振動の話

キャビテーションはなぜ起きる?──ポンプ・弁の振動の原因と見分け方、対策

Wed Sep 30

ポンプ吸込側から羽根車にかけての圧力の変化を示す図で、圧力が飽和蒸気圧のラインを下回った区間で気泡が発生し、圧力が回復する羽根車内部で気泡がつぶれる様子を表した図

配管の振動シリーズ第3弾は「キャビテーション」です。ポンプや弁の中で液体が沸騰する仕組みから、起きやすい場所、放置した場合の影響、現場での見分け方、対策までを整理します。


はじめに

配管の振動、原因は共振だけじゃないで紹介したとおり、キャビテーションは、流れの中で圧力が下がった箇所に気泡が発生し、その気泡がつぶれるときの衝撃で振動・騒音・壁面の損傷を生む現象です。ポンプの吸込側や調節弁の下流で起きやすく、「配管の中で砂利が流れているような音」として気づかれることがよくあります。

厄介なのは、キャビテーションが「ポンプそのものの不良」ではなく、ポンプと配管と運転条件の組み合わせで起きる現象だという点です。同じポンプでも、液温が上がる季節やストレーナが詰まってきた時期だけ症状が出る、ということが起こります。この記事では、仕組みを押さえたうえで、現場での見分け方と、数字で余裕を確かめる方法、対策の考え方までを整理します。

この記事は、ポンプや弁からの異音・振動の原因を切り分けたい保全担当者・設計者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • 液体が「温度ではなく圧力で」沸騰する、キャビテーションの仕組み
  • 放置した場合に羽根車・シール・配管に積み重なる影響
  • 音・圧力計・運転条件の変化を使った、現場での見分け方
  • 有効NPSHを使って余裕を数字で確かめる方法と、対策の考え方

1. 液体は温度だけでなく圧力でも沸騰する

水は100℃で沸騰する、と覚えている方が多いと思いますが、これは大気圧(約101kPa)のもとでの話です。高い山の上でお湯が100℃より低い温度で沸騰するように、液体は周囲の圧力が下がると、より低い温度で沸騰します。ある温度で液体が沸騰し始める圧力のことを飽和蒸気圧といいます。20℃の水なら約2.3kPa、60℃の水なら約20kPaです。

身近なもので試すなら、注射器(シリンジ)を思い浮かべてください。水を少し吸った注射器の先を指でふさぎ、ピストンを強く引くと、室温の水なのに中に泡が出てきます。ピストンを引いて中の圧力を下げたことで、水が「沸騰しやすい状態」になったためです(実際には水に溶けていた空気も一緒に出てきます)。

ポンプや弁の内部では、これと同じことが流れの中で起きます。流れが速くなる箇所では圧力が局所的に下がり、その圧力が液体の飽和蒸気圧を下回ると、液温が低くてもその場で液体が沸騰し、蒸気の気泡が発生します。これがキャビテーションの始まりです。

問題になるのは、気泡が発生するときではなく、つぶれるときです。気泡は流れに乗って圧力が回復する領域(ポンプなら羽根車の内部、弁なら絞り部の下流)に運ばれると、周囲の液体に押しつぶされて一瞬で消滅します。先ほどの注射器で、指をふさいだままピストンから手を離すと、泡がすっと消えるのと同じです。ただしポンプの中ではこれが一瞬で起こるため、泡があった空間に周囲の液体が勢いよく流れ込み、ごく小さな範囲に強い衝撃圧が生じます。

イメージとしては、目に見えないほど小さなハンマーが、1秒間に無数に壁面を叩き続けている状態です。1回1回の打撃は小さくても、「雨だれ石を穿つ」のことわざのように、同じ場所を叩き続けることで金属の表面を少しずつ削り取っていきます。無数の気泡がランダムなタイミングでつぶれ続けるため、「砂利が流れるような」持続的な音と、広い周波数帯にわたる振動が生まれます。


2. キャビテーションが起きやすい場所

① ポンプの吸込側(羽根車の入口)

