「変位0.6mil」と「速度1.4mm/s」、どちらが大きい振動かパッと答えられますか?加速度・速度・変位は単純な比例関係ではなく、周波数によって換算係数が変わります。早見表と、規格をまたいだ実例変換で「単位換算マスター」を目指します。
はじめに
「振動測定の基本」や「その振動、本当に大丈夫?」で、加速度・速度・変位という3つの物理量の違いを解説してきました。しかし実務では、もう一段やっかいな問題に出会います。
「SwRIでは変位(mil)、ISO 20816では速度(mm/s)、API 618では周波数帯によって両方……結局、自分の持っている数値は他の規格の数値と比べてどうなのか?」
この記事では、加速度・速度・変位を相互に変換する考え方を整理し、現場で実際に使える早見表と、規格をまたいだ実例変換を紹介します。
💡 この記事で得られること
- 加速度・速度・変位の換算係数が周波数によって変わる理由
- 持ち歩けるレベルの早見表(周波数別・統計量別)
- SwRIの数値をISO 20816の数値に変換する実例と、変換時の注意点
1. 基本式のおさらい
単一周波数の正弦振動を仮定すると、変位・速度・加速度は次の関係にあります(vibration5で紹介した式の振り返りです)。
変位 x(t) = X sin(ωt)
速度 v(t) = ωX cos(ωt)
加速度 a(t) = −ω²X sin(ωt)
振幅だけに注目すると、関係はシンプルになります。
v = ω × x
a = ω × v = ω² × x
ここでω(角振動数)は ω = 2πf(f:周波数[Hz])です。つまり、変位→速度→加速度の変換のたびに「ω=2πf」を1回ずつ掛けているだけです。
2. なぜ周波数によって換算係数が変わるのか
この式の重要な意味は、「変位と速度の比」「速度と加速度の比」が周波数fによって変わるということです。
同じ変位(揺れの大きさ)でも、ゆっくり揺れている(低周波)か、激しく振動している(高周波)かで、速度・加速度は大きく変わります。
例:変位 X = 10μm(一定)の場合
f = 10Hz → v = 0.63mm/s, a = 0.039 m/s²
f = 100Hz → v = 6.28mm/s, a = 3.95 m/s²
f = 1000Hz→ v = 62.8mm/s, a = 394.8 m/s²
変位が同じでも、周波数が10倍になるごとに速度は10倍、加速度は100倍になります(a∝f²のため)。「換算係数は1つではなく、周波数ごとに変わる」——これが単位換算の最大の落とし穴です。
3. 早見表①:周波数別の換算(v=1mm/s基準)
ISO 20816をはじめ多くの規格が「速度 mm/s」を基準にしているため、速度1mm/sを基準に、各周波数での変位・加速度を一覧にしました。
| 周波数 | 変位(換算値) | 加速度(換算値) |
|---|---|---|
| 10Hz | 15.9 μm | 0.063 m/s² |
| 20Hz | 8.0 μm | 0.126 m/s² |
| 30Hz | 5.3 μm | 0.188 m/s² |
| 50Hz | 3.2 μm | 0.314 m/s² |
| 100Hz | 1.6 μm | 0.628 m/s² |
| 500Hz | 0.32 μm | 3.14 m/s² |
| 1000Hz | 0.16 μm | 6.28 m/s² |
使い方:実際の速度値がv[mm/s]であれば、表の値に「v」を掛けるだけで変位・加速度の目安が求まります(例:30Hzでv=2mm/sなら、変位は5.3μm×2=10.6μm)。

表を見ると、低周波(10Hz)では変位が大きく加速度が小さい、高周波(1000Hz)では逆に加速度が大きく変位が小さいことが一目でわかります。これが、measurement1で紹介した「低周波数は変位で見る、高周波数は加速度で見る」という使い分けの根拠です。
4. 早見表②:統計量の換算(Peak・Peak-to-Peak・RMS)
換算がやっかいになるもう一つの理由が、規格によって「Peak」「Peak-to-Peak」「RMS」のどれを使うかが違う点です(正弦波を仮定した場合の関係)。
| 基準 | Peakへの変換 | Peak-to-Peakへの変換 | RMSへの変換 |
|---|---|---|---|
| Peak = 1 | 1 | × 2 | × 0.707 |
