測定技術

振動の許容値はどう決める?──規格がある設備・ない設備の両方に対応する判定ガイド

Tue May 26

振動測定で数値が出た後、「この値は良いのか悪いのか」をどう判断するか。SwRI・ISO 20816など規格がある設備の読み方と、規格が適用されない設備で自分で許容値を決める4つの手順を解説します。

はじめに

振動を測定する目的は、最終的には「この設備は今、大丈夫か」を判断することです。しかし現場でよく聞かれるのが、「測定はできた。でも、この値が良いのか悪いのかがわからない」という声です。

許容値がわからないと、測定データが宝の持ち腐れになります。逆に、適切な許容値さえ決まれば、数値を見るだけで「注意」「要対策」「問題なし」の判断ができるようになります。

許容値の決め方には大きく2つのルートがあります。その設備に適用できる規格がある場合と、規格がない場合です。本記事では両方をカバーし、規格がない設備でも現場で使えるベースラインの作り方まで解説します。

1. まず確認:優先順位を決める2ステップ

許容値を決める前に、使える情報源がないかを確認します。

Step 1:メーカー推奨値・仕様書に記載があるか

設備の取扱説明書・仕様書に「許容振動値」「アラーム設定値」などの記載がある場合は、これを最優先で使います。業界規格は設備カテゴリ全体の統計的な基準ですが、メーカー推奨値はその機器の設計・材質・構造を踏まえた固有の値です。より根拠のある数字から始められるため、現場での合意形成もしやすくなります。

メーカー推奨値がある場合、2章は読み飛ばして3章(変化率・リスクベース)と4章を参照してください。

Step 2:使える業界規格があるか(メーカー推奨値がない場合)

設備の種類によって適用できる規格が異なります。

設備の種類適用可能な規格
配管・配管サポートSwRI B&V 3-501
ポンプ・モーター・ファン・コンプレッサーISO 20816
一般産業機械(回転機)ISO 10816(旧版)
汎用機械(欧州基準)VDI 2056
上記に該当しない設備→ 3章の方法で自己設定

規格の選び方と各規格の詳細については「配管振動評価基準の選び方」で解説しています。


2. 規格がある設備:判定ゾーンの読み方

2.1 SwRI(配管振動)

SwRIの判定基準は、配管の振動速度(mm/s、peak値)で評価します。配管のサイズ・スパン・周波数帯によって許容値が変わるため、使用する際は規格表を参照してください(詳細は「SwRI配管振動評価線図とは?」)。

現場で押さえておくポイントは2点です。

①「注意ライン」と「危険ライン」の2段階がある

注意ラインを超えた時点で「原因を調べ始める」、危険ラインを超えたら「運転継続のリスクを評価する」という使い方が一般的です。「超えたら即停止」ではなく、2段階で対応を変えることが重要です。

②「規格以下=問題なし」と断言できない場合がある

規格はあくまで「典型的な配管の統計的な許容値」をもとにした基準です。腐食が進んだ配管・過去に修繕歴のある配管・サポートが緩んでいる配管などは、規格以下でも注意が必要です。規格と傾向管理を組み合わせることで、より信頼性の高い判断ができます。

2.2 ISO 20816(回転機械)

ISO 20816は、ポンプ・モーター・ファン・コンプレッサーなどの回転機械に適用される規格です。振動速度(mm/s、RMS値)で4つのゾーンに分類します。

ゾーン状態の目安対応
A新設・オーバーホール直後の良好な状態問題なし
B長期連続運転として許容できる状態問題なし
C長期連続運転には不適。短期間は許容原因調査を開始
D機器に損傷を与えるリスクが高い状態早急な対応が必要

グループ1(15kW超・剛性基礎)の場合、A≦2.3、B≦4.5、C≦7.1 mm/s(RMS)が目安です(設備グループによって値が異なります)。

現場での活かし方

  • 新設・オーバーホール後:Aゾーンに収まっているか確認
  • 定期点検:前回と比べてゾーンが変わっていないか確認
  • Cゾーンに入ったら:即停止ではなく原因調査を優先し、Dゾーン手前で対策を打つ

2.3 規格内でも見逃せないサイン

規格の範囲内であっても、次のような変化がある場合は注意が必要です。

  • 短期間(1〜2週間)でゾーンが一段階上がった
  • 特定の周波数成分だけが急増している(FFT解析で確認)
  • 運転条件(回転数・流量・温度)が変わっていないのに値が増加している

「規格以下だから大丈夫」ではなく、「前回より増えていないか」を常に確認する習慣が重要です。


3. 規格がない設備:許容値を自分で決める3つの方法

規格が存在しない設備、または規格の対象外となる設備は現場に多く存在します。「どう判断すればいいかわからない」と感じるのは当然ですが、いくつかの実践的な方法で許容値を設定することができます。

方法① 健全時の測定値(ベースライン)を基準にする

設備が健全な状態のときに測定した値を「正常値(ベースライン)」として記録し、そこから許容値を設定する方法です。

設定の目安

注意ライン:ベースライン × 2倍
危険ライン:注意ラインを超えてさらに増加が続く場合

たとえば、オーバーホール直後の測定値が 3 mm/s だとすると、6 mm/s を注意ラインとして設定するイメージです。

いつ測るか

  • 設備の新設時・設置直後
  • オーバーホール直後
  • 長期停止後の再起動時

これらのタイミングを「健全状態」と定義して記録しておくことが、後の判断精度を高めます。「設備を入れた当初のデータを残していなかった」という後悔は現場でよく聞かれます。新設時の1回の測定が、数年後の判断に直結します。

