保全の話

CBMの始め方──対象設備・監視項目・センサーの選び方と、基準値の決め方

Mon Nov 02

設備の状態が劣化して故障に至るまでのP-F間隔(兆候が測れてから機能を失うまで)を帯で示し、月1回の点検は帯の中に3回当たり、半年に1回の点検は当たる確率が約46%であることを比べた図

CBM(状態基準保全)は、考え方を知ったあとに「で、うちは何から始めるのか」で止まりやすい手法です。対象設備の選び方、何を測るか、センサーの選び方、基準値の決め方、そして続ける仕組みまでを、順番に整理します。


はじめに

CBMとは?TBM(定期保全)との違いと現場での使い分け方では、CBMが「時間」ではなく「状態」で保全を判断する考え方であることを整理しました。考え方に納得しても、実際に始めようとすると、次のような疑問が出てきます。

  • 全部の設備を対象にするのか、一部だけでいいのか
  • 振動・温度・電流など、何を測ればいいのか
  • センサーは常に付けておくのか、巡回で測るのか
  • 「異常」の線引きをどこに置くのか

この記事では、考え方の説明は最小限にとどめ、始めるときに決めることを順番に整理します。

この記事は、CBMを導入したい、または導入したものの運用が定着していない、中小製造業の保全担当者・設備管理者の方に向けて書かれています。

💡 この記事で得られること

  • CBMが成立する条件と、点検の間隔を決める考え方(P-F間隔)
  • 対象設備と監視項目の絞り込み方
  • 巡回と常時監視、センサーを選ぶときの判断軸
  • 基準値の決め方と、続けるための管理の回し方

1. CBMが成立する3つの条件

CBMは、どの設備にも効くわけではありません。次の3つがそろって、はじめて成り立ちます。

  1. 劣化に兆候がある:突然壊れるのではなく、壊れる前に振動や温度などが変化する
  2. その兆候を測れる:測れる物理量があり、現実的なコストと手間で測定できる
  3. 兆候から故障までに時間がある:兆候に気づいてから、対処する猶予がある

特に3つ目が重要です。ここで使われる考え方がP-F間隔です。劣化の兆候が測定で見つかる時点を「P(Potential failure)」、機能を失って故障になる時点を「F(Functional failure)」とし、PからFまでの時間をP-F間隔といいます。

仮に、こんな状況を考えてみてください。 ある設備の軸受で、振動に兆候が出てから故障するまでの間隔(P-F間隔)が約12週間だったとします。

点検の頻度12週間の間に点検が当たる確率の目安結果
半年に1回(26週ごと)12 ÷ 26 ≒ 約46%半分以上は、兆候が出ていても気づかないまま故障する
月に1回(4週ごと)12 ÷ 4 = 3回の機会兆候のうちに3回、チャンスがある
週に1回12回の機会余裕を持って対処できる

点検の間隔が兆候の出ている期間より長いと、測っているのに見つからないことが起きます。点検の間隔は、P-F間隔より短くする必要があり、目安としてP-F間隔の半分程度以下にするという考え方が一般に使われています(リスクが高い故障モードでは、さらに短くすることもあります)。

逆にいえば、P-F間隔が数日と短い劣化や、予兆がほとんどない故障(電子部品の突然の故障など)は、月1回の巡回測定では捉えられません。CBMが向かない部分は、TBMや事後保全に任せる判断も必要です。


2. 対象設備を絞る

最初から全設備を対象にすると、測定の手間が運用の限界を超え、続かなくなります。次の2つの軸で絞り込みます。

軸見るポイント
重要度止まったときの影響(生産停止・安全・品質・代替の有無)
兆候の出やすさ回転機械(ポンプ・ファン・モーター・コンプレッサー)や配管など、振動や温度に変化が出る設備か

重要度が高く、兆候が出やすい設備から始めます。重要度の評価は、RBM(リスク基準保全)とは?で紹介したABC分析の考え方がそのまま使えます。まず、Aランクの中の数台で十分です。


3. 何を測るかを決める

測る物理量は、「対象設備の故障モード」から逆算して選びます。センサーや計測器を決めてから、何を測るかを考える順番にはしません。

設備・部位主な故障モード測る物理量の候補
ポンプ・ファン・モーターの軸受摩耗・損傷、潤滑不良振動、温度
回転機械全体アンバランス、ミスアライメント振動
モーター過負荷、絶縁劣化電流、温度
配管共振による振動、サポート不良振動
潤滑油を使う設備汚染、劣化油分析

どの技術が、どの故障モードに強いのかの詳細は、設備診断技術の全体像で整理しています。最初は1つの物理量(多くの場合は振動)に絞るのが現実的です。複数を同時に始めると、データが増えるだけで判断が追いつかなくなります。


4. 巡回か常時監視か、センサーをどう選ぶか

測り方は、大きく2つに分かれます。

巡回測定(ポータブル)常時監視(固定設置)
測り方人が決めた頻度で、設備を回って測るセンサーを設備に取り付け、継続的に測る
向く設備劣化がゆっくり進む設備(P-F間隔が数か月以上)劣化が速い、止められない、人が近づけない設備
初期コスト小さい台数が増えると大きくなる
手間測定の手間が人にかかる測定の手間は少ないが、設置・保守が必要

選ぶ軸は、前の1章で出てきたP-F間隔です。P-F間隔が長い設備は巡回で十分で、短い設備だけを常時監視にします。重要な設備ほど常時監視、と決めてしまわないことが、コストを抑えるポイントです。

センサーや測定器を選ぶときは、次の5点を確認します。

  1. 測りたい現象に合っているか:測定できる周波数の範囲や測定レンジが、対象の故障モード(低速の不釣り合いから、高い周波数の軸受損傷まで)に合っているか
  2. 取付けの再現性:取付け位置・方向・固定方法が変わると値が変わる。毎回同じ条件で測れるか
  3. 設置環境:温度・粉塵・水・防爆の要否など、設置する場所の条件に耐えるか
  4. データの扱い方:手書きの記録か、アプリ・システムへの保存か。後で比較できる形で残るか
  5. 全体のコスト:本体の価格だけでなく、台数×測定点数、設置工事、運用の手間まで含めて見積もる

最初は、安価な巡回測定で始め、運用が回ることを確認してから、必要な設備だけ常時監視へ広げる順番が、失敗が少ないやり方です。


5. 基準値を決めて、管理を回す

CBMの価値は、測ることではなく、測った値から動くことにあります。そのための管理を、4つに分けて整理します。

CBMの管理の回し方:ベースラインを取り、基準値を決め、測って記録し、基準値と比べて判定し、正常・注意・警戒ごとに動き、四半期ごとに振り返って基準を見直す業務フロー
CBMの管理の回し方:ベースラインを取り、基準値を決め、測って記録し、基準値と比べて判定し、正常・注意・警戒ごとに動き、四半期ごとに振り返って基準を見直す業務フロー

5.1 ベースラインを取る

まず、設備が健全なときの値(ベースライン)を取ります。新設・オーバーホール直後・調整直後が適したタイミングです。ベースラインがないと、「今の値が高いのか普通なのか」を判断できません。

5.2 注意と警戒の2段階で、基準値を決める

基準値は、ベースラインからの変化率で決めると運用しやすくなります。仮に、ベースラインが2.0mm/s(rms)の設備なら、 次のように置けます。

レベル目安数値例取る行動
注意ベースライン +25%2.5mm/s測定頻度を上げ、傾向を見る
警戒ベースライン +50%3.0mm/s原因調査と、点検・修理の計画を立てる

この割合は規格で定められた値ではなく、現場で運用しやすくするための目安です。設備の特性や過去のトラブルに応じて調整してください。回転機械の絶対的な評価(許容できる振動の大きさ)は、ISO 20816などの規格を併用します(ISO 20816に沿った評価、何から始める?、振動の許容値はどう決める?)。

5.3 記録して、傾向で見る

1回の値だけでは、一時的な変動か、本当の悪化かを見分けられません。時系列で記録し、傾向で判断します(振動データの傾向管理をエクセルで実践する、傾向管理と違和感の可視化)。

5.4 誰が、何をするかを決めておく

基準値を超えたときに「誰が確認して、誰が判断するのか」が決まっていないと、数値が上がっても放置されます。判断と責任の決め方は、点検〜修理の判断と責任を明確にする方法で整理しています。

さらに、基準値は一度決めたら終わりではなく、定期的に見直します。注意が頻繁に出て、結局は問題がなかった(空振り)なら基準が厳しすぎます。逆に、警戒に気づかないまま故障した(見逃し)なら緩すぎます。四半期に1回程度、空振りと見逃しを振り返って調整します。


6. よくある失敗

失敗なぜ起きるか対策
全設備に一度に始める手間が運用の限界を超えて、測定が止まるAランクの数台から始める
ベースラインを取っていない「普段の値」が分からず、判断できない健全なときの値を最初に記録する
測るだけで、行動が決まっていない基準値と担当が不明で、数値が放置される注意・警戒ごとの行動と担当を先に決める
センサーの導入が目的になる何を判断したいかが曖昧なまま機器だけが増える故障モードから逆算して、測る物理量を決める
基準値を放置する空振りが続いて、誰も見なくなる四半期ごとに空振りと見逃しを振り返る

まとめ

CBMは、劣化に兆候があり、測れて、故障までに時間がある設備に向いた手法です。始めるときは、重要度が高く兆候の出やすい設備を数台に絞り、故障モードから逆算して測る物理量を決め、巡回か常時監視かをP-F間隔で選びます。そして、ベースラインから注意・警戒の基準値を決め、判断する人と行動を決めておくことが、続けるための鍵です。

📌 この記事のポイント3つ

  1. 点検の間隔は、兆候から故障までの時間(P-F間隔)より短くする。長いと、測っても見つからない
  2. 設備は絞る、物理量は故障モードから決める、センサーは巡回から始めて必要なものだけ常時監視へ
  3. 基準値(注意・警戒)と、超えたときの担当・行動を先に決め、定期的に見直す

💡 次にできること

  • 設備リストから、重要度が高く回転機械である設備を3〜5台選ぶ
  • その設備の過去の故障について、兆候が出てから故障までにどれくらいの期間があったか、思い出して書き出す
  • 今月の値をベースラインとして記録しておく

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