振動の話

固有振動数は実測で確認できる──現場で使える測定手法とその選び方

Tue May 26

計算で求めた固有振動数と実際の値がずれる理由と、ハンマリング試験・常時微動測定・打音検査の3手法を比較。現場での選び方と計算値との照合のポイントを解説します。

はじめに

固有振動数は計算で求めることができます(計算方法は「固有振動数を自分で計算してみよう」で詳しく解説しています)。しかし、計算値と実際の固有振動数が一致しないケースは珍しくありません。

支持条件の理想化、流体の影響、経年変化——計算にはどうしても「モデルと現実のギャップ」が生じます。設備を新設したとき、トラブルが続くとき、改造後の確認をしたいとき、計算値だけでは不十分なことがあります。

そこで必要になるのが「実測」です。本記事では、現場で固有振動数を実測するための主要手法を整理し、それぞれのメリット・デメリットと選び方を解説します。

1. なぜ計算値と実測値がずれるのか

固有振動数の計算は、配管や構造物を「理想化したモデル」で近似します。しかし実際の設備は、その理想とさまざまな点で異なります。

1.1 支持条件の理想化

計算でよく使う「両端単純支持」や「片持ち梁」は、あくまで近似です。実際の配管サポートは完全に固定されているわけでもなく、完全に自由でもない中間的な拘束状態です。

サポートの種類(ハンガー・アンカー・ガイド)や締め付け状態によって実際の拘束条件は異なり、計算モデルとのずれが生じます。

1.2 付加重量(流体・保温材・計装類)

計算では配管本体と流体の質量を考慮しますが、現場では保温材・断熱材の重さ、バルブ・継手・フランジ、流量計・圧力計などの計装品が追加されています。これらの「付加重量」は固有振動数を下げる方向に働きます。

固有振動数は質量の平方根に反比例するため、付加重量が10%増えると固有振動数は約5%低下します。

1.3 経年変化

腐食による肉厚減少、サポートの緩み、溶接部の応力変化——これらは設置当初と現在の固有振動数を変化させます。特にサポートが緩むと固有振動数は大幅に低下し、共振リスクが高まります。

1.4 温度の影響

高温になるほどヤング率は低下します。常温で206 GPaの炭素鋼のヤング率は、300℃では約185 GPaまで低下します(約10%低下)。ヤング率が下がると固有振動数も下がるため、設計温度での評価が重要です。

まとめ:計算値と実測値のずれの目安

要因固有振動数への影響
支持条件の不確かさ±20〜30%
付加重量の見落とし−5〜−20%
経年劣化・サポート緩み−10〜−30%
温度(常温→300℃)−5〜−10%

これらが重なると、計算値と実測値が30〜50%ずれることもあります。「計算したから大丈夫」とならないのはこのためです。


2. 手法①:ハンマリング試験(打撃試験)

現場で固有振動数を実測する代表的な手法です。「インパクトハンマー試験」とも呼ばれます。

原理

専用のインパクトハンマー(先端に力センサーが内蔵されたハンマー)で対象を叩き、入力した力と、配管・構造物の振動応答(加速度センサーで計測)をFFTアナライザーで処理します。

入力(力)と出力(加速度)の比から「周波数応答関数(FRF:Frequency Response Function)」を求め、ピークが現れる周波数を固有振動数として同定します。

インパクトハンマー → 力センサー → FFTアナライザー → FRF計算 → 固有振動数
                            ↑
               加速度センサー(配管に取付)

必要な機器

機器役割概算費用(レンタル含む)
インパクトハンマー既知の力で叩く購入:30〜80万円
加速度センサー振動応答を計測購入:3〜20万円/個
FFTアナライザーデータ取得・解析購入:50〜200万円

中小企業では購入が難しいため、計測機器のレンタル(1日数万円〜) または外部機関への依頼が現実的です。

測定手順の概要

  1. 加速度センサーを配管の適切な位置に取り付ける
  2. インパクトハンマーで指定箇所を叩く(複数回取得して平均化)
  3. FFTアナライザーでFRFを算出する
  4. FRFのピーク周波数を読み取る
  5. 計算値と照合して妥当性を確認する

叩く場所・方向・力の均一性が結果に影響するため、経験のある担当者が実施するか、外部専門家に依頼することが望ましいです。

メリット・デメリット

項目内容
精度±5〜10%(3手法中で最も高い)
設備停止不要(停止状態・稼働状態どちらでも可)
モード形状複数点で計測することで取得可能
費用機器購入は高額、レンタル・外注は現実的
スキル計測・解析の経験が必要
適した場面新設設備の検証、共振トラブルの原因追究、改造後の確認

3. 手法②:常時微動測定

設備を運転したまま、日常の振動を利用して固有振動数を推定する手法です。「常時微動法」「OMA(Operational Modal Analysis)」とも呼ばれます。

原理

配管や構造物は常時、ポンプの運転振動・流体脈動・風・床振動などによって微小な振動を受けています。これらの入力は「ランダムな広帯域の加振」と見なすことができます。

加速度センサーを取り付けて一定時間の振動データを記録し、FFT解析によってパワースペクトル密度(PSD)を求めます。PSDのピーク周波数を固有振動数として読み取ります。