方法② 変化率・傾向で判断する

絶対値よりも「前回からの変化」を重視する方法です。値が規格や許容値に対してどの位置にあるかではなく、「急に増えていないか」を見ます。

判断の目安

  • 前回比 1.5倍以上:原因調査を開始
  • 前回比 2倍以上:早急に対応を検討
  • 短期間(2〜3回の測定)で急増:設備の状態が変化している可能性が高い

傾向管理のメリットは、許容値の絶対値が決まっていなくても使えることです。「先月は 5 mm/s だったのに今月は 9 mm/s になった」という変化は、絶対値の基準がなくても明らかな異常サインです。

傾向管理の具体的な方法は「過去と比べて見えるもの──傾向管理と違和感の可視化」で詳しく解説しています。

方法③ 設備重要度(リスクベース)で基準を変える

許容値は全設備一律でなく、設備の重要度に応じて厳しさを変えるのが合理的です。

ランク設備の特徴許容値の考え方
A(重要)止まると生産ラインが全停止・代替なし厳しく設定。注意ラインで早めに動く
B(準重要)停止は影響あるが代替手段あり標準的に設定
C(軽微)停止しても影響が限定的・修理が容易緩めに設定してもよい

よくあるのが、全設備に同じ許容値を設定しようとして管理が回らなくなるケースです。重要度の高い設備には厳しい基準を、重要度の低い設備には合理的な基準を——このメリハリが、限られた人員で現場を維持する上での現実解です。


4. 許容値を超えたらどうするか

許容値を超えた場合、まず「その値が本当に信頼できるか」を確認することが重要です。センサーの固定不良や測定位置のずれで誤った値が出ることがあるため、即座に停止を決定する前に次のステップを踏みます。

Step 1:計測の信頼性を確認
   └─ センサーの固定状態・位置・測定条件を再チェック

Step 2:再測定で再現性を確認
   └─ 同じ値が再現するなら「本物」の異常

Step 3:傾向を確認
   ├─ 急変(短期間で急増)→ 緊急性が高い
   └─ 緩やかな上昇 → 経過観察しながら原因調査

Step 4:原因の仮説立て
   ├─ 共振(固有振動数との一致)→ vibration8 参照
   ├─ アンバランス(回転機の場合)
   ├─ サポートの緩み・脱落
   └─ 流体脈動の増大

Step 5:運転継続か停止かの判断
   ├─ 危険ゾーン(Dゾーン)・急変 → 停止を優先
   └─ 注意ゾーン(Cゾーン)・緩やかな変化 → 監視頻度を上げて継続

「許容値を超えた=即停止」ではありません。状況を整理してから判断することで、不必要な生産停止を避けつつ、本当に危険な状態には素早く対応できます。


5. 振動管理で本当に大事なこと:記録・蓄積・比較

許容値の決め方をここまで説明してきましたが、最後に一番大事なことをお伝えします。

振動管理の本質は、記録して、貯めて、比較することです。

これだけです。難しい規格の読み方や計算よりも、この習慣があるかどうかが、現場の振動管理の質を決めます。

「1回取って判断する」のもったいなさ

1回の測定値は「点」にすぎません。その値が 5 mm/s だったとして、それが良いのか悪いのか、増えているのか減っているのか、1回の測定では何もわかりません。比較する過去のデータがなければ、その数字は宙に浮いたままです。

規格と照らし合わせて「範囲内だった」と安心して終わりにするのは、もったいないことです。その測定値を記録しておけば、次回の測定と比べたとき初めて「変化していない」「じわじわ増えている」という情報が生まれます。

「変化がないからやめる」のもったいなさ

「毎回測っても変わらないから、もう測らなくていいか」——この判断は、振動管理でよくある落とし穴です。

変化がない期間の記録こそが、将来の変化を検知するための基準になります。何も起きていない時期のデータが積み重なってはじめて、「先月から急に増えた」「この設備は設置から5年で少しずつ上がる傾向がある」という気づきが生まれます。変化がないことの記録は無駄ではなく、未来の異常を早期に捉えるための資産です。

記録・蓄積・比較が生み出すもの

行動得られるもの
記録するベースライン(正常値の定義)と変化点の特定
溜める傾向(増加中か・安定しているか)の可視化
比較する「いつから・どれくらい変わったか」の根拠

この3つが揃ったとき、「なんとなく心配」が「データに基づく判断」に変わります。測定器を持ち出したついでに値を残す。それだけで、振動管理の精度は長期的に底上げされていきます。

傾向管理の具体的な進め方は「過去と比べて見えるもの──傾向管理と違和感の可視化」で解説しています。


6. まとめ

振動の許容値を決めるには、まず「規格が使えるか」を確認するところから始まります。

この記事のポイント3つ

  1. メーカー推奨値が最優先、次に業界規格:SwRI(配管)・ISO 20816(回転機械)は信頼できる基準だが、メーカー仕様書に記載があればそちらを使う
  2. 規格もない設備は健全時のデータが出発点:設置直後・オーバーホール直後の測定値をベースラインとして記録しておくことが、後の判断精度を決める
  3. 「1回測って終わり」では意味がない:継続した記録があって初めて変化率・傾向・変化点が見えてくる。測定のたびに値を残す習慣が振動管理の土台

💡 明日から現場でできること

  • 今動いている設備の現在値を測定し、記録に残す(ベースラインの第一歩)
  • 設備ごとに重要度ランク(A/B/C)をつけ、許容値の厳しさに差をつける
  • 次回の測定時に「前回比」を意識して変化率を確認する
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