振動の話

配管の振動、原因は共振だけじゃない──水撃・キャビテーション・脈動・気液二相流の見取り図

Mon Aug 31

水撃・キャビテーション・脈動・気液二相流の4現象を、それぞれ異なる波形アイコンと発生条件で比較したカード4枚の図

配管の振動というと、真っ先に思い浮かぶのは「共振」かもしれません。しかし実際には、水撃・キャビテーション・脈動・気液二相流といった、流れそのものが引き起こす振動も現場では珍しくありません。4つの現象がそれぞれどう発生し、波形にどう現れるかを整理し、見分け方の入口を示します。


はじめに

「配管が揺れている」と聞くと、多くの人がまず疑うのは共振です。固有振動数を計算し、励振周波数とズラす──これは配管振動対策の王道であり、固有振動数を自分で計算してみよう固有振動数が共振しそうだとわかったらで解説してきた考え方です。

しかし、共振はあくまで「揺れやすい構造」と「揺らす力」がたまたま一致したときに起きる現象です。揺らす力そのもの──励振源──がどこから来ているのかを見ないと、対策の的が外れることがあります。バルブを急に閉めた瞬間の「ゴン」という衝撃、ポンプ吸込側で発生する気泡の破裂音、往復動コンプレッサーが刻む周期的な脈、気体と液体が混ざって流れるときの不規則な振動──これらはどれも、流れそのものが生み出す励振源であり、共振とは別の切り口で理解する必要があります。

この記事は、配管の振動原因を「共振以外」の視点からも把握しておきたい保全担当者・設計者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • 水撃・キャビテーション・脈動・気液二相流、4つの現象がそれぞれ何によって発生するか
  • 「共振」と「励振源」の違い、振動対策を考えるときの2つの切り口
  • 波形・FFTスペクトル上でこの4つを見分ける手がかり

1. なぜ「振動の原因」を共振だけで考えると見誤るのか

配管の振動は、大きく2つの要素の掛け合わせで発生します。ひとつは「何が揺らしているか」という励振源、もうひとつは「配管がその揺れにどう反応するか」という構造応答です。共振は、この構造応答側で起きる現象です。配管の固有振動数と励振周波数が一致すると、小さな力でも振幅が増幅されます(詳しくは揺れやすい配管の正体とは?)。

ただし、共振が起きるかどうかを考える前に、そもそも「何が配管を揺らしているのか」を特定できていなければ、対策の的が外れます。励振源を水撃だと思い込んでサポート位置を見直しても、実際の原因がキャビテーションであれば振動は収まりません。逆に、励振源を正しく特定できれば、共振対策(固有振動数をずらす)だけでなく、励振源そのものを弱める対策(バルブの閉止速度を変える、吸込条件を改善する等)という、もうひとつの選択肢が見えてきます。

この記事では、配管の振動を引き起こす代表的な励振源のうち、いずれも「流れそのもの」に由来する4つの現象──水撃・キャビテーション・脈動・気液二相流──を取り上げ、それぞれの発生メカニズムと波形上の特徴を整理します。


2. 水撃(ウォーターハンマー):流れの急停止が生む圧力波

水撃(ウォーターハンマー)は、配管内を流れていた流体が急に止められたときに発生する圧力波です。バルブを急に閉じたり、ポンプが急停止したりすると、それまで流れていた流体の運動エネルギーが行き場を失い、圧力波に変わって配管内を伝わります。この圧力波が配管の曲がり部やバルブ、フランジで反射を繰り返すたびに、「ゴン」という衝撃音と振動が発生します。

家庭の水道でも聞かれる現象ですが、工場配管では規模が異なります。特に蒸気配管では、ドレン(凝縮水)がたまった配管に高速の蒸気が流れ込むと、水の塊が押し流されてエルボや弁に衝突し、大きな衝撃を生むことがあります(使用用途別に変わる配管の注意点でも蒸気配管特有の課題として触れています)。

波形上の特徴:水撃は、バルブの急閉止やポンプ停止といった特定の操作に伴って発生する、一過性の過渡的な現象です。持続的に揺れ続ける共振とは異なり、鋭い衝撃的なスパイクとして現れ、FFTスペクトル上では特定の周波数に集中せず広い帯域にエネルギーが分布します。「いつも同じタイミング(弁操作時・ポンプ停止時)で振動が起きる」という再現性は、水撃を疑う手がかりになります。

圧力上昇の大きさは、流体の密度・圧力波の伝わる速さ・流速の変化量の3つに比例するという関係が知られています(ジューコフスキーの式)。急に閉めるほど、流速変化が大きいほど、圧力上昇も大きくなるという定性的な傾向は覚えておく価値があります。


3. キャビテーション:気泡の発生と崩壊が生む振動

キャビテーションは、配管やポンプの内部で局所的に圧力が下がり、流体の飽和蒸気圧を下回った箇所に気泡が発生する現象です。発生した気泡は、流れが再び高圧の領域に入ると一瞬で崩壊(凝縮)し、そのときに生じる衝撃波が振動・騒音・壁面のエロージョン(摩耗)を引き起こします。ポンプの吸込側、バルブの下流、配管の急な曲がり部など、流速が上がり圧力が下がる箇所で起きやすい現象です。

