共振リスクが見つかったとき、打てる対策は「サポート追加」だけではありません。固有振動数を上げる・下げる、励振周波数を動かす、振幅を抑える——同じケースで4つの対策の効果を計算し、コストと新たなリスクまで含めて比較します。
はじめに
vibration10では、サポートを追加して固有振動数を上げる対策を解説しました。しかし、現場で共振リスクが見つかったとき、「サポートを増やす」が唯一の解決策というわけではありません。
固有振動数を下げる、励振周波数そのものを動かす、共振の振幅を抑える——対策にはいくつかの方向性があり、それぞれにコストと固有のリスクがあります。「とにかくサポートを増やす」だけで判断すると、コストが高くついたり、別のリスクを引き起こしたりすることがあります。
本記事では、vibration10と同じケースを使い、複数の対策を同じ土台で計算・比較します。
💡 この記事で得られること
- 共振対策の3つの方向性(固有振動数を動かす・励振周波数を動かす・振幅を抑える)の全体像
- 同じケースで計算した、対策ごとの効果とコスト・リスクの比較
- 固有振動数を下げる対策に潜む「地震との二重リスク」という見落としがちな注意点
1. 対策の全体像:3つの方向性
共振は「固有振動数」と「励振周波数」が一致(接近)したときに起きます。対策はこの2つの値の関係を変えるか、一致したままでも被害を抑えるか、という3つの方向性に整理できます。
| 方向性 | 考え方 | 対応する対策(番号は2節以降で使う対策番号) |
|---|---|---|
| 固有振動数を動かす | 配管側の"揺れやすさ"を変えて、励振周波数から離す | ①サポート追加(上げる)、②質量付加・③剛性低下(下げる) |
| 励振周波数を動かす | 機器側の運転条件を変えて、固有振動数から離す | ④回転数変更 |
| 振幅を抑える | 一致は解消しないが、揺れの大きさ自体を抑える | ⑤減衰材の追加 |
「固有振動数を動かす」「励振周波数を動かす」は「分離度20%以上」を満たすことを目指す根本対策です。「振幅を抑える」は分離度を改善できない場合の次善策で、共振そのものは解消しません。以降の章では、5つの具体的な対策に①〜⑤の番号を付けて解説します。

2. 比較のためのケース設定
vibration10で使ったケースをそのまま使います。
- 配管:100A・炭素鋼・Sch40・水満液(EI = 620,060 N·m²、m = 24.3 kg/m)
- 全長9.0m、サポートなし(n=1):fn = 31.1 Hz
- 励振源:1800rpm・4極モータのポンプ、1次成分 f = 30Hz、危険域 24〜36Hz
- 判定:分離度 3.7%(|31.1−30|/30)→ NG
この「fn=31.1Hz、励振30Hz」という1つの問題に対して、4つの対策を当てはめて比較します。
3. ①固有振動数を上げる:サポート追加
vibration10で解説した対策です。サポートを1本追加してn=2(4.5m×2スパン)にすると、n²則によりfnは4倍になります。
fn(2) = 31.1 × 2² = 124.3 Hz
分離度 = |124.3 − 30| / 30 = 314% → OK
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効果 | 大きい(n²則により1本の追加で4倍) |
| コスト | 中(サポート部材費+施工費+足場代) |
| 運転条件への影響 | なし(ポンプの運転条件は変えない) |
| 新たに生じるリスク | 配管レイアウト上の制約(サポート設置スペースが必要)。詳細はvibration10の4節を参照 |
4. 固有振動数を下げる:②質量付加 vs ③剛性低下
固有振動数を下げる方向にも、2つの異なる方法があります。基本式 fn = C/L² × √(EI/m) を振り返ると、fnを下げるには「mを増やす」か「EIを下げる(剛性を下げる)」かのどちらかになります。同じ「下げる」でも、手段によってリスクが大きく異なります。
今回の目標は、危険域(24〜36Hz)の下限を外れる fn ≤ 24Hz です。
4.1 ②質量付加(保温材等)
vibration9で解説した質量付加効果を、目標値から逆算します。
fn_new / fn_old = √(m_old / m_new)
24 / 31.1 = √(m_old / m_new)
