はじめに
蒸気配管や温水配管の保温材を、補修のために剥がしたら、中の配管が真っ赤に錆びていた。外装板は多少汚れていたものの、穴や大きな変形はなく、そのまま使えると思っていた——保全の現場では、そんな経験談を耳にします。
こうした保温材下腐食(CUI:Corrosion Under Insulation)は、その名のとおり保温材と配管の間で進む外面腐食です。配管の内側ではなく外側で進み、しかも保温材と外装板に隠れているため、肉厚測定や目視といつもの点検では存在に気づけません。
この記事では、保温材そのものの選び方(保温材の落とし穴と保全視点の正しい選び方)とは切り口を変えて、CUIという腐食そのものに絞って整理します。なぜ起きるのか、どこで起きやすいのか、保温材を全部は剥がせない現場でどう優先順位をつけて点検するのかを順に見ていきます。
💡 この記事で得られること
- CUIが起きるしくみと、普通の屋外腐食より厄介な4つの理由
- 発生しやすい温度条件・運転条件と、見るべき箇所
- 保温材を全部剥がさずに、点検の優先順位をつける考え方
1. 保温材下腐食(CUI)とは
CUIは、保温された炭素鋼・低合金鋼配管の外面で、保温材との間に水分が入り込んで起きる腐食です。CUIは大気腐食の一種です。雨水、あるいは保温材内部で凝縮した水分が配管表面に水膜をつくり、その水膜を通じて鋼材の表面に「腐食電池」ができて、鉄が溶け出すという電気化学的な反応です。
ここで押さえておきたいのは、CUIは普通の屋外の錆びとは性質が違うという点です。次の4つの特徴があります。
| 特徴 | 内容 |
|---|---|
| ① 水の入り口が読めない | 水の侵入箇所と、水膜ができて腐食する箇所は必ずしも一致せず、予測しづらい |
| ② 濡れた時間が長い | 一般的な屋外大気腐食より、湿った状態が長く続く |
| ③ 進行が速い | 一般的な大気腐食より腐食速度が大きい |
| ④ 局所的に深く進む | 全面が均一に錆びるのではなく、腐食箇所が局所化しやすい |
つまり、保温材は断熱の役目を果たす一方で、いったん水が入ると水を抱え込んで逃がさない働きをしてしまいます。しかも外から見えないため、気づいたときには局所的に深く腐食が進み、ピンホールから漏れが起きて初めて発覚することもあります(ピンホールについてはピンホールって何?も参照してください)。
腐食は、いくつかの核をもって局部的に密集しながら肉厚方向に進み、断面で見ると半楕円形に深く食い込む形になります。配管全体の肉厚を平均して見ても問題なさそうに見えて、局所的な減肉が漏洩の原因になるのは、この性質のためです。
2. なぜ起きるのか:水の入り口と、水が居座るしくみ
CUIの原因は「水」です。水の供給源は、次の4つに整理できます。
- 外部から侵入する水:降雨や、冷却水の飛沫など
- 温度差による結露:配管と周囲の温度差によって水蒸気が凝縮する
- 毛管凝縮:保温材と鋼表面の微細なすきまで、水分が凝縮する
- 化学凝縮(潮解):海塩粒子や保温材から溶け出した不純物イオンが、空気中の水分を引き寄せる
①は外から入ってくる水、②〜④は保温材の内側で空気中の水分が凝縮してできる水です。特に②〜④は、屋内の配管でも、雨が当たらない場所でも起こりえます。「雨が当たらないから大丈夫」とは言い切れない理由がここにあります。
2.1 腐食が進む流れ
進行の流れは次のとおりです。
外装板の腐食穴あき・シール材の損傷により水が侵入 → 保温材が水を保持・供給 → 塗装被膜が劣化 → 水膜と酸素が供給される → 腐食発生 → 塩分や運転温度によって加速
この流れの最初に出てくる「外装板の腐食・穴あき」や「シール材の損傷」は、外から確認できる情報です。配管の中の腐食そのものは見えなくても、水の入り口になる外装板の状態は見えるということが、後述する点検の進め方の出発点になります。
2.2 年数との関係
年数の目安もあります(いずれも事業者の実績や環境によって変わる参考値です)。
- 配管外面の防食塗装(通常のエポキシ塗装)は、新設後15年程度、補修塗装後8年程度で劣化したとみなす例が多い
- 亜鉛鉄板製の外装板は、環境により異なるが、大半がほぼ20年で穴あきが生じるといわれる
