SOMPIPE・SOMEQUIPをチームで使う──複数人で測って、振動を数値で比べるやり方
はじめに
「この設備、前より振動が大きい気がする」「ベテランが大丈夫と言っているから大丈夫」。振動の判断が、こうした感覚や特定の人の経験に頼っている職場は少なくありません。
SOMPIPE(配管)・SOMEQUIP(回転機械)は、1人で使ってもその場で判定が出る無料のアプリです。ただ、複数人で同じ手順を使うと、「感覚」を「会社の記録」に変えられます。この記事では、チームで使うと何が変わるのか、どう始めるのか、どこまでをアプリがやってくれて、どこから先が手作業になるのかを整理します。
▶ まだ入れていない方は、先にアプリを見てみる:SOMPIPE(配管の振動診断)/SOMEQUIP(回転機械の振動診断)
💡 この記事で得られること
- 振動の判断が属人化したときに、会社側で起きる困りごと
- 複数人で測って数値で比べるための、3つの手順
- 会社として導入するときの考え方と、正直な限界
1. 企業側でよくある、振動管理の困りごと
まず、チームで使う価値が出てくる場面を整理します。次のような状況は、よくあるケースです。
| 困りごと | 何が起きるか |
|---|---|
| 判断が特定の人に偏る | その人が休む・異動すると、「前はどうだったか」が分からなくなる |
| 人によって測り方が違う | 当てる場所・向き・タイミングが違い、数値を並べても比べられない |
| 基準が人によって違う | 「このくらいなら大丈夫」の線引きが、担当者ごとに違う |
| 設備ごと・拠点ごとに比べられない | どの設備から手を付けるべきか、根拠を持って決められない |
| 費用の説明に根拠がない | 「何となく悪そう」では、修理や点検の予算を説明しづらい |
| 測る頻度が上がらない | 専用の振動計は台数が限られ、数人で順番に使うことになる |
共通しているのは、「測ること」よりも「同じ条件で測り、同じ基準で判定し、残すこと」が難しいという点です。計測器が高価かどうかより、運用の仕組みの問題であることが多くあります。
2. 導入すると、仕事の流れと価値がどう変わるのか
導入前は、測り方も判断も記録も「人」に付いています。導入後は、同じ手順で測り、同じ基準で判定し、結果がPDFで残るので、担当が替わっても続く仕組みになります。SOMPIPE・SOMEQUIPは、どちらも無料でインストールでき、登録も不要です。
会社にとっての価値は、次の3点です。
- 判断のばらつきが減る:SOMPIPEはSwRI評価線図、SOMEQUIPはISO 20816のZone A〜Dで判定します。誰が測っても、同じ物差しで結果が出ます。
- 引き継げる:「大きい気がする」ではなく、振動速度や変位の値、判定結果がPDFレポートとして残ります。過去のレポートと並べれば、新しい担当者も「前回との差」を確認できます。
- 根拠をもって説明できる:「何となく悪そう」ではなく、数値と判定を示して、点検や修理の優先順位を上司や業者と相談できます。
しかも、始める負担は小さいままです。アプリは無料で、計測器を人数分そろえる必要がありません。
ただし、効果が出るのは「手順を揃えて、記録を続けた場合」です。アプリを配るだけでは変わりません。最初の到達点は、たとえば設備3〜5台を、2人で、1か月続けて測り、同じ設備の値を並べて比べることです。次の章で、その進め方を示します。
3. 複数人で使うときの3つの手順
3.1 手順1:測定点と測り方を決める
同じ設備でも、測る人・場所・向きが違えば、値は変わります。まず次を決めて、全員で共有します。
- どの設備の、どの位置を測るか(例:ポンプのベアリングハウジング付近、配管の特定の支持点の近く)
- スマホの向きと当て方(軸の向き、当てる強さ)
- いつ測るか(定常運転中、起動後しばらく経ってからなど)
アプリごとの測り方は、SOMPIPEは現場で試せる!スマホで簡単振動診断のやり方(4章「測定ポイントの選び方と注意点」)、SOMEQUIPは現場で試せる!回転機械の振動診断のやり方(2章「測定準備」)で解説しています。
測定位置を写真に撮っておくと、毎回同じ場所に当てやすくなります。PDFを出力するときに入力する「レポート名称」は、「ポンプ」ではなく「2号館 冷却水ポンプA 吐出側ベアリング」のように具体的に入力すると、後から見返したときに迷いません。「備考」に運転状態(例:通常運転中)を書いておくと、条件の違いも分かります。
測定の誤差が生まれる要因は、技術ブログの振動測定の誤差要因と対策で整理しています。ばらつきの原因を知っておくと、手順を決めやすくなります。