m_new / m_old = (31.1 / 24)² = 1.679
質量を67.9%増やす必要があります。m_old = 24.3 kg/m なので、追加質量は約16.5 kg/m。これをロックウール保温材(密度150 kg/m³、vibration9参照)で実現する場合の保温厚さを計算すると:
16.5 = (π/4) × (D'² − D²) × 150
D'² − D² ≈ 0.140 m²
D' ≈ 391mm → 保温厚さ t = (391 − 114.3) / 2 ≈ 138mm
約138mmの保温厚さが必要という結果になります。これはvibration9で計算した最大ケース(100mm厚で-16.0%)を上回る厚さで、断熱目的としては通常想定しない厚さです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効果 | このケースでは不十分(必要な厚さが非現実的) |
| コスト | 高い(138mm厚の保温材は特殊な仕様になりやすい) |
| 運転条件への影響 | なし |
| 新たに生じるリスク | 配管自重の増加→支持荷重の増加。断熱目的と無関係に質量だけ増やすのは非効率 |
このケースでは質量付加は不向きな対策です。質量付加が有効なのは、もともと保温・断熱の必要があり、その厚さで偶然fnも目標値まで下がる場合に限られます。
4.2 ③剛性低下・スパン延長
もう一つの方法は、剛性(EI)を実質的に下げることです。配管そのものの肉厚を変えるのは現実的ではないため、現場で取りうる手段は「サポートを間引いてスパンを延長する」——vibration10のn²則を逆方向に使うことです。
fn_new = fn_old × (L_old / L_new)²
24 = 31.1 × (9.0 / L_new)²
L_new = 9.0 × √(31.1 / 24) ≈ 10.24m(+13.8%)
スパンを9.0mから10.24mへ、約14%延長すればfn=24Hzに到達します。数値だけ見ると小さな変更ですが、これには見過ごせない副作用があります。
自重たわみの増加:単純支持梁のたわみはスパン長の4乗に比例します(δ ∝ L⁴)。
たわみの増加率 = (10.24 / 9.0)⁴ ≈ 1.68倍
スパンを14%延ばすだけで、自重によるたわみは約68%増加します。たわみが増えると、支持部やフランジへの曲げ応力も増大し、vibration7で解説した境界部での応力集中のリスクが高まります。
地震時のリスク:地震の入力にはさまざまな周波数成分が含まれますが、建屋や配管系の応答が大きくなりやすいのは一般に数Hz程度の低い周波数帯です。固有振動数を下げるということは、配管をこの帯域に近づける方向の変更でもあります。運転時の共振(30Hz)を避けられても、地震時の応答という別のリスクが増す可能性があるため、配管の耐震性も併せて確認する必要があります(耐震対策の詳細は「配管の耐震化」を参照)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効果 | 達成可能(サポート1本の間引きで目標値に到達) |
| コスト | 低い(部材の追加なし、撤去のみ) |
| 運転条件への影響 | なし |
| 新たに生じるリスク | 自重たわみ+68%、支持部・フランジの応力増大、地震時応答の悪化(要個別確認) |
剛性低下はコストだけ見れば最も安価に見えますが、たわみと耐震性という2つの副作用を必ず確認する必要があります。「固有振動数を下げる対策は、運転時の共振を避けた分だけ、別の場面でのリスクを引き上げていないかを必ず確認する」——これが本記事で最も伝えたいポイントです。
5. ④励振周波数を動かす:回転数変更
配管側を変えず、励振源(ポンプ)の運転条件を変える方法です。分離度20%を満たす回転数を逆算します。
|31.1 − f| / f ≥ 0.2
f を下げる場合:31.1 ≥ 1.2f → f ≤ 25.9Hz → 回転数 ≤ 1555rpm(-13.6%)
f を上げる場合:f ≥ 38.9Hz → 回転数 ≥ 2333rpm(+29.6%)
回転数を下げる方が変更量が小さく、現実的です。インバータ(VFD)が既に導入されていれば、設定変更だけで対応できる可能性があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効果 | 達成可能(-13.6%の回転数変更で分離度20%を確保) |
