振動の話

似ているけど実は別物──現場で混同しやすい振動・配管用語まとめ

Wed Jun 24

固有振動数と共振周波数、伸縮継手と可とう継手と防振継手、音響診断と超音波診断、ベーン通過周波数とブレード通過周波数。似た言葉だが実は指している物理現象・対象が違う4つの用語ペアを、誤解と正解の形で整理します。


はじめに

振動診断・配管保全の現場では、似たような言葉が次々と出てきます。「固有振動数」と「共振周波数」、「伸縮継手」と「可とう継手」、「音響診断」と「超音波診断」──いずれも字面が似ているため、同じ意味だと思い込んでしまいがちです。

しかし、これらは実際には別の物理現象・別の対象を指す言葉です。混同したまま使うと、図面や報告書での意思疎通がずれたり、必要な対策を取り違えたりする原因になります。

この記事では、現場やブログ記事の執筆の中で実際に見つかった混同しやすい用語を4組集め、「何が違うのか」「なぜ混同されやすいのか」を整理しました。

この記事は、振動診断・配管保全に関わる中で、似た用語の違いを一度きちんと整理しておきたい保全担当者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • 固有振動数と共振周波数の違い(そもそも「共振周波数」が指すものとは)
  • 伸縮継手・可とう継手・防振継手、それぞれが吸収する動きの違い
  • 音響診断と超音波診断(UT)という、同じ「超音波」でも別物の2技術
  • ベーン通過周波数とブレード通過周波数、同じ式を使ってよいかどうか

1. 固有振動数と共振周波数は別物

誤解:「共振周波数」という値があり、固有振動数と同じ意味で使ってよい → 正解:固有振動数(fn)は「物体が外力なしに自由に振動するときの周波数」そのものです。一方、共振は「現象」の名前であり、励振周波数(ポンプ・モーターなど周辺機器が発生させる振動の周波数)と固有振動数が一致(または接近)したときに、小さな力でも振幅が大きくなる現象を指します。「共振周波数」という第三の値は存在しません。

用語種類定義
固有振動数(fn)値(Hz)物体が自由に振動するときの周波数。配管なら「ポンと叩いたときに自然に揺れる周波数」
励振周波数値(Hz)ポンプ・モーターなど周辺機器側が発生させる振動の周波数
共振現象固有振動数と励振周波数が一致(接近)したときに振幅が増大する現象

なぜ混同が起きるのでしょうか。固有振動数も励振周波数も単位はどちらもHzで、共振が起きた瞬間は両者の値が一致するため、「共振しているときの周波数=共振周波数」という言葉が直感的に作られやすいのです。しかし、固有振動数は励振条件がなくても存在する物体固有の値であり、励振周波数は運転条件(回転数など)で変わる値です。両者を1つの言葉に押し込めると、「どちらの値を変えれば共振を避けられるか」という対策の議論が成り立たなくなります。

実務上の影響は明確です。配管の共振対策は「固有振動数を変える(サポートを増やす・スパンを変える)」か「励振周波数を変える(回転数を変える)」かの2方向しかありません。この2つを区別できていないと、対策の方向性自体を取り違えてしまいます。

固有振動数は設備の劣化(サポートの緩み・腐食による剛性低下)によっても変化します。「前回測定したときの固有振動数」を記録しておかなければ、この変化に気づくことはできません。1回だけの測定値では「今の値」しか分かりませんが、記録を積み重ねることで初めて「変わってきている」という劣化のサインを捉えられます。

固有振動数の計算方法は固有振動数を自分で計算してみよう、共振対策の具体的な比較は固有振動数が共振しそうだとわかったらで詳しく解説しています。


2. 伸縮継手・可とう継手・防振継手は別物

誤解:どれも配管の「動き」を吸収する継手で、似たようなものだから使い分けなくてよい → 正解:3つの継手は、吸収する動きの種類がまったく違います。どれを選ぶかは「何を吸収したいか」で決まり、代替できません。

継手吸収する動き典型的な使用場面
伸縮継手温度変化による配管の軸方向の伸び縮み蒸気配管・高温配管の熱膨張対策
可とう継手配管のミスアライメント(角度・位置のズレ)機器と配管の据付誤差を吸収する箇所
防振継手ポンプ等の振動源から配管への振動伝達ポンプ吸込・吐出口の振動絶縁

3つとも「配管の動きを吸収する柔らかい部材」という見た目・役割の印象が似ているため、現場では「とりあえず可とう性のある継手を付けておけばいい」という判断になりがちです。しかし、伸縮継手は温度変化で生じる軸方向の力には強いものの、振動源からの加振力を遮断する設計にはなっていません。逆に防振継手を熱膨張対策として使うと、想定していない方向の繰り返し変形で早期に劣化する可能性があります。