最も代表的な場所です。液体はポンプの吸込口から羽根車の入口に向かって加速され、羽根車の入口付近で圧力が最も低くなります。ここで飽和蒸気圧を下回ると気泡が発生し、羽根車の中で圧力が上がっていく途中で気泡がつぶれます。

ストローで飲み物を飲むときを思い浮かべると分かりやすいでしょう。細くて長いストローや、途中が折れ曲がったストローで勢いよく吸うと、口の中が強い負圧になり、飲み物に泡が混じってうまく吸えなくなります。ポンプの吸込側も同じで、吸込側の液面が低い(高く吸い上げる)、吸込配管が長い・細い、ストレーナが詰まっている(ストローの途中が詰まっている)、液温が高い(もともと沸騰しやすい)といった条件が重なるほど、キャビテーションが起きやすくなります。

また、ポンプを本来の設計流量より大幅に少ない流量で運転し続けると、羽根車の入口付近で流れが逆流・渦を巻き、吸込側の圧力に余裕があってもキャビテーションに似た損傷が起きることがあります。「流量を絞っているから負荷は軽いはず」とは限らない点に注意が必要です。

② 調節弁・オリフィスなど、流れを絞る部分の下流

庭の水まきで、ホースの先を指でつぶすと水が勢いよく飛び出すのと同じように、弁やオリフィスで流れを絞ると、絞り部を通過する瞬間に流速が上がります。流れが速くなった分だけ、その場所の圧力は大きく下がります。その下流で流速が落ちると圧力はある程度回復しますが、絞り部で飽和蒸気圧を下回っていれば、発生した気泡が下流の圧力回復域でつぶれます。弁の前後の差圧が大きい使い方(高圧から低圧へ一気に落とす使い方)ほど起きやすくなります。

なお、弁の下流の圧力が飽和蒸気圧より低いまま回復しない場合は、気泡がつぶれずに蒸気と液体が混ざった状態で流れ続けます。これはフラッシングと呼ばれ、キャビテーションとは区別されます。フラッシングでは気泡の崩壊による衝撃は起きませんが、蒸気と液体の混ざった高速の流れが弁や下流配管を削ることがあります。


3. 放置するとどうなるか──キャビテーションがもたらす影響

キャビテーションは、発生してすぐに設備が止まるような現象ではありません。そのぶん「音がうるさいだけ」として放置されやすく、損傷が静かに進みます。よくあるのが、こんな進行パターンです。

【発生初期】 砂利が流れるような音と、ポンプ・配管の細かい振動が出始めます。吐出圧力や流量にはまだはっきりした変化が出ないことも多く、音だけが手がかりになる段階です。

【数ヶ月〜数年】 気泡がつぶれる位置にある羽根車の入口付近の金属表面が、少しずつ削られていきます。削られた面は、スポンジや軽石のようなあばた状の荒れた外観になるのが特徴です(気泡の崩壊によるエロージョン。流体が壁面を機械的に削る現象の一種です)。同時に、振動がメカニカルシールや軸受にも繰り返し負担をかけ、シールからの漏れや軸受の劣化を早めることがあります。

【放置した場合】 羽根車の損傷が進むと、揚程・流量が低下し、所定の性能が出なくなります。気泡が流路をふさぐ状態が強くなると、吐出圧力や電流値が不安定に揺れるようになります。弁の場合は、弁体・弁座や下流の配管内面が削られ、閉めても漏れが止まらない、配管が局所的に減肉するといった不具合につながります。

