- Zone判定は絶対値(Criterion I)と変化量(Criterion II)の悪い方を採用する。変化量基準の運用には傾向管理の仕組みが前提になる
💡 次にできること
- 対象設備の銘板から定格出力・回転数を確認し、該当するPart・Groupを絞り込んでみる
- 架台を軽く叩く打撃試験で固有振動数を測り、運転周波数の2倍と比較して支持形態を判定してみる
- 測定値を記録するベースラインの仕組み(傾向管理)が自社にあるか確認する
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