測定技術

加速度センサーとジャイロセンサーの違いとは?──スマホの動き検知の仕組みで理解する

Mon Aug 24

加速度センサーとジャイロセンサーを、検出する物理量(直線加速度/角速度)と得意なこと(傾き・動きの検知/素早い回転の検知)で対比した図

スマートフォンには加速度センサーとジャイロセンサーという2種類のセンサーが入っていますが、この2つが何を検知していて、どう役割分担しているのかは意外と知られていません。今回は「ジャイロセンサーとは何者か」に焦点を当てて整理します。


はじめに

前回の記事では、スマートフォンに内蔵されている加速度センサー(多くはジャイロセンサーと一体化した6軸IMU)の仕組みと、歩数計や画面回転といった身近な使われ方を紹介しました。そこでは「加速度センサーが主役、ジャイロセンサーは脇役」という程度の説明にとどめましたが、実はジャイロセンサー自体の仕組みや、加速度センサーとの役割分担を知っておくと、身近な機能の裏側がぐっと理解しやすくなります。

この記事では、加速度センサーとジャイロセンサーがそれぞれ何を検知しているのか、ジャイロセンサーがどうやって「回転の速さ」を検知しているのか、そして産業の振動測定の世界でなぜジャイロセンサーがほとんど登場しないのかを整理します。

この記事は、スマホのセンサーの仕組みに関心がある方、加速度センサーとジャイロセンサーの違いを整理したい保全担当者・測定担当者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • 加速度センサーとジャイロセンサーが検知する物理量の違い
  • ジャイロセンサーが「回転の速さ」を検知する仕組み
  • 身近な機能における2つのセンサーの役割分担
  • 産業の振動測定でジャイロセンサーが主役にならない理由

1. 加速度センサーとジャイロセンサー、何が違うのか

前回の記事で見たとおり、スマートフォンの多くには加速度センサーとジャイロセンサー(角速度センサー)を組み合わせた6軸IMU(慣性計測ユニット)が内蔵されています。この2つは名前が似ているため混同されがちですが、検知している物理量はまったく別物です。

センサー検出する物理量得意なこと
加速度センサー直線方向の加速度(動きによる加速度+重力加速度)「傾いているか」「動いた・止まったか」の検知
ジャイロセンサー角速度(回転の速さ)「どの向きに、どれだけ速く回転しているか」の検知

加速度センサーは、スマートフォンが完全に静止していても重力の影響で常に「下向きに1G」という値を出力し続けます(前回の記事で解説した重力成分の話です)。この重力方向の変化を追いかけることで、大まかな傾きは加速度センサー単体でも判定できます。

一方でジャイロセンサーは、重力とは無関係に「今この瞬間、どの軸を中心にどれだけ速く回転しているか」だけを検知します。傾きの変化がゆっくりであれば加速度センサーだけでも十分追跡できますが、素早く回転する動きや、重力方向の変化が少ない回転(画面を寝かせた状態でクルッと回すような動き)は、加速度センサーの重力成分だけでは判定が難しくなります。ジャイロセンサーは、まさにこの「素早い回転」「重力方向だけでは分からない回転」を直接検知する役割を担っています。


2. ジャイロセンサーはどうやって回転を検知しているのか

加速度センサーがバネにつながった微小な質量の動きを検知する仕組みだったのに対し、スマートフォンに使われるMEMS型のジャイロセンサーは、振動している質量体に働くコリオリ力を利用して回転を検知します。

イメージしやすいのは、音叉(おんさ)です。音叉の2本の腕を一定方向に振動させた状態で、音叉全体をその振動方向と垂直な軸を中心に回転させると、腕の振動方向とは別の、もう一方向に小さな振動が新たに生まれます。これは、回転している物体の中で振動している質量には、進行方向と回転軸の両方に直角な向きの力(コリオリ力)が働くためです。この「新たに生まれた振動」の大きさが、ちょうど回転の速さ(角速度)に比例します。

MEMS型ジャイロセンサーは、半導体プロセスで作られた微小な質量体を一定方向に振動させ続け、回転が加わったときに生じる直角方向のわずかな振動を静電容量の変化として検出しています。仕組みとしては、加速度センサーと同じMEMS(微小な機械構造)の技術を使いながら、検知するための物理現象(コリオリ力)が異なる、という関係です。

振動する質量体を一定方向に振動させた状態で回転を加えると、進行方向と回転軸の両方に直角な向きにコリオリ力が働き、元の振動方向とは別の向きに新しい副振動が生まれることを示す2パネルの図。左パネルは回転していないときで質量体が一定方向に振動するだけの状態、右パネルは回転Ωが加わったときで元の振動に加えて直角方向の副振動が発生し、その大きさが回転の速さに比例することを示す
振動する質量体を一定方向に振動させた状態で回転を加えると、進行方向と回転軸の両方に直角な向きにコリオリ力が働き、元の振動方向とは別の向きに新しい副振動が生まれることを示す2パネルの図。左パネルは回転していないときで質量体が一定方向に振動するだけの状態、右パネルは回転Ωが加わったときで元の振動に加えて直角方向の副振動が発生し、その大きさが回転の速さに比例することを示す
項目加速度センサージャイロセンサー
基本構造バネ+質量体(MEMS)振動する質量体(MEMS)
利用する物理現象慣性力(動き・重力による力)コリオリ力(回転により生じる力)
出力される値直線方向の加速度回転軸まわりの角速度

