インバータ駆動の設備は、回転数を自在に変えられる便利さの裏側で、商用電源で固定速度運転する設備とは振動の性質が異なります。脈動トルクと固有振動数が一致して起きる共振、可変速ならではの落とし穴、測定・診断で注意すべきポイントを、JEMA(日本電機工業会)の適用指針をもとに整理しました。
はじめに
「インバータ駆動に変えたら、なんとなく振動が大きくなった気がする」「特定の回転数のときだけ振動が気になる」──インバータ駆動設備を扱う保全担当者から、こうした声を聞くことがあります。
インバータ(可変速駆動装置)は、省エネルギー・きめ細かい速度制御といったメリットから、ポンプ・ファン・コンプレッサーなど幅広い回転機械で採用が広がっています。一方で、インバータ駆動には商用電源による固定速度運転にはない振動特有の注意点があり、これを知らずに測定・診断すると、実際には設備の異常ではないものを異常と誤診断したり、逆に本当の異常を見逃したりすることがあります。
この記事は、インバータ駆動のポンプ・ファン・モーターなどを扱っていて、振動の見方に商用電源駆動との違いがあることを知っておきたい保全担当者の方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
- インバータ駆動と商用電源駆動で、振動の性質がどう違うか
- 脈動トルクと固有振動数が一致して共振が起きるメカニズム
- 可変速ならではの落とし穴と、誤診断を避けるための測定・診断のポイント
1. インバータ駆動設備で振動の見方が変わる理由
商用電源で運転する固定速度の設備であれば、振動を評価するときに確認すべき運転条件は基本的に1つ(定格回転数)だけです。回転数が変わらない以上、共振リスクのチェックも「その1点の回転数で固有振動数と重ならないか」を確認すれば済みます。
一方、インバータ駆動の設備は運転速度そのものを変えられる(可変速運転)ため、確認すべき条件が1点では済みません。加えて、インバータはモーターへの電力波形をPWM(パルス幅変調)でスイッチングして作り出す装置であるため、商用電源のようなきれいな正弦波ではなく、高調波成分を含んだ波形になります。この高調波成分が、商用電源駆動にはない振動要因を生み出します。
つまり、インバータ駆動設備の振動を正しく見るには、「運転速度が変わる」ことと「電力波形に高調波が含まれる」ことという、商用電源駆動にはない2つの要素を踏まえる必要があります。
2. 商用電源駆動とインバータ駆動、振動の何が違うか
日本電機工業会(JEMA)が発行する「低圧三相かご形誘導電動機をインバータ駆動する場合の適用指針」では、インバータで運転した場合の振動は、商用電源で運転した場合と比較しておよそ10μm程度増加する場合があるとされています。
これは、インバータ出力に含まれる高調波成分によって電動機の電流・振動・音がいずれも商用電源駆動時より増加する傾向があるためです。つまり、インバータ駆動の設備は、多少振動レベルが高めに出ること自体は特別な異常ではなく、駆動方式そのものの特性である場合があります。
ただし、これはあくまで「多少の増加」の話です。次に説明する共振が絡むと、この程度では済まない大幅な振動増加につながることがあります。
3. 脈動トルクと固有振動数が一致して起きる共振
インバータの出力波形には、基本波(設定した運転周波数)以外に、比較的低次の高調波成分が含まれます。この高調波成分は、モーターの発生トルクに周期的な変動、すなわち脈動トルクを生み出します。
この脈動トルクの周波数が、モーターと据付台・架台や接続されている機械などを含めた系全体の固有振動数と一致すると、共振が発生し、大きな振動につながります。これは、往復動コンプレッサーの脈動が配管の固有振動数と一致して共振する構図(配管の振動、原因は共振だけじゃないで扱った「脈動」)と同じ考え方で、励振源が流体の圧力変動ではなく電気的なトルク変動に置き換わったものと捉えると理解しやすくなります。
この共振は、見た目には「原因不明の異常振動」に見えるため、軸受摩耗やミスアライメントといった機械的な劣化と誤診断されやすい点が実務上の落とし穴です。振動が大きいという現象は同じでも、原因が「劣化」なのか「インバータ由来の共振」なのかによって、必要な対応はまったく異なります。
4. 速度を変えられることがもたらす、もうひとつの落とし穴
固定速度の設備であれば、1つの回転数で固有振動数と重ならないかを確認するだけで済みます。しかしインバータ駆動の設備は運転速度を変えられるため、必要なトルク特性や共振リスクを、基準となる周波数だけでなく実際に使う運転速度の範囲全体で確認する必要があります。