【最悪の場合】 羽根車の羽根が欠損したり、減肉した配管や弁本体に穴が開いたりして、突発的な停止や漏えいに至ることがあります。

振動としては目立たない段階でも、壁面の損傷は着実に進んでいる、という点がキャビテーションの見過ごされやすさの理由です。


4. 現場での見分け方

キャビテーションかどうかは、1つの手がかりだけで決めず、いくつかの観察を組み合わせて判断します。

手がかりキャビテーションを疑う状態確認のしかた
音砂利やビー玉が流れるような「ガラガラ」「パチパチ」という持続的な音ポンプの吸込口付近・弁の直後で聴き比べる。音の出どころが吸込側・弁の下流に寄っていれば有力
圧力計吸込側の圧力が低い、吐出圧力の針が細かく揺れる吸込側・吐出側の圧力計を読み、普段の値と比べる
運転条件との関係流量・液温・液面によって症状が出たり消えたりする吐出側の弁で流量を少しだけ絞る、液面が高い時間帯と比べる、液温が低い時期と比べる
振動の周波数特定の周波数のピークではなく、高い周波数帯が全体的に底上げされるFFTで高周波帯の「ノイズの床」が上がっていないか確認する
分解時の痕跡羽根車の入口付近・弁の下流側にあばた状のエロージョン定期点検で羽根車を外したときに観察・記録しておく

中でも手軽で効果が大きいのが、運転条件を少し変えてみる方法です。キャビテーションは圧力の余裕がわずかに足りないことで起きるため、条件を少し変えるだけで症状がはっきり変わることがよくあります。たとえば、ポンプの吸込側の余裕が足りないことで起きている場合、吐出側の弁で流量を少し減らすと、羽根車入口の流速が下がって音が小さくなることがあります。逆に、液温が上がる夏場や、吸込タンクの液面が下がる時間帯に音が大きくなるなら、吸込側の圧力の余裕が不足している可能性が高いと考えられます。

振動の周波数による見分け方は、ポンプ・ファン・コンプレッサー、振動の見方は設備種別でどう変わる?で、羽根の通過による正常な周波数成分(ベーン通過周波数)との違いを詳しく扱っています。FFTグラフの読み方そのものはFFTグラフの読み方を参照してください。

流量を絞って確認するときは、必ず吐出側の弁で行ってください。吸込側の弁を絞ると吸込側の圧力がさらに下がり、キャビテーションを悪化させます。また、設計流量より大きく絞り込むと、前章で触れた小流量域の不安定な流れを招くため、少しずつ変えて様子を見るのが基本です。


5. 余裕を数字で確かめる:有効NPSHと必要NPSH

ポンプの吸込側にどれだけ圧力の余裕があるかは、NPSH(Net Positive Suction Head、正味吸込ヘッド)という考え方で数字にできます。NPSHには2種類あります。

  • 有効NPSH(NPSHa):設置条件から決まる「実際にある余裕」。吸込液面にかかる圧力、液面とポンプの高低差、吸込配管の損失、液温(飽和蒸気圧)で決まる
  • 必要NPSH(NPSHr):ポンプの形式・流量から決まる「ポンプが必要とする余裕」。メーカーの性能曲線に示されている

お金に例えると、有効NPSHは財布の残高、必要NPSHは支払う金額です。残高が支払額を上回っていれば支払いはできますが、残高ぎりぎりでは心もとない、という関係です。そして財布の残高は、液温の上昇やストレーナの詰まりといった条件で、知らないうちに目減りしていきます。

有効NPSHが必要NPSHを上回っていれば、原則としてキャビテーションは起きにくいと判断できます。ただし、メーカーが示す必要NPSHは、一般にキャビテーションの影響で揚程がわずかに低下し始める点として定められています。その値ちょうどの状態では、すでに気泡はある程度発生していると考えるべきで、実際の運用では有効NPSHに十分な余裕を持たせることが大切です。

有効NPSHは、次の式で見積もれます。

有効NPSH =(液面にかかる圧力 − 飽和蒸気圧)÷(密度 × 重力加速度)+ 液面からポンプまでの高さ − 吸込配管の損失ヘッド

※液面がポンプより低い(ポンプが液を吸い上げる)場合、「液面からポンプまでの高さ」はマイナスになります

仮に、こんな状況を考えてみてください。 大気開放のタンクから水を吸い上げるポンプがあり、ポンプは液面より3m高い位置にあります。吸込配管の損失ヘッドは1m、このポンプの必要NPSHは3mとします。

条件圧力ヘッド(液面圧力−飽和蒸気圧)有効NPSH必要NPSH 3mとの比較
液温20℃、ストレーナ清浄(101.3−2.3)kPa ÷(998kg/m³×9.81)≈ 10.1m10.1 − 3 − 1 ≈ 6.1m余裕あり
液温60℃、ストレーナ清浄(101.3−20.0)kPa ÷(983kg/m³×9.81)≈ 8.4m8.4 − 3 − 1 ≈ 4.4m余裕は小さくなる
液温60℃、ストレーナ詰まりで損失ヘッドが2.5mに増加同上 ≈ 8.4m8.4 − 3 − 2.5 ≈ 2.9m必要NPSHを下回る

同じポンプ・同じ配管でも、液温が上がるだけで有効NPSHは約1.7m減り、そこにストレーナの詰まりが重なると必要NPSHを下回ります。財布の例でいえば、「液温の上昇」と「ストレーナの詰まり」という2つの出費が重なって、支払額(必要NPSH)に届かなくなった状態です。どちらか一方だけなら足りていた、という点がポイントです。「冬は問題なかったのに、夏になってから異音がする」「ストレーナ清掃の直前だけ音が大きい」という症状は、こうした余裕の目減りで説明できることがあります。


6. 対策:吸込側の余裕を増やす・弁の圧力の落とし方を変える

対策は、ポンプの吸込側で起きている場合と、弁で起きている場合で考え方が異なります。

対策の方向性具体的な方法効く場所
有効NPSHを増やす吸込タンクの液面を高く保つ/ポンプの設置位置を下げる/吸込配管を太く短くし、曲がりや弁を減らす/ストレーナを定期清掃する/液温を下げるポンプ吸込側
必要NPSHの側を下げる運転点を設計流量付近に戻す(大流量側に振れすぎていないか確認する)/回転数を下げられる設備なら回転数を見直す/必要NPSHの小さいポンプや、吸込性能を高めた羽根車への更新をメーカーに相談するポンプ吸込側
圧力の落とし方を変える1つの弁で大きな差圧を一気に落とさず、弁やオリフィスを直列に配置して段階的に落とす/キャビテーション対策用の弁内部構造(多段減圧形のトリム)をメーカーに相談する調節弁・オリフィス
損傷に耐える羽根車・弁の材質を、エロージョンに強いものに変更する共通(根本対策ではなく延命策)

材質の変更は損傷の進行を遅らせる効果はあっても、気泡の発生そのものは止められません。まず「圧力の余裕がどこで足りていないのか」を特定し、余裕を増やす対策を優先するのが基本です。


まとめ

キャビテーションは、流れの中で圧力が液体の飽和蒸気圧を下回り、発生した気泡が圧力の回復する場所でつぶれることで、振動・騒音・壁面のエロージョンを生む現象です。ポンプの吸込側と、調節弁・オリフィスの下流が代表的な発生場所で、放置すると羽根車のエロージョンによる性能低下や、シール・軸受の劣化、弁や配管の減肉につながります。見分けるときは、音・圧力計・運転条件による症状の変化・FFTの高周波帯の底上げを組み合わせ、有効NPSHと必要NPSHの比較で余裕を数字で確かめます。

📌 この記事のポイント3つ

  1. キャビテーションは、液体が温度ではなく圧力の低下で沸騰し、その気泡がつぶれる衝撃で起きる
  2. 同じポンプでも、液温の上昇・液面の低下・ストレーナの詰まりで余裕が目減りし、ある時期から症状が出ることがある
  3. 対策は材質で耐えるより先に、有効NPSHを増やす(吸込側)・圧力を段階的に落とす(弁側)ことを優先する

💡 次にできること

  • ポンプの吸込口付近と弁の直後で、砂利が流れるような音がしないか聴き比べる
  • 吸込側・吐出側の圧力計の値を、液温や季節と一緒に記録しておく
  • 次の分解点検で、羽根車の入口付近にあばた状のエロージョンがないか確認する

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