配管の振動シリーズ第4弾は「脈動」です。往復動のコンプレッサーやポンプが配管に送り込む圧力の波が、どのように配管を揺らすのか。配管の中で気体が「笛」のように共鳴する現象も含めて、原因・見分け方・対策の考え方を整理します。
はじめに
配管の振動、原因は共振だけじゃないで紹介したとおり、脈動は、ピストンが押す・引くを繰り返す往復動機器がつくる、周期的な圧力変動です。往復動コンプレッサーの吐出配管が運転中ずっと細かく揺れている、小口径のドレン管やゲージ配管だけが何度も折れる、といったトラブルの背景には、この脈動が関わっていることが少なくありません。
厄介なのは、配管の側をいくら調べても原因が見つからないことがある点です。サポートの位置も固有振動数も問題なさそうなのに揺れる。その場合、揺らしているのは配管の外ではなく配管の中の気体そのものかもしれません。この記事では、脈動が生まれる仕組みから、配管内の気体が共鳴する現象、見分け方、対策の考え方までを整理します。
この記事は、往復動コンプレッサーや往復動ポンプを持つ工場で、配管の振動・疲労破損の原因を切り分けたい保全担当者・設計者の方に向けて書かれています。
💡 この記事で得られること
- 往復動機器が配管に「脈動」を生み出す仕組みと、励振周波数の計算方法
- 配管の固有振動数とは別に、配管内の気体が共鳴する「気柱共鳴」という現象
- 小口径配管が壊れやすい理由と、現場での見分け方
- 脈動ボトルなど、対策の方向性の整理
1. 脈動はなぜ生まれるのか
遠心ポンプやファンは、羽根車が回り続けるので、流れはおおむね連続しています。一方、往復動コンプレッサーは、ピストンがシリンダーの中を行き来し、吸い込む→圧縮する→吐き出すを繰り返します。吐き出す瞬間にだけ気体が押し出され、ピストンが戻る間は吐出が止まるので、吐出配管には「ドン、ドン、ドン」と一定のリズムで気体の塊が送り込まれることになります。
身近な例なら、手動の空気入れです。ハンドルを押した瞬間だけ空気が出て、引いている間は出ません。ホースの先で空気の勢いを感じると、一定の間隔で強弱があります。これと同じことが、コンプレッサーの吐出配管の中で、毎秒何十回という速さで起きているのです。
この「流れの強弱」は、配管内の圧力の上下として現れます。これが脈動(圧力脈動)です。配管内の気体は、この圧力の波に押されて配管を揺らします。曲がり部(エルボ)やT字管、閉止されたフランジなど、流れの向きが変わる場所では、圧力の波が配管を押す力が強く働きます。
用語の補足:脈動は、遠心ポンプの羽根がケーシングの舌部を通過するときの圧力変動(ベーン通過周波数)とは性質が異なります。後者は羽根の枚数で決まる正常な成分で、似ているけど実は別物で整理しています。
ロータリー系(ねじ・ベーン・ルーツなど)の機械でも、吐出が区切られるために脈動は生じます。ただし一般に周波数が高く振幅も小さめで、吐出側にサイレンサーが付くことも多いため、配管の共振が問題になるのは往復動が中心です。ルーツブロワなどでは、同様の注意が必要な場合があります。
2. 励振周波数を計算してみる
脈動の周波数は、圧縮機の回転数から計算できます。クランク軸が1秒間に回る回数(回転周波数)は「回転数[rpm] ÷ 60」で、これが脈動の基本の周波数です。
ただし、実際に配管へ出てくる成分は、シリンダーの形式で変わります。
- 単動シリンダー(ピストンの片側だけで圧縮):クランク軸1回転につき吐出1回なので、回転周波数の**1倍(1X)**が主な成分
- 複動シリンダー(ピストンの両側で圧縮):1回転につき吐出2回なので、回転周波数の**2倍(2X)**が主な成分
いずれも、そのほかに2倍、3倍、4倍…と、整数倍の成分が並びます。なお、実際にどの成分が大きく出るかは、配管の応答や運転方法(アンローダの使用など)でも変わります。
仮に、こんな状況を考えてみてください。 複動式の往復動コンプレッサーが750rpmで運転されているとします。
| 項目 | 計算 | 値 |
|---|---|---|
| 回転周波数(1X) | 750 ÷ 60 | 12.5Hz |
| 2X(複動の主成分) | 12.5 × 2 | 25Hz |
| 3X | 12.5 × 3 | 37.5Hz |