3.2 手順2:判定基準を全員で揃える
SOMPIPEとSOMEQUIPは、診断の対象が違います。配管にはSOMPIPE、ポンプやモーターなどの回転機械にはSOMEQUIPを使います。どちらを使うかも、チームで決めておきます。使い分けはSOMPIPEとSOMEQUIPの使い分けにまとめています。判定結果の読み方は、SOMPIPEは判定画面を読む──SwRI評価線図と4つのゾーンの意味、SOMEQUIPはISO 20816とは?で解説しています。
規格の評価の進め方は、ブログのISO 20816に沿った評価、何から始める?が参考になります。
3.3 手順3:結果を集めて並べる
測定結果はPDFレポートとして出力できます。レポートの使いどころはPDFレポートを使いこなすで紹介しています。
複数人の結果を並べて傾向を見るには、次のような進め方があります。
- 担当者ごとに測定し、PDFレポートを共有フォルダに保存する(ファイル名は「日付_設備名」に統一する)
- 数値をExcelに転記し、時系列で並べる
- 移動平均としきい値で、一時的なばらつきと本当の変化を見分ける
3番目に使えるExcelのテンプレートは、振動データの傾向管理をエクセルで実践するで配布しています。ISO 20816のどの区分に当てはまるかを確認したいときは、ISO 20816とは?の判定シートが使えます。どちらも無料のExcelです(メールアドレスを入力するとダウンロードできます)。
4. 会社として導入するときの考え方
一人ひとりが自分のスマホにインストールする方法でも、使い始めることはできます。会社としてまとめて導入したい場合は、Apple Business Managerのように、組織としてアプリをまとめて取得・配布する仕組みがあります。
具体的な手順や条件は、会社の情報システム担当者と、Appleの公式案内で確認してください。進め方は会社の端末管理の方針によって変わります。
導入するときは、アプリを配る前に、3章の手順1と手順2(測り方と判定基準)を決めておくことをおすすめします。配ってから決めようとすると、人によって測り方がばらばらのまま記録が溜まってしまいます。
5. 正直な限界:集約は手作業になる
ここまで読んで、「結果は自動で1か所にまとまるのか」と思われたかもしれません。正直にお伝えすると、SOMPIPE・SOMEQUIPには、複数人の測定結果を自動で集約する機能はありません。
- 測定結果が残るのはPDFレポートです。アプリ自体に履歴を貯める機能はないため、PDFを保存しておく必要があります
- 結果を集めて並べるのは、手順3のとおり、PDFの共有とExcelへの転記になります
- 対象の設備や担当者が少ないうちは、この手作業で十分に回ります
設備や拠点が増えてくると、PDFの共有や転記が負担になってきます。そうなったときの選択肢として、設備ごとの記録を1か所にまとめて管理する保全管理サービス「Somera」があります。まずは無料の2つのアプリで始めて、手作業がつらくなってから検討すれば十分です。手作業の工数と記録の確実性を自分で見積もる方法は、Excel・PDFでの記録、いつまで続ける?──工数と確実性を自分で見積もって、設備カルテへ移る目安を決めるで解説しています。
まとめ
振動の判断を属人化させないための近道は、高価な機器を買い足すことではなく、同じ条件で測り、同じ基準で判定し、記録を残す仕組みを作ることです。SOMPIPE・SOMEQUIPは無料なので、その仕組みを試すための最初の一歩に使えます。
📌 この記事のポイント3つ
- 振動管理の困りごとの多くは、計測器の性能ではなく「同じ条件で測って残す運用」の問題
- 複数人で使うなら、アプリを配る前に「測定点・測り方・判定基準」を決める
- 結果の集約は手作業(PDFとExcel)になる。設備が増えたら次の手段を検討する
💡 明日からできること
- 管理したい設備を3〜5台選び、測定する位置を写真に撮って決める
- 担当者2人で同じ設備を測り、値がどのくらい違うかを比べてみる
- 結果のPDFを「日付_設備名」のファイル名で、共有フォルダに保存する
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▶ 規格に沿った評価の進め方: ISO 20816に沿った評価、何から始める?──対象機械の特定から判定まで5ステップ
▶ 集めた値を傾向として見る: 振動データの傾向管理をエクセルで実践する──移動平均としきい値の作り方