メリット・デメリット

項目内容
精度±15〜25%(励振環境に依存)
設備停止不要(稼働中に計測)
機器加速度センサー+データロガーで実施可能
費用ハンマリング試験より安価
スキルデータ取得は比較的容易、解析には知識が必要
課題励振エネルギーが特定周波数帯に偏ると同定が困難
適した場面停止できない設備の定期確認、複数点の同時計測

注意点

ポンプの運転周波数(回転数÷60)と配管の固有振動数が近い場合、PSDのピークが「固有振動数」なのか「運転周波数の成分」なのか判別が難しくなります。計測前に励振源の周波数を把握しておくことが重要です。


4. 手法③:打音検査(簡易確認)

最も手軽な手法ですが、固有振動数の「数値」を求める目的には向いていません。異常の有無を素早く確認したいときに使います。

原理

金属棒やハンマーで対象を叩き、発生する音の性質(響き方、継続時間)から状態を判断します。

  • 健全な状態:「カーン」と響く高い音(減衰が少ない=振動が長く続く)
  • 異常がある状態:「ドン」と鈍い音(亀裂・腐食・緩みで減衰が大きい)

メリット・デメリット

項目内容
精度定量的な数値は得られない
設備停止不要
機器ハンマー1本で実施可能
費用ほぼゼロ
スキル熟練により感度が大きく変わる
適した場面日常点検での異常スクリーニング、腐食・亀裂・緩みの兆候確認

打音で「固有振動数が○Hzだ」とは言えませんが、「この配管の音が先月と変わった」という変化の察知には有効です。定量データと組み合わせて使うのが現実的です。


5. ずれをどう解釈するか

実測値と計算値を照合したとき、ずれをどう判断するかが重要です。

±20〜30%のずれ:想定内

簡易計算の精度は±20〜30%程度です(vibration7参照)。この範囲内のずれは計算誤差の範囲と考えられます。

実測値が計算値より大幅に低い場合

固有振動数が低いということは、「揺れやすい状態」です。考えられる原因:

  • 付加重量の見落とし(計装品・保温材の重さが予想以上)
  • サポートの緩み(拘束が弱くなっている)
  • スパン長さの増大(サポートが外れているなど)

実測値が計算値より大幅に高い場合

固有振動数が高いということは、「意図せず硬くなっている状態」です。考えられる原因:

  • 近接構造物との接触干渉(意図しない拘束が加わっている)
  • 実際の支持条件が計算モデルより固定に近い

計算との照合フロー

実測値と計算値を比較
  ↓
ずれが±20〜30%以内 → 計算モデルはおおむね妥当
  ↓
ずれが±30%超 → 原因を調査
  ├─ 実測 < 計算:付加重量・支持状態を再確認
  └─ 実測 > 計算:実際の拘束条件を再確認
  ↓
計算モデルを修正して再評価

6. 手法の選び方

3つの手法は目的・状況によって使い分けます。次の3軸で考えると選びやすくなります。

① 設備を止められるか

  • 止められる → ハンマリング試験(精度重視)
  • 止められない → 常時微動測定

② 精度の要求水準

  • 共振リスクの定量評価・設計検証 → ハンマリング試験
  • おおよその確認・傾向把握 → 常時微動測定
  • 異常の有無だけ確認したい → 打音検査

③ 利用できる機器と予算

  • 専用機器あり・外注可 → ハンマリング試験
  • 加速度センサー+データロガーのみ → 常時微動測定
  • 道具なし・即座に確認したい → 打音検査

選択フロー

共振トラブルの原因を特定したい
  → ハンマリング試験(精度が必要)

稼働中の設備の状態を定期確認したい
  → 常時微動測定

日常点検で異常の兆候をチェックしたい
  → 打音検査 → 異常あれば常時微動測定 or ハンマリング試験へ

7. まとめ

固有振動数の実測には目的に応じた手法があります。

手法精度稼働中機器コスト主な用途
ハンマリング試験設計検証・トラブル解析
常時微動測定定期確認・停止できない設備
打音検査日常点検・異常スクリーニング

この記事のポイント3つ

  1. 計算値と実測値のずれは当然起こる:支持条件・付加重量・経年変化が原因で±30%以上のずれが生じることがある
  2. ハンマリング試験が最も精度が高い:専用機器が必要だが外注・レンタルで対応可能
  3. 手法は目的と状況で選ぶ:精度・設備停止の可否・コストの3軸で判断する

計算と実測を組み合わせることで、「計算でスクリーニング→実測で確認」という二段構えの評価が可能になります。共振リスクの高い設備には、定期的な実測による継続的な確認を検討してください。

この記事をシェア

ニュースレター

保全・振動診断の技術情報をお届けします

新着記事・現場で使える保全ノウハウを月1〜2回配信。いつでも解除できます。

振動診断を現場に取り入れませんか?

配管はSOMPIPE(SwRI基準)、回転機械はSOMEQUIP(ISO 20816シリーズ)。どちらも無料・登録不要です。