| 4X | 12.5 × 4 | 50Hz |
FFTスペクトルで、12.5Hzの整数倍の位置に規則正しくピークが並んでいたら、脈動由来の振動を疑う有力な手がかりです。これが配管の固有振動数や、次章の気柱共鳴の周波数と重なると、小さな圧力の波でも大きな振動に育ってしまいます。
3. 配管の中の気体も共鳴する──気柱共鳴
ここまでは、励振周波数が「配管の固有振動数」と重なったときの共振(固有振動数が共振しそうだとわかったらで扱った機械的な共振)の話でした。往復動機器の配管では、もう一つ別の共振に注意が必要です。配管の中の気体そのものが共鳴する現象で、気柱共鳴(音響共鳴)と呼ばれます。
イメージは、リコーダーやオルガンパイプです。管の中の空気は、息を吹き込むと特定の高さの音で強く鳴ります。これは、管の長さで決まる周波数で空気の柱が共鳴するためです。配管も同じで、片端が閉じ(あるいは行き止まりに近く)、もう片端が大きな容器につながっている直管の場合、管の長さを L、気体の中の音速を c とすると、共鳴する周波数のうち最も低いものは次の式で見積もれます。
f = c ÷ (4 × L)
端部の条件(両端が閉じている、両端が開いているなど)が変わると、式の係数も変わります。実際の配管はもっと複雑ですが、**「長さの決まった管の中の気体には、長さで決まる共鳴周波数がある」**という感覚が大切です。
仮に、こんな状況を考えてみてください。 先ほどの750rpmのコンプレッサーの吐出側に、長さ3.4mの直管部があり、気体を20℃の空気(音速 約343m/s)と考えます。
f = 343 ÷ (4 × 3.4) ≈ 25.2Hz
この値は、前章で計算した2X(25Hz)とほぼ一致します。つまり、この配管では、配管の固有振動数に関係なく、気体が共鳴して圧力脈動が大きく増幅される可能性があります。
ここで重要なのは、気柱共鳴は配管の構造とは関係なく起きる点です。サポートをいくら追加しても、気体の共鳴は止まりません。 脈動が増幅されれば、その分、配管を押す力も大きくなります。サポートを増やして配管の固有振動数を上げたのに、揺れが残る場合は、気柱共鳴を疑う価値があります。
なお、実際のガスは空気ではなく、圧力や温度、ガスの種類で音速が変わります。この数値例はあくまで考え方の説明用で、実機の気柱共鳴は、配管全体の形状を考慮した脈動解析(音響解析)で評価します。
4. 放置するとどうなるか──小口径配管が壊れやすい理由
脈動による振動は、運転している間ずっと続く周期的な力です。配管の金属は、小さな力でも何百万回、何千万回と繰り返し受けると、疲労で割れていきます。750rpmの複動式なら、1日で約200万回以上の繰り返しです(25Hz × 86,400秒 ≒ 216万回)。
よくあるのが、こんな進行パターンです。
【初期】 配管や架台が細かく揺れ、騒音が出ます。圧力計の針が細かく振れたり、流量計・圧力発信器の値が不安定になったりして、計器の誤作動として気づかれることもあります。
【数ヶ月〜数年】 サポートのボルトの緩み、ガスケットからの漏れ、溶接部のき裂が出始めます。特に壊れやすいのが、本管から枝分かれした小口径配管(ドレン、ベント、計装用の導圧管、ゲージ配管など)です。小口径配管は、先端に弁や計器という重りを付けた「片持ち梁」のような形をしていて、本管の揺れを受けて大きく振れやすく、付け根の溶接部に応力が集中します(片持ち梁形状の固有振動数は片持ち梁配管の固有振動数を計算してみようを参照してください)。
【放置した場合】 溶接部が貫通すると、可燃性ガスや高圧ガスが漏れる事故につながります。本管の疲労き裂に進めば、大規模な漏えいのおそれがあります。
振動の大きさが目立たなくても、繰り返し回数が桁違いに多いため、疲労は静かに進みます。「前から揺れているけど、動いているから」という運用が、いちばん危険です。
5. 現場での見分け方
脈動が原因かどうかは、次の手がかりを組み合わせて判断します。
| 手がかり | 脈動を疑う状態 | 確認のしかた |
|---|---|---|
| 周波数 | 回転周波数の整数倍に、規則正しくピークが並ぶ | 配管の振動をFFTで見て、12.5Hz、25Hz、37.5Hz…のように等間隔か確認する |