よくあるのが、こんなケースです。 ポンプの振動が配管に伝わって困っていたところ、たまたま手元にあった伸縮継手を取り付けて様子を見た。一時的に振動が小さくなったように見えたが、数か月後に継手部分にひびが見つかった──というケースです。伸縮継手は軸方向の伸縮を吸収する設計のため、ポンプが発生させる繰り返し振動(多くは軸方向以外の成分を含む)に対しては想定外の負荷がかかり続けていたことが原因です。「動きを吸収する」という共通点だけで選んでしまうと、こうした想定外の劣化を招きます。

継手の選び方や配管サポートとの関係は配管サポートの種類と役割で解説しています。


3. 音響診断と超音波診断(UT)は別の技術

誤解:どちらも「超音波」を使う診断技術だから、同じ「超音波診断」と呼んでよい → 正解:どちらも高周波の音・超音波を扱いますが、検出の仕組みが正反対です。音響診断は、設備が発する高周波音を聴くパッシブな手法です。一方、超音波診断(UT:Ultrasonic Testing)は、対象物に超音波を入射し、反射波を読むアクティブな手法です。「超音波」という言葉が共通するため同じ技術だと誤解されやすいですが、別の技術です。

項目音響診断超音波診断(UT)
検出方式パッシブ(聴くだけ)アクティブ(入射して反射波を読む)
主な検出対象流体の漏れ、放電、軸受の摩擦音配管・鋼板の肉厚、内部のキズ・空洞
使う周波数帯20〜100kHz程度の高周波音を受信数百kHz〜数MHzの超音波を送受信
代表的な機器超音波漏れ検知器超音波厚さ計

両者が混同される理由は、どちらも人の耳には聞こえない高周波・超音波帯を扱う点で似ていることに加え、「超音波診断」という呼び方が、業界・文献によって音響診断(漏れ検知)側の意味で使われている場合と、肉厚測定(UT)側の意味で使われている場合の両方があるためです。本ブログでは「音響診断」と「超音波診断(UT)」を明確に分けて使います。

実務上の影響として、「超音波診断をお願いします」という依頼だけでは、漏れ検知をしてほしいのか肉厚測定をしてほしいのかが伝わりません。依頼・発注の際は「音響診断(漏れ・放電検知)」「超音波厚さ測定(UT)」のように、目的と手法をセットで伝えることをおすすめします。

打音検査・振動測定・超音波診断(UT)の使い分けは打音検査 vs 振動測定 vs 超音波診断で詳しく整理しています。


4. ベーン通過周波数とブレード通過周波数は同じ式で計算できない

誤解:どちらも「羽根の枚数×回転周波数」で計算する同じ式だから、呼び方が違うだけ → 正解:計算式の基本的な考え方(羽根枚数×回転周波数)は同じですが、対象設備と物理的な発生要因が異なるため、別の用語として使い分けます。

用語対象設備発生要因
ベーン通過周波数(VPF)ポンプの羽根車(インペラ)羽根(ベーン)がケーシングの舌部(渦巻き形状の出口部分)を通過するたびに発生する圧力脈動
ブレード通過周波数ファン・送風機羽根(ブレード)がケーシングの特定箇所を通過するたびに発生する励振力

計算式はどちらも「f = 回転数[rpm] ÷ 60 × 羽根枚数」という共通の考え方に基づきますが、ポンプの場合は流体(液体)が舌部を通過する際の圧力脈動が発生要因であり、ファンの場合は気体の流れがケーシング内の構造物を通過する際の励振力が発生要因です。流体の種類(液体か気体か)と発生メカニズムが異なるため、本ブログでは「ポンプはベーン通過周波数」「ファン・タービンはブレード通過周波数」と呼び分けています。

実務では、回転機械の振動をFFT解析したとき、回転1次成分(1X)以外の特定の周波数にピークが見つかった場合、その設備がポンプかファンかによって、まず疑うべき周波数(ベーン通過周波数かブレード通過周波数か)が変わります。設備の種類を意識せずに「羽根枚数×回転周波数」という式だけで計算すると、対象を取り違えるリスクがあります。

励振周波数・ベーン通過周波数の計算手順はサポートを何本追加すれば共振を避けられるかで詳しく解説しています。


まとめ

固有振動数と共振周波数、伸縮継手・可とう継手・防振継手、音響診断と超音波診断(UT)、ベーン通過周波数とブレード通過周波数──いずれも字面や扱う周波数帯・羽根枚数といった共通点があるために混同されやすい用語ですが、指している物理現象・対象・発生要因はそれぞれ異なります。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 「固有振動数」は値、「共振」は現象。「共振周波数」という第三の値は存在しない
  2. 継手3種は吸収する動きの種類で選ぶものであり、見た目の柔らかさだけで代替できない
  3. 同じ「超音波」「羽根枚数×回転周波数」という共通点があっても、検出方式や対象設備が違えば別の用語として扱う

💡 明日から現場でできること

  • 共振対策を検討するときは「固有振動数を変える」か「励振周波数を変える」かを明確に分けて議論する
  • 継手を選ぶときは「何を吸収したいか」を先に決めてから種類を選ぶ
  • 診断を依頼・発注するときは、目的(漏れ検知か肉厚測定か)を手法名とセットで伝える

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