振動の話

保温材ありの配管、固有振動数はどれだけ下がる?──質量付加効果と「計算と実測のズレ」

Mon Jun 22

保温材を巻いた配管は、巻く前より揺れにくいのか、揺れやすいのか——保温材は質量を増やすことで固有振動数を下げる方向に働きます。本記事では、保温材の質量をどう計算するか、口径によって影響度がどう変わるか、そして計算だけでは説明できない「ズレ」の正体を、具体的な数値で解説します。

はじめに

「固有振動数を自分で計算してみよう」では、配管本体と内部流体の質量から固有振動数を計算する方法を解説しました。しかし実際の配管には、もう一つ見落とされがちな質量要素があります——保温材です。

「固有振動数は実測で確認できる」では、計算値と実測値がずれる要因として「付加重量(流体・保温材・計装類)」を挙げ、「付加重量が10%増えると固有振動数は約5%低下する」と簡単に触れました。この記事では、その一行を実際の数値まで掘り下げます。

「保温材を巻いたら、固有振動数は具体的にどれだけ下がるのか?」「口径によって影響度は変わるのか?」「計算通りに下がってくれるのか、それとも実測ではもっとズレるのか?」——これらの問いに、具体的な計算例で答えていきます。

💡 この記事で得られること

  • 保温材の質量を計算し、固有振動数への影響を数値で把握する方法
  • 配管口径によって保温材の影響度がどれだけ変わるか
  • 計算だけでは説明できない「ズレ」がなぜ生じるか

1. なぜ質量が増えると固有振動数が下がるのか

vibration7で紹介した固有振動数の基本式を振り返ります。

fn = C / L² × √(EI / m)

固有振動数 fn は、単位長さあたりの質量 m の平方根に反比例します。保温材を巻くと m が増えるため、fn は下がります。ただし、保温材は配管表面に密着しているだけで配管自体の剛性(EI)にはほとんど寄与しないため、この記事では「質量だけが増え、剛性は変わらない」という前提で計算します。

1.1 簡易近似と正確な計算のズレ

vibration8で示した「付加重量が10%増えると固有振動数は約5%低下する」という目安は、質量増加が小さいときに使える近似式です(fn の低下率 ≈ 質量増加率 ÷ 2)。しかし、保温材のように質量増加が大きくなる場合、この近似はズレが大きくなります。

質量増加率 Δm簡易近似(−Δm/2)正確な低下率(1−1/√(1+Δm))
10%−5.0%−4.7%
30%−15.0%−12.3%
50%−25.0%−18.4%
100%−50.0%−29.3%

質量増加が10%程度なら近似でも問題ありませんが、保温材で質量が30〜50%増えるようなケース(後述)では、近似と正確な値の差が無視できなくなります。本記事では正確な式 fn_new = fn_old × √(m_old / m_new) を使って計算します。

2. 保温材の質量をどう計算するか

2.1 計算の考え方

保温材は配管の外側にドーナツ状(円筒の輪)に巻かれます。単位長さあたりの質量は、断面積×密度で求められます。

m_保温材 = (π/4) × (D_保温外径² − D_配管外径²) × ρ_保温材
  • D_保温外径:配管外径+保温厚さ×2 [m]
  • D_配管外径:配管の外径 [m]
  • ρ_保温材:保温材の密度 [kg/m³]
配管+保温材の断面と寸法の関係図。内部流体・配管本体・保温材の3層構造と、配管外径D・保温厚さt・保温外径D'の関係を示す
配管+保温材の断面と寸法の関係図。内部流体・配管本体・保温材の3層構造と、配管外径D・保温厚さt・保温外径D'の関係を示す

2.2 代表的な保温材の密度(目安)

保温材密度 ρ [kg/m³](目安)特徴
グラスウール(パイプカバー)80〜120軽量・安価・吸水に弱い
ロックウール100〜150耐熱性が高く、高温配管に多い
カルシウムシリケート220〜250高温・高強度向けだが重い
発泡ポリスチレン20〜40低温・冷媒配管向け・軽量