3. 身近な機能で見る「加速度だけ」と「加速度+ジャイロ」

役割の違いが分かったところで、身近な機能がどちらのセンサーに支えられているかを見てみましょう。

加速度センサーだけで足りる機能

前回の記事で紹介した歩数計は、上下方向の加速度の周期的な波形を解析する仕組みで、加速度センサー単体で成立します。画面の自動回転も、基本的には重力方向がどの軸に乗っているかという加速度センサーの情報だけで判定できる動作です。

ジャイロセンサーの情報が組み合わされる機能

一方で、素早い動きや複雑な回転が絡む場面では、ジャイロセンサーの情報が組み合わされることが多いとされています。

  • ゲームの傾き操作:本体を素早く傾けてキャラクターを操作するような場面では、加速度センサーの重力成分だけでは追いつきにくい素早い回転の変化を、ジャイロセンサーが直接捉えます
  • カメラの手ぶれ補正:撮影中の手の震えによる回転方向のブレを検知し、レンズや画像処理側で打ち消す仕組みに、ジャイロセンサーの情報が使われているとされています
  • AR(拡張現実)アプリ:スマートフォンを空間の中でどちらの向きに構えているかをリアルタイムに追跡する必要があり、素早い姿勢変化を直接検知できるジャイロセンサーの情報が欠かせません

このように、「ゆっくりした動き・傾き」は加速度センサーだけでもある程度追いかけられますが、「素早い回転」「重力方向の変化だけでは判定しづらい回転」が絡む機能では、ジャイロセンサーが本領を発揮します。


4. 産業の世界では、どちらが主役になるかは「測りたい物理量」で決まる

ここまで見てきたジャイロセンサーは、振動測定の基本加速度センサーの種類と特性など、このブログの他の記事にはほとんど登場しません。これは偶然ではなく、産業の振動診断が評価している物理量そのものが理由です。

ISO 20816をはじめとする振動診断の規格が評価しているのは、設備が「並進方向にどれだけ揺れているか」(振動加速度・振動速度・振動変位)です。これは物体がある方向に押し引きされる動きであり、ジャイロセンサーが検知する「回転の速さ」とは異なる物理量です。設備の軸が曲がって回転する、支持部が緩んで揺れるといった振動診断で扱いたい現象は、いずれも並進方向の揺れとして加速度センサーで捉えるべき現象であり、ジャイロセンサーの出番はほとんどありません。

角速度そのものが「測りたい物理量」になる場合

ここまでは「並進方向の揺れを診断したい」という振動測定の文脈での話でしたが、測りたい物理量が変われば、ジャイロセンサーが主役になる場面もあります。

  • ねじり振動:回転機械には、軸が並進方向に揺れる現象とは別に、回転速度そのものが周期的に変動する「ねじり振動」という現象があります。エンジンのクランクシャフトや、タービン・コンプレッサーの軸列などで、負荷変動や燃焼変動が引き金になって起こります。物理量としては角度・角速度の変動そのものであり、概念上はジャイロセンサーが検知する対象と同じ種類の量です。ただし実際の産業計測では、MEMSジャイロではなく専用のねじり振動計測システム(位相差計測・トルクトランスデューサ等)が使われることが多く、これは要求される精度・周波数帯域が、前回の記事で見たコンシューマー向けMEMSジャイロの実用域を超えるためです。
  • 姿勢制御・安定化用途:ドローン、ロボット、カメラの手ぶれ補正、船舶の動揺安定化装置など、「今どちらを向いているか・どれだけ速く傾いているか」を直接知りたい制御の場面では、ジャイロセンサーがまさに主役になります。これは「振動を診断する」目的ではなく「姿勢を制御する」目的であり、SOMブログが扱う振動診断とは目的の軸そのものが異なります。

つまり「ジャイロセンサーの出番がない」のではなく、「振動診断が扱いたい物理量(並進方向の揺れ)ではジャイロセンサーの出番が少ない」というのが正確な言い方です。スマートフォンの中で加速度センサーとジャイロセンサーが役割分担しているのと同じように、産業の測定機器の世界でも「何を測りたいか」によってセンサーの主役が変わります。


まとめ

加速度センサーは直線方向の加速度(動き+重力)を、ジャイロセンサーは回転の速さ(角速度)を検知しており、検知している物理量そのものが異なります。ジャイロセンサーはMEMS構造の中で振動する質量体にコリオリ力が働く現象を利用して回転を検知しており、加速度センサーとは異なる物理現象を使っています。身近な機能では、ゆっくりした動きは加速度センサーだけで、素早い回転が絡む機能はジャイロセンサーも組み合わせて実現されています。産業の振動測定は並進方向の揺れを評価するため加速度センサーが主役になりますが、ねじり振動や姿勢制御のように角速度そのものが測りたい物理量になる場面では、ジャイロセンサーが主役になります。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 加速度センサーは「直線方向の加速度」、ジャイロセンサーは「回転の速さ」を検知しており、物理量そのものが違う
  2. ジャイロセンサーはMEMS構造の中でコリオリ力を利用して回転を検知している
  3. 産業の振動測定では並進方向の揺れが対象のため加速度センサーが主役だが、ねじり振動や姿勢制御のように角速度が対象になれば主役が変わる

💡 次にできること

  • 自分のスマホの設定・仕様ページで、加速度センサーとジャイロセンサーの両方が搭載されているか確認してみる
  • カメラの手ぶれ補正やARアプリを使うとき、素早い動きへの反応の良さを意識して体感してみる
  • 前回の記事次の記事もあわせて読み、スマホセンサーと産業用センサーの違いを一通り整理する

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