| Peak-to-Peak = 1 | × 0.5 | 1 | × 0.354 |
| RMS = 1 | × 1.414 | × 2.828 | 1 |
代表的な規格の単位:SwRI配管振動評価線図はmil(Peak-to-Peak)、API 618は周波数帯によりPeak-to-Peak、ISO 20816・VDI 3842はmm/s(RMS)を使います。詳細は「配管振動評価基準の選び方」を参照してください。
5. 実践:規格をまたいで比較する
「SwRI配管振動評価線図とは?」で紹介した実例(30Hz、0.6mil P-P→Correction領域)を、ISO 20816のmm/s RMSに変換してみましょう。
Step 1: mil → mm
0.6 mil × 0.0254 = 0.01524 mm(Peak-to-Peak)
Step 2: Peak-to-Peak → Peak
0.01524 ÷ 2 = 0.00762 mm(Peak、変位)
Step 3: 変位 → 速度(ω = 2π×30 = 188.5)
v_peak = 188.5 × 0.00762 = 1.436 mm/s(Peak、速度)
Step 4: Peak → RMS
v_RMS = 1.436 × 0.707 ≈ 1.02 mm/s(RMS、速度)
変換結果:1.02 mm/s RMS
「ISO 20816とは?」で紹介した評価ゾーン(Part 3、Group II・柔支持:A=0〜1.4mm/s)に当てはめると、1.02mm/sはZone A(良好) に入ります。
ここで注意が必要です。SwRI線図ではこの値が「Correction(要調査)」と判定されていました。単位を変換すればISO 20816基準では「良好」に見えてしまいますが、これは判定をISO 20816に置き換えてよいという意味ではありません。SwRIは配管の疲労破壊リスクを、ISO 20816は回転機械本体の健全性を評価するための基準であり、同じ「振動の強さ」を見ていても評価の目的が異なります(詳細はmeasurement10の7節を参照)。
単位は変換できても、判定基準は規格をまたいで流用できません。 換算はあくまで「数値の意味を理解する」ための手段であり、判定はそれぞれの規格の枠内で行う必要があります。
6. 振動計はどうやって速度・変位を導き出しているか
一般的な振動計は加速度センサーで振動を測定し、内部で数学的な処理(積分)を行うことで速度・変位を算出しています。
加速度 a(t) を測定
↓ 1回積分(÷ω)
速度 v(t) を算出
↓ 1回積分(÷ω)
変位 x(t) を算出
積分は周波数の逆数(1/ω)を掛ける操作のため、周波数が低いほど誤差が拡大しやすいという性質があります。極端に低い周波数(1Hz以下)や、逆に極端に高い周波数(10kHz以上)では、積分処理による誤差が大きくなる点に注意してください(measurement1でも触れている内容です)。
7. まとめ
加速度・速度・変位の換算係数は、周波数によって変わります(v=ωx、a=ω²x)。早見表を使えば概算は簡単にできますが、規格をまたいで比較するときは、単位の変換と判定基準の流用を混同しないことが重要です。
📌 この記事のポイント3つ
- 変換係数は周波数ごとに変わる:a∝f²のため、高周波ほど同じ変位でも加速度が急増する
- 早見表は2方向ある:周波数別(v=1mm/s基準)と統計量別(Peak/Peak-to-Peak/RMS)の両方を押さえる
- 単位は変換できても判定基準は流用できない:SwRIの数値をISO 20816の単位に変換しても、ISO 20816の判定基準で評価してよいわけではない
💡 明日から現場でできること
- 手元の測定値(速度 or 変位)を、本記事の早見表で別の物理量に概算してみる
- 異なる規格の数値を比較するときは、単位(Peak/RMS等)が揃っているか必ず確認する
- 規格をまたいで単位を変換した数値は、「参考値」として扱い、判定はそれぞれの規格の基準で行う
📐 加速度・速度・変位の基本はこちら
3つの物理量の定義と使い分けの基本はこちらで解説しています。
👉 その振動、本当に大丈夫?──加速度・変位・周波数から読み解く異常振動の兆候
🔧 規格ごとの単位の違いはこちら
SwRI・ISO 20816・API・VDIがそれぞれ何を基準に評価しているかはこちらで解説しています。