波形上の特徴:キャビテーションは運転条件(吸込揚程・流速・バルブ開度)がそろっている間、持続的に発生し続けます。無数の気泡がランダムなタイミングで崩壊するため、FFTスペクトル上では特定の周波数にピークが立つのではなく、広い周波数帯にわたってノイズ状に振幅が底上げされる形で現れます。「配管の中で砂利が流れているような音」と表現されることが多く、この持続的・広帯域という特徴が、一過性で衝撃的な水撃との違いです。ポンプでの見分け方の詳細はポンプ・ファン・コンプレッサー、振動の見方は設備種別でどう変わる?でも扱っています。


4. 脈動:往復動機器がつくる周期的な圧力変動

脈動は、往復動コンプレッサーや往復動ポンプのように、ピストンが押す・引くを繰り返す構造の機器が生み出す、周期的な圧力変動です。ピストンが1往復するたびに配管内の圧力が上下するため、回転数(正確にはクランク軸の回転周波数)とその整数倍の周波数に、規則正しいピークが並んで現れます。

波形上の特徴:脈動は、運転が続く限り一定の周期で発生し続ける、規則的な現象です。FFTスペクトル上では、回転数の整数倍(1倍・2倍・3倍…)の位置に離散的なピークが並ぶ形で現れます。この点は、広帯域ノイズとして現れるキャビテーション、一過性のスパイクとして現れる水撃とは明確に異なります。

脈動が持つ最大のリスクは、この周期的な圧力変動(励振源)が配管の固有振動数(構造応答)と一致したときに起きる共振です。往復動機器が絡む配管振動トラブルの多くは、この「脈動由来の励振源」と「配管の固有振動数」の一致が背景にあります。固有振動数側からの対策(サポート追加・スパン変更)は固有振動数が共振しそうだとわかったらで扱った考え方がそのまま使えます。


5. 気液二相流:気体と液体が混ざって流れるときの振動

気液二相流は、気体と液体が同じ配管の中を混ざりながら流れる状態を指します。蒸気と凝縮水が混在するスチームトラップ下流の配管、あるいはプロセス流体が一部気化しながら流れる配管などで発生します。

気体と液体が均一に混ざって流れることは少なく、多くの場合「スラグ流」「プラグ流」と呼ばれる、液体の塊(スラグ)が気体の中を断続的に押し流されるような不均一な流れ方になります。この液体の塊が配管の曲がり部やエルボに衝突するたびに、衝撃的な力が発生します。1回1回の衝撃は水撃に似ていますが、水撃が弁操作という単発の事象で発生するのに対し、気液二相流の場合は流れそのものの状態が不安定なため、不規則な間隔で繰り返し発生し続けるという違いがあります。

波形上の特徴:脈動のような規則正しい周期性は持たず、水撃のような単発性も持たない、「不規則な間隔で繰り返される断続的な振動」という中間的な特徴を示します。運転条件(流量比・配管ルート)を変えていないのに振動が不規則に強くなったり弱まったりする場合、気液二相流を疑う手がかりになります。


6. 4つの現象をどう見分けるか

ここまで見てきた4つの現象を、発生条件と波形上の特徴で整理すると、次のような型になります。

現象発生条件時間的な特徴波形・FFT上の現れ方代表的な発生箇所
水撃(ウォーターハンマー)バルブの急閉止・ポンプの急停止一過性(単発の過渡現象)鋭い衝撃的スパイク、広帯域蒸気配管のドレン部、急閉止弁の下流
キャビテーション吸込側の圧力低下(絞り・揚程過大)持続的(運転条件が続く限り)広帯域のノイズ状(特定ピークなし)ポンプ吸込側、バルブ下流、急な曲がり部
脈動往復動機器の周期運動継続的・周期的回転数の整数倍に離散ピーク往復動コンプレッサー・ポンプの吐出配管
気液二相流気体と液体が混相で流れる断続的・不規則不規則な間隔の断続的パルススチームトラップ下流、気液混合部の曲がり部

共振とこれらの励振源は、必ずしも二者択一ではありません。脈動や気液二相流のように周期性を持つ励振源は、条件次第でそのまま共振の引き金にもなります。まずは波形の「時間的な特徴」に着目し、単発か・持続的か・周期的か・不規則かを見極めることが、原因の切り分けの第一歩です。


まとめ

配管の振動を「共振かどうか」だけで捉えると、水撃・キャビテーション・脈動・気液二相流という、流れそのものに由来する励振源を見落とすことがあります。4つの現象は、発生条件も波形上の現れ方もそれぞれ異なり、時間的な特徴(単発・持続的・周期的・不規則)に着目すると見分けやすくなります。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 配管の振動は「励振源」と「構造応答(共振)」の掛け合わせで起きる。まず励振源を特定することが対策の第一歩
  2. 水撃は一過性のスパイク、キャビテーションは持続的な広帯域ノイズ、脈動は周期的な離散ピーク、気液二相流は不規則な断続パルスという、それぞれ異なる時間的特徴を持つ
  3. 脈動や気液二相流のように周期性を持つ励振源は、配管の固有振動数と一致すると共振の引き金にもなる

💡 明日から現場でできること

  • 振動が発生するタイミングを記録する:弁操作時か(水撃)、運転中ずっとか(キャビテーション)、規則的な周期か(脈動)、不規則か(気液二相流)
  • 振動源に近い配管の系統(蒸気ドレン部・ポンプ吸込側・往復動機器の吐出配管など)を確認し、4つの現象のどれが起きやすい条件かを確認する
  • このシリーズでは今後、4つの現象それぞれの詳しい原因分析と対策を個別記事で深掘りしていきます

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