これらの目安から考えると、防食塗装の劣化と外装板の穴あきが重なってくる15〜20年目前後以降は、水が入りやすく、かつ配管を守る塗装も弱っている、リスクが高まりやすい時期といえます(この年数はあくまで目安で、実際は環境と補修履歴で変わります)。また、乾燥期には腐食がいったん止まり、あとで加速することもあるため、経過年数と腐食の進み方は必ずしも比例しません。
3. 起きやすい条件:温度と運転の仕方
「どの温度が危ないのか」は、現場でよく聞かれる疑問です。
3.1 温度
温度については、業界ガイドラインの腐食予測の参考例が、60〜120℃の範囲を腐食速度が大きいと見なして評点を高くしています。ただしこの温度区分は暫定値で、管理する温度範囲も事業者が決めるものとされています(ガイドラインの適用の目安は、運転温度で常温〜150℃です)。
高温の配管でも油断はできません。この評点はスチームトレースなどで配管表面を常時乾燥させられる高温に保てている場合を除く、という前提です。運転が止まって温度が下がるなら、次に述べるように話が変わります。
3.2 運転の仕方(間欠運転・長期休止)
運転条件もCUIの重要な要因です。頻繁に停止する配管や長期休止している配管は、運転が止まると配管の温度が常温近くまで下がるため、保温材内部で結露が起きやすくなります。
このため、前述の参考例でも、同じ温度・同じ年数なら間欠運転は連続運転より高い評点になっています。ただし、スチームトレースなどで配管表面を常に高温に保ち、乾燥状態を維持できている場合は、間欠運転とは扱いません。
つまり、危険度を左右するのは温度だけではなく、**「温かい状態と冷えた状態を繰り返しているか」**です。工場でいえば、週末や長期休暇で止める蒸気ライン、季節運用の温水ライン、予備側の配管などが該当します。
3.3 周囲の環境
大気環境も評点に影響します。**屋内、屋外一般、海岸部(海水飛沫に直接さらされる)、水噴霧環境(噴霧や水蒸気に直接さらされる)**の順に高く評価されています。冷却塔の近く、洗浄水がかかる場所、海に近い工場などは、同じ配管でも環境の面でリスクが高いと考えます。
4. 発生しやすい箇所:外から見るべきポイント
目視点検のポイントは、次の3つに絞れます。
- 水の侵入しやすい箇所(保温材の不連続部、外装板の劣化・損傷箇所)
- 水の滞留しやすい箇所(侵入水が集中して溜まりやすい箇所)
- CUIの発生しやすい環境(運転温度・運転条件、温度降下、水噴霧・スチーム、海水飛沫など)
具体的な箇所の例は、次のとおりです。
| 分類 | 具体的な箇所 |
|---|---|
| 保温材の不連続部(貫通・切欠き) | ベント・ドレン部、ハンガーの保持部、パイプシューの取付部、トレース管貫通部、床の貫通部、サポート取付部、機器ノズル部、計装用の取り出し配管、フランジ・付属品 |
| 保温材の末端部 | 鉛直配管の末端部 |
| 外装板の損傷・劣化 | 変色(高温やけ)、止めバンドのはずれ、重ね合わせ部の外れ、はぜ掛けの弛み、さび・腐食・穴あき、膨れ、継ぎ目の充填材(マスチック)の劣化 |
| 水が滞留しやすい箇所 | 鉛直配管の保温材末端部、立上がり配管のエルボ |
共通するのは、保温材が途切れる・貫通される場所で、水が入る隙間ができやすいということです。外観の異常としては、さび汁、外装板の膨れ、保温材の吸湿、サポート部のカビやコケなどがあります。外装板の外にまでにじみ出た錆び汁や、外装板の膨らみは、内側の腐食が進んでいるサインです。
なお、水が溜まりやすい・湿気がこもる・水がかかるといった環境で、保温材の不連続部や外装板の損傷まで見つかった場合は、腐食している可能性がきわめて高いと考えられます。環境が厳しいときは、外観に異常がなくても、過去の経験を踏まえて剥離を判断するという考え方もあります。
また、サポート周りは、配管サポートの腐食脱落でも触れたとおり、保温材下の水分侵入が支持具の腐食と複合して進むことがあります。保温配管のサポート取付部は、CUIの点検でも優先して確認したい箇所です。
5. 点検の進め方:全部は剥がせない現場の優先順位づけ
CUIの点検で最も信頼できるのは、保温材を剥がして配管の外面を直接見ることです。保温材を付けたままでは、非破壊で信頼性の高い検査はできないとされています。しかし、一つの工場に何キロメートルもの保温配管があることも珍しくなく、すべてを剥がすのは時間的にも費用的にも現実的ではありません。
そこで、次の3段階の手順が基本になります。
① 優先順位づけ → ② スクリーニング検査 → ③ 剥離箇所の特定
つまり、「どこを剥がすか」を絞り込む作業が点検の中心です。