同じ厚さでも、保温材の種類によって質量は2〜3倍変わります。カルシウムシリケートを使う高温配管は、グラスウールを使う配管より固有振動数への影響が大きくなる点に注意してください。

2.3 外装材(ラギング)の重量は別枠で考える

保温材の外側にはアルミやステンレスの外装材(ラギング)が巻かれます。一般的な厚さ(0.3〜0.5mm程度)であれば、外装材の質量は保温材本体に比べて小さく、本記事の主計算には含めません。ただし完全にゼロではないため、後述の「ズレ」の一因として扱います。

3. 実際に計算してみよう──保温厚さ別の比較

vibration7の例題(100A・炭素鋼・Sch40・スパン3.0m・水満液、保温なしで fn ≈ 280 Hz)に、ロックウール(密度150 kg/m³)の保温材を追加した場合を計算します。

保温厚さ付加質量 [kg/m]合計質量 [kg/m]fn [Hz]低下率
なし(基準)024.3280
25mm1.625.9271−3.2%
50mm3.928.2260−7.1%
75mm6.731.0248−11.5%
100mm10.134.4235−16.0%
保温厚さと固有振動数の関係を示す折れ線グラフ。100A配管・スパン3.0m・水満液の条件で、保温厚さ0〜100mmに対してfnが280Hzから235Hzまで低下する様子を表示
保温厚さと固有振動数の関係を示す折れ線グラフ。100A配管・スパン3.0m・水満液の条件で、保温厚さ0〜100mmに対してfnが280Hzから235Hzまで低下する様子を表示

保温厚さが増えるほど、固有振動数の低下が大きくなります。100mm厚の保温材では、保温なしと比べて16%もfnが下がります。励振周波数との分離度判定(vibration7の5.2節、API 618基準20%)を考えると、この16%の差は「保温材を考慮するかどうかで判定結果が変わりかねないレベル」の影響です。

4. 口径別の影響度比較──小口径ほど保温材に敏感

保温材の影響は、配管口径によって大きく変わります。配管が太いほど配管本体・内部流体の質量(分母)が大きいため、保温材という「一定の付加質量」が占める割合が相対的に小さくなるためです。

保温厚さ50mm・スパン3.0m・水満液の条件で、口径別に計算した結果です。

呼び径保温なし fn [Hz]保温あり(50mm)fn [Hz]低下率
50A152131−13.8%
100A280260−7.1%
200A500480−4.0%

同じ50mm厚の保温材でも、50A配管は200A配管の3倍以上の影響を受けます。計装配管・小口径の枝管ほど、保温材の質量効果を見落としてはいけないということです。逆に大口径配管では、保温材の影響は相対的に小さく、他の要因(支持条件の不確かさなど)の方が支配的になりやすいといえます。

5. 計算だけでは見えない「ズレ」の正体

ここまでの計算は「乾燥した保温材を、設計通りの厚さで巻いた」という理想的な前提に基づいています。実際の現場では、これに加えていくつかの要因がさらにズレを生みます。

5.1 保温材の吸水による重量増加

外装材の劣化や継ぎ目のシーリング不良で雨水・結露水が保温材内部に浸入すると、保温材は乾燥時よりも重くなります。グラスウールやロックウールは吸水性があり、吸水した状態では本記事の計算で使った密度(乾燥時の目安値)より実際の質量がかなり大きくなっている可能性があります。

吸水は固有振動数をさらに下げる方向に働くだけでなく、保温材下の配管腐食(ピンホールなど)のリスクも同時に高める要因です。重量増加と腐食は同じ原因(吸水)から生じる「セットの兆候」と捉えてください。

5.2 固定バンドによる局所的な拘束

保温材は固定バンドで配管に巻き付けられています。バンドの締め付けは質量を増やすだけでなく、わずかながら配管の局所的な拘束(剛性)を変化させる可能性があります。本記事の計算では「質量だけが増え、剛性は変わらない」と仮定しましたが、実際にはこの仮定からのズレが多少存在します。