| コスト | 最も低い(VFDが既設なら追加投資なし) |
| 運転条件への影響 | 大きい(流量・圧力が回転数に連動して変化する) |
| 新たに生じるリスク | プロセス要求(必要流量・圧力)を満たせなくなる可能性。VFD未導入の場合は別途投資が必要 |
回転数変更は配管側の改造が不要なぶんコストは低いですが、「そもそも回転数を変えられるか」というプロセス制約次第で実行可否が決まります。
6. (参考)⑤振幅を抑える:減衰材
固有振動数と励振周波数を動かせない場合の次善策が、減衰を増やして振幅そのものを抑える方法です。
共振時の振幅は、おおよそ次の関係で増幅されます。
Q(共振増幅率) ≈ 1/(2ζ) (ζ:減衰比)
配管そのものの減衰比は小さく(目安として1%前後)、Qは数十倍に達することもあります。防振ゴムや制振材を追加して減衰比を数%上げるだけでも、Qを大きく下げる効果があります。
ただし、これは固有振動数と励振周波数の一致そのものを解消するものではありません。振幅は抑えられても、繰り返し荷重がかかり続けることに変わりはなく、長期的な疲労リスクは残ります。①〜④の対策が困難な場合の補完策として位置づけてください。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 効果 | 振幅を抑制(共振そのものは解消しない) |
| コスト | 中(防振材・制振材の追加) |
| 運転条件への影響 | なし |
| 新たに生じるリスク | 根本対策にならないため、長期的な疲労リスクが残る |
7. 対策の選び方:総合比較表
| 対策 | 効果 | コスト | 運転条件への影響 | 新たなリスク |
|---|---|---|---|---|
| ①サポート追加 | 大 | 中 | なし | レイアウト制約 |
| ②質量付加 | △(本ケースでは不十分) | 高 | なし | 配管自重増加 |
| ③剛性低下・スパン延長 | 達成可能 | 低 | なし | たわみ+68%、耐震リスク |
| ④回転数変更 | 達成可能 | 最低 | 大(流量・圧力) | プロセス要求を満たせない可能性 |
| ⑤減衰材(次善策) | 振幅抑制のみ | 中 | なし | 疲労リスクが残る |
コストだけ見ると「回転数変更」「剛性低下」が有利に見えますが、それぞれ「プロセス制約」「たわみ・耐震リスク」という固有の弱点があります。最も安い対策が、必ずしも最も適切な対策ではありません。 現場の制約(運転条件を変えられるか、配管レイアウトに余裕があるか、耐震評価が必要な設備か)を踏まえて選ぶことが重要です。
8. まとめ
共振対策は「サポート追加」だけではなく、固有振動数を下げる方法(質量付加・剛性低下)、励振周波数を動かす方法(回転数変更)、振幅を抑える方法(減衰材)があります。それぞれの効果とリスクは、同じケースで計算してみると数値の差が明確になります。
📌 この記事のポイント3つ
- 対策には3つの方向性がある:固有振動数を動かす(①②③)、励振周波数を動かす(④)、振幅を抑える(⑤)
- 「固有振動数を下げる」には2つの手段があり、リスクが異なる:質量付加は配管自重を増やすだけ、剛性低下(スパン延長)はたわみ増加と地震時リスクという副作用がある
- 最も安い対策が最適とは限らない:コストだけでなく、運転条件への影響・配管レイアウト制約・耐震性まで含めて比較する
💡 明日から現場でできること
- 共振リスクが見つかった配管について、サポート追加以外の選択肢(回転数変更が可能か等)も検討する
- 固有振動数を下げる対策を検討する場合、自重たわみと耐震性への影響を必ず確認する
- 対策候補を本記事の比較表のフォーマットでリストアップし、現場の制約と合わせて判断する
📐 サポート本数による対策の詳細はこちら
n²則の導出と、励振周波数ごとに必要な本数を判定する具体的な方法はこちらで解説しています。
👉 サポートを何本追加すれば共振を避けられる?──本数別・感度シリーズ
🧵 質量付加効果の計算方法はこちら
保温材による質量付加が固有振動数に与える影響の基本計算はこちらで解説しています。
👉 保温材ありの配管、固有振動数はどれだけ下がる?──質量付加効果と「計算と実測のズレ」
🏗️ 配管の耐震化についてはこちら
固有振動数を下げる対策が地震リスクに与える影響を検討する際は、こちらも参照してください。