5.1 優先順位づけ:影響度と腐食の起きやすさの掛け合わせ
優先順位は、次の2軸で決めます。
- 重要度(漏れたときの影響度):内部流体の性質(毒性、可燃性、圧力など)、漏洩時の停止コスト、環境や安全への影響
- 腐食予測度(CUIの起きやすさ):経過年数、運転温度、運転条件(連続か間欠か)、防食塗装の有無、大気環境、そして目視点検の結果
この2軸の掛け合わせで、配管を「最優先」「優先」「その他」に分けます。最優先配管は基本的に全面剥離、優先配管は次のスクリーニング検査で剥離箇所を絞り、その他の配管は「急がなくてもよいが、検査不要ではない」という扱いです。
なお、目視点検は異常を見つけるためのものです。外観が「問題なし」でも、腐食の起きやすさの評価を下げる方向には補正しません。見た目がきれいだから安全、とは判断しないということです。
5.2 日常点検:外装板を見る
腐食の起きやすさの評価に使う目視点検は、運転中に行う日常点検が主体です。地上や既設の足場から、対象の配管を広い範囲で観察し、前節の表のような外観の不具合を拾い上げます。全エリアを1年ごとに一巡できることが望ましいとされています。
この点検は、現場の担当者が巡回の中で行えるものです。見つけた異常は、位置と写真を記録して、次回以降の腐食予測に反映します。
5.3 スクリーニング検査:保温材を外さずに絞り込む
目視だけでは判断がつかない箇所や、足場が必要な高所、長い配管には、保温材を付けたまま調べる非破壊検査を併用して、剥離すべき箇所を絞り込みます。代表的な手法は次の3種類です。
| 手法 | 概要 |
|---|---|
| ガイド波超音波検査法 | リング状の送受信器で配管の長手方向に超音波を伝播させ、長い範囲の減肉の有無を一度に調べる |
| パルス渦流磁気検査法 | パルス電流で磁界を与え、保温材を付けたまま肉厚の減少を測る |
| 放射線検査法 | ガンマ線またはX線を使う。透過能によって適用できる肉厚・外径の範囲が決まる |
また、保温材の水分を調べる方法として、中性子水分計と赤外線サーモグラフィがあります。ただし、水分測定はCUIの腐食部を直接見つけるものではなく、保温材の水分の有無を半定量的に判断する用途に使うものです。
非破壊検査の手法にはそれぞれ検出限界や見逃しがあるため、結果を絶対視せず、現場の経験や目視の結果とあわせて剥離の要否を判断します。依頼する側としては、「どこをどの手法で調べるのか」「見逃しの可能性はどの程度あるのか」を、検査会社に確認しておくと安心です。非破壊検査の頼み方の基本は配管の非破壊検査:UT・PT・MTの使い分けでも整理しています。
5.4 中小規模の現場でできること
参考にしたガイドラインは大規模プラントを想定していますが、考え方は工場の保温配管にも応用できます。
- 保温配管のリストをつくる:ライン名、運転温度、連続か間欠か、設置からの年数、屋内外を一覧にする
- 危険度の高い順に並べる:間欠運転の蒸気ライン、築20年を超える屋外配管、水がかかる場所の配管を上位にする
- 外装板の状態を年1回は見て回る:さび汁、膨れ、継ぎ目の隙間、止めバンドの外れを、写真つきで記録する
- 修理のついでに記録を残す:改修や点検で保温材を外すことがあれば、そのときの配管表面の状態を記録して次の優先順位づけに生かす
最後の4つ目は特に重要です。剥がしたときの状態を記録して次回の優先順位づけに反映していくと、点検の精度が少しずつ上がります。
6. まとめ
保温材下腐食(CUI)は、保温材と外装板に隠れた配管の外面で、水分が抜けないまま局所的に深く進む腐食です。外から見えないため、気づいたときには漏れていた、という形で発覚しがちです。
📌 この記事のポイント3つ
- CUIは「水が入る→保温材が水を抱え込む→塗装が劣化する」という流れで進み、屋内でも結露で起こりうる
- 危険度は温度だけでなく、運転の止め方(間欠・長期休止)、経過年数、環境で決まる。見るべきは、保温材の貫通部・末端部・外装板の損傷箇所
- 全部は剥がせないので、重要度×腐食の起きやすさで優先順位をつけ、外装板の目視と非破壊検査で剥離箇所を絞る
💡 明日から現場でできること
- 担当する保温配管のうち、止めたり動かしたりを繰り返しているラインを洗い出す
- 外装板の継ぎ目・止めバンド・サポート取付部に、さび汁や膨れがないか見て回る
- 保温材を外す機会があれば、中の配管表面を写真に残す