さらに注意が必要なのが、加速・減速の過程です。設備が目標の運転速度に到達するまでの間、励振周波数(回転数に応じた脈動トルクの周波数)は連続的に変化しながらその範囲を通過します。最終的な目標速度では固有振動数と重ならなくても、加減速の途中で一時的に固有振動数を通過する瞬間があり、そのタイミングで一時的な共振が起きることがあります。
また、商用電源の周波数以下の特定の回転数で共振により振動が発生する場合や、逆に商用電源の周波数以上の高い回転数で運転する場合は、回転体のわずかな重心ズレ(アンバランス)による振動が回転数の2乗に比例して大きくなる影響も無視できません。固定速度の設備にはない、「速度が変わることそのものが生むリスク」がインバータ駆動には存在します。
5. 誤診断を避けるための測定・診断のポイント
インバータ駆動設備の振動を測定・診断するときは、次の点を意識すると誤診断を避けやすくなります。
測定は定格速度だけでなく、運転速度範囲全体で行う:固定速度設備の感覚で定格速度だけを測定すると、特定の速度でだけ起きる共振を見逃します。実際に使う速度範囲全体、可能であれば加減速中も含めて振動の傾向を確認します。
特定の速度でだけ振動が大きい場合は、まず共振を疑う:軸受摩耗やミスアライメントなど、機械的な劣化に由来する振動は、多くの場合どの速度でもある程度一貫して現れます。一方、特定の速度域だけで振動が突出して大きくなる場合は、脈動トルクと固有振動数が一致する共振を疑う方が筋が通ります。
商用電源駆動の一般的な基準をそのまま当てはめない:2章で触れた通り、インバータ駆動は商用電源駆動よりわずかに振動が大きくなること自体が特性です。判定には、その設備がインバータ駆動を開始した時点のベースラインと比較する傾向管理(詳しくは振動の許容値はどう決める?)が実務的です。
FFTスペクトルで、ピークが何に由来するかを切り分ける:運転周波数の整数倍に規則的なピークが見られる場合は脈動トルク由来、特定の周波数に依存しないピークやアンバランス由来の1X成分が支配的な場合は機械的要因という切り分けの手がかりになります(FFTの読み方はFFTグラフの読み方を参照してください)。
6. 対策の選択肢
脈動トルクによる共振が疑われる場合、主な対策の選択肢は次の通りです。
- 電圧/周波数比(V/f)の見直し:設定を調整し、発生するトルクの脈動そのものを緩和する
- インバータと電動機間へのリアクトルの挿入:高調波成分を抑制する
- 構造の見直し:据付台・架台の剛性を変更し、系全体の固有振動数を励振周波数からずらす(考え方は固有振動数が共振しそうだとわかったらと共通)
- 防振ゴムやバネによる防振対策:励振源からの力の伝達そのものを減衰させる
- バランスの取り直し:回転体のアンバランスに由来する振動成分を低減する
- スキップ周波数(ジャンプ周波数)の設定:一部のインバータには、特定の周波数帯を運転範囲から除外し、常時その速度で運転し続けることを避ける機能がある。加減速中に一時的に通過する分には問題にならないことが多いが、その速度域で連続運転する必要がある場合には有効な選択肢になる
どの対策が適切かは、共振の原因(脈動トルクの周波数側を動かすか、構造側の固有振動数を動かすか)によって変わるため、まず3章・4章の考え方に沿って原因を切り分けてから選ぶのが実務的です。
まとめ
インバータ駆動の設備は、商用電源駆動と比べて振動がやや大きくなること自体は特性の範囲内ですが、脈動トルクと固有振動数が一致すると共振によって大幅に振動が増加し、機械的な劣化と誤診断されやすい落とし穴があります。可変速であることも、定格速度だけでなく運転速度範囲全体・加減速時の掃引まで含めた確認を必要とする理由になります。
📌 この記事のポイント3つ
- インバータ駆動は商用電源駆動よりわずかに振動が大きくなるのが特性。ただし脈動トルクと固有振動数が一致すると共振で大幅に増加し、誤診断の原因になる
- 可変速のため、定格速度だけでなく運転速度範囲全体・加減速時の掃引も含めてチェックする必要がある
- 対策にはV/f比の見直し・リアクトル挿入・構造見直し・防振対策・バランス取り直し・スキップ周波数設定などの選択肢がある
💡 明日から現場でできること
- インバータ駆動設備の振動測定は、定格速度だけでなく実際に使う運転速度範囲全体で行う
- 特定の速度でだけ振動が大きい場合は、機械的な劣化より先に共振を疑う
- 商用電源駆動の一般的な振動基準をそのまま当てはめず、その設備のインバータ駆動時のベースラインと比較する傾向管理を行う
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