5.3 外装材(ラギング)の重量

2.3節で触れた外装材の質量は、本計算には含めていません。配管が大きく、外装材の面積が広いほど、この「未計上分」が無視できなくなる場合があります。

まとめ:保温材関連のズレ要因

要因固有振動数への影響
保温材の質量(本記事の主計算)−3〜−16%(厚さ・口径による)
吸水による重量増加さらに−(計算より大きく低下)
固定バンドの局所拘束質量効果と相殺する方向にわずかに働く可能性
外装材の重量未計上分として上乗せ(通常は小さい)

vibration8で解説した「計算値と実測値のずれ±30〜50%」のうち、保温材だけで最大16%程度(本記事の計算例)を説明できることになります。残りのズレは支持条件・経年変化・温度など、他の要因と合わせて評価する必要があります。

6. 現場での判断ライン・対策

6.1 設計・計算時に保温の有無を必ず入れる

固有振動数を計算するときは、「保温材ありの状態」を前提に計算してください。保温材を巻く予定の配管を「裸管」で計算すると、実際よりも高いfnが算出され、共振リスクを過小評価してしまいます。

6.2 後付け保温・保温材の仕様変更には要注意

既設の裸管に後から保温材を追加する改造(断熱性能向上、凍結防止など)を行うと、固有振動数が当初の評価より下がります。とくに小口径配管(4節で見た通り影響が大きい)に保温を追加する場合は、再計算をおすすめします。

6.3 老朽化した保温材は重量変化のサインを見る

定期点検で保温材の外装材に垂れ下がり・たわみ・シーリング劣化が見られる場合、吸水による重量増加が進んでいる可能性があります。vibration8で紹介した実測手法(ハンマリング試験・常時微動測定)で、計算値とのズレを定期的に確認することが望ましいです。

7. まとめ

保温材は配管の質量を増やし、固有振動数を下げます。影響の大きさは保温材の種類・厚さ・配管口径によって変わり、特に小口径配管では無視できないレベルになります。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 保温材の質量は fn ∝ 1/√m で効いてくる:100mm厚のロックウールで固有振動数は最大16%程度低下する
  2. 小口径配管ほど保温材の影響が大きい:50A配管は200A配管の3倍以上、影響を受ける
  3. 計算は出発点に過ぎない:吸水による重量増加・固定バンドの拘束など、計算だけでは説明できないズレが現場には存在する

💡 明日から現場でできること

  • 保温材ありの配管を計算するときは、保温材の質量を必ず含める
  • 小口径・計装配管に後付け保温をする予定があれば、固有振動数を再計算する
  • 老朽化した保温材は外装材の劣化・たわみをチェックし、重量増加の兆候を見逃さない

📐 計算方法の基本はこちら

保温材を含まない基本の計算方法(簡易式・Excel活用法)は、こちらで詳しく解説しています。

👉 固有振動数を自分で計算してみよう:簡易式とExcel活用法

🔧 計算値と実測値がずれる理由はこちら

保温材以外のズレ要因(支持条件・経年変化・温度)と、実測の3手法(ハンマリング試験・常時微動測定・打音検査)はこちらで解説しています。

👉 固有振動数は実測で確認できる──現場で使える測定手法とその選び方

🔩 サポート本数による対策はこちら

保温材とは別の角度から固有振動数を変える「サポート本数」については、こちらで本数別の感度と励振周波数ごとの判定方法を解説しています。

👉 サポートを何本追加すれば共振を避けられる?──本数別・感度シリーズ

⚖️ 対策をまとめて比較するならこちら

質量付加(本記事)が有効なケースと不向きなケースを、サポート追加・剛性低下・回転数変更・減衰材と並べて計算で比較しています。

👉 固有振動数が共振しそうだとわかったら──対策ごとの効果を計算で比較する

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