| 運転状態との関係 | 圧縮機を止めると振動が消える。負荷や吐出圧力を変えると大きさが変わる | 負荷運転と無負荷運転、吐出圧力の違いで振動を比べる |
| 場所 | ボトル近傍、曲がり部、閉止端、小口径の枝管で目立つ | 配管ルート上の複数点で測り、どこが大きいか地図にする |
| 圧力の測定 | 圧力計や圧力センサーで、圧力そのものが周期的に変動している | 可能なら動的圧力センサー(高速に圧力を記録できるもの)で脈動の大きさを測る |
| 被害の出方 | 小口径配管の付け根、サポート周辺の溶接部に、き裂や緩みが集中 | 点検時に枝管の付け根や支持部を目視・浸透探傷で確認する |
さらに、機械的な共振(配管の固有振動数)なのか、気柱共鳴なのかを切り分けるには、運転条件を変えてみるのが手がかりになります。圧力や温度が変わると気体の音速が変わるため、気柱共鳴の周波数は動きます。一方、配管そのものの固有振動数は、運転条件を変えても動きにくい傾向があります。振動が大きくなる運転条件が、圧力や温度に依存するなら、気柱共鳴の可能性が高まります。
FFTの読み方はFFTグラフの読み方、往復動コンプレッサーの測定点の考え方はポンプ・ファン・コンプレッサー、振動の見方は設備種別でどう変わる?で扱っています。
6. 対策の考え方
脈動への対策は、「①脈動そのものを小さくする」「②気体の共鳴を避ける」「③配管の側を強くする」の3方向があります。
| 対策の方向性 | 具体的な方法 | 補足 |
|---|---|---|
| ① 脈動を小さくする | 吸込側・吐出側に脈動ボトル(バッファとなる容器)を設ける/オリフィスや絞り機構を併用する | 容器の容積が圧力の波を吸収する。サイズと配置の決め方は解析が必要 |
| ② 気柱共鳴を避ける | 配管の長さやボトルの容量・配置を変えて、共鳴周波数を励振周波数からずらす | 音速はガスで変わるため、運転条件の幅で確認する |
| ③ 配管側を強くする | サポートの追加・位置変更で固有振動数を励振周波数から離す/小口径配管にブレース(補強)を付ける/枝管を短くし、先端の重量を減らす | ①②で脈動が残る場合の対策。考え方は固有振動数が共振しそうだとわかったらと同じ |
優先順位としては、励振源に近い側からです。脈動が大きいまま配管を補強するだけでは、疲労が別の場所に移るだけの場合があります。逆に、気柱共鳴で脈動が増幅されている場合は、サポートの追加では止まりません。
規格面では、往復動圧縮機の規格であるAPI 618では、設計アプローチに応じて脈動解析が要求されます。配管の機械的な固有振動数についても、励振周波数から一定の余裕を持たせる考え方が示されています(解説では20%程度が目安として紹介されています)。新設・増設の場合は、設計の段階で脈動解析が実施されているか、結果が運転条件の幅を考慮しているかを確認することが大切です。
すでに運転している設備でトラブルが出ている場合は、まず振動と動的な圧力を実測して「脈動が原因か」を確かめ、必要ならメーカーや専門業者に脈動解析を相談する流れが現実的です。
まとめ
脈動は、往復動のコンプレッサーやポンプが、ピストンの動きに合わせて配管へ送り込む周期的な圧力変動です。周波数は回転周波数の整数倍(複動式なら2倍が主成分)で決まり、これが配管の固有振動数や、配管内の気体の共鳴(気柱共鳴)と重なると、小さな圧力の波が大きな振動に育ちます。運転中ずっと続く力なので、小口径配管の付け根などで疲労が静かに進みます。
📌 この記事のポイント3つ
- 脈動の周波数は回転周波数の整数倍。FFTで等間隔に並ぶピークが手がかりになる
- 配管の固有振動数とは別に、配管の中の気体が共鳴する「気柱共鳴」がある。サポートを増やしても止まらない
- 壊れやすいのは小口径の枝管。対策は励振源(脈動)に近い側から、ボトル→共鳴回避→配管補強の順に考える
💡 次にできること
- 往復動機器の配管で、FFTを取り、回転周波数の整数倍の位置にピークがないか確認する
- 小口径の枝管(ドレン・ベント・計装配管)の付け根に、き裂や緩みがないか点検で見る
- 設計時に脈動解析が実施されているか